KADOKAWA社「MF文庫Jライトノベル新人賞」 要点まとめ
参考にさせていただいた記事
要点
※上記記事より抜粋、また本記事「傾向」を参考に記載。
MF文庫Jの新人賞。売上では電撃文庫にも並ぶ規模を誇る
プロデビュー済の作家は応募できず、アマチュア作家のみを対象にしている。新しい才能を発掘しよう、経験が浅い作家でもしっかり育てようという方向性が強い。
応募作の小説技術は他の新人賞よりやや低め。その代わり、企画のパワー、キャラクターの個性など、その人にしか出せない作家性が重要視される。結果として、かなり尖った作品が受賞ラインナップに並ぶことも多い
レーベルとして「男子中高生、10代の読者」にこだわっているのも大きな特徴。主人公が10代の作品や、ラブコメ色が強くノリが軽い作品の受賞割合が高い
年4回開催と応募しやすく、一次選考落選でも評価シートがもらえることもあり、アマチュア作家にとっては狙い目の新人賞
応募要項
▶募集内容
10代の読者が心から楽しめる、オリジナリティ溢れるフレッシュなエンターテインメント作品を募集します。 ファンタジー、SF、ミステリー、恋愛、歴史、ホラーほかジャンルを問いません。
▶作品規定
営利目的で発表されたことのない、日本語で書かれた作品に限ります。 Web応募でご利用できるデータ形式は、テキスト(.txt)、PDF(.pdf)のみです。 (1)梗概 原稿データと同じ書式で1000文字程度。タイトルをご記入いただき、テキスト形式以外の場合は必ず1枚以内にまとめてください。
(2)原稿(応募作品)
・PDF(.pdf)の場合 日本語の縦書きで、1ページ40文字×34行の書式で80〜150ページ。ページ番号は必ず振ってください。 ※MS word(.doc/.docx)、一太郎(.jtd)での受付は行っておりません。必ずPDFに変換してから応募してください。
・テキスト(.txt)の場合 1ページ40文字×34行で換算した際に、80〜150ページとなるように収めてください。 (空白、改行等も文字・行数に含めますので、ご注意ください)
▶応募方法/応募先
応募方法は『Web応募』のみとなります。 他の方法での応募(弊社への持ち込みなど)は受け付けておりません。
▶応募時の会員登録
不要
▶募集期間
~ 2024年6月30日(日)23:59
▶応募資格
不問。ただし、小説家として書籍の出版経験のない新人に限ります。 未成年の方でも応募は可能です。ただし応募にあたっては、保護者(法定代理人。以下同じ)にも本応募要項をお読みいただき、保護者の同意を得たうえでご応募ください。応募完了の時点で、本応募要項を契約の内容とすることにつき、保護者の同意も得ているものとして取り扱われます。 本賞への応募時点で、すでに書籍の出版が確約された他賞を受賞している場合は、小説家デビュー予定とみなし規定違反となりますのでご注意ください。
▶賞
選考は、年4期の締切を設けて予備審査を行い、佳作を選出します。 通期で佳作の中から下記の各賞を選出いたします。
●通期
・大賞 正賞の楯と副賞300万円
・最優秀賞 正賞の楯と副賞100万円
・優秀賞 正賞の楯と副賞50万円
・佳作 正賞の楯と副賞10万円
●各期ごと
チャレンジ賞 各期の予備審査で三次選考通過者の中から、惜しくも佳作には選出されなかったものの、「光る才能がある」と認められた作品について認定し、決定後3ヶ月間に限り毎月2万円を活動支援費として進呈いたします。
▶入選点数
10点未満
▶審査員
志瑞祐先生、鈴木大輔先生、花間燈先生、MF文庫J編集部
▶結果発表
2025年8月頃
◆MF文庫Jライトノベル新人賞 歴代受賞作
【2021年 第17回】
最優秀賞
両生類かえる「泥帽子」
(海鳥東月の『でたらめ』な事情)
優秀賞
佐藤愛染(雨井呼音)「俺の姉は異世界最強の支配者『らしい』」
(お姉ちゃんといっしょに異世界を支配して幸せな家庭を築きましょ?)
審査員特別賞
かつび圭尚「ラブ・ゲームはハッカ味」
(問一、永遠の愛を証明せよ。 ヒロイン補正はないものとする。)
【2022年 第18回】
最優秀賞
ムラサキアマリ「のくたーんたたんたんたんたたん」
優秀賞
鵜飼有士(鵜飼有志)「死亡遊戯で飯を食う」(死亡遊戯で飯を食う。)
鳴海雪華「青春ビターテロリズム」(悪いコのススメ)
審査員特別賞
紗冬末(汐月巴)「冷たい新婚の裏事情」(英雄夫婦の冷たい新婚生活)
佳作
古宿ウェリバ(黒鍵繭)「Vのガワの裏ガワ」
ニャンコの穴「オウジクエスト」(未来から来た花嫁の姫城さんが、また愛の告白をしてとおねだりしてきます。)
【2023年 第19回】
最優秀賞
滝波酒利「マスカレードコンフィデンス」(マスカレード・コンフィデンス 詐欺師は少女と仮面仕掛けの旅をする)
優秀賞
及川輝新「偶像サマのメシ炊き係!」(俺の背徳メシをおねだりせずにいられない、お隣のトップアイドルさま)
三船いずれ「青を欺く」
審査員特別賞
夜方宵「探偵に推理をさせないでください。最悪の場合、世界が滅びる可能性がございますので。 」
佳作
眞田天佑「不確定性青春」(多元宇宙的青春の破れ、唯一の君がいる扉)
改太(優汰)「この恋、おくちにあいますか?」(この恋、おくちにあいますか? 〜優等生の白姫さんは問題児の俺と毎日キスしてる〜)
◆KADOKAWA社が行っているほかの文学賞の直近回受賞作
角川春樹小説賞
第16回角川春樹小説賞
『真令和復元図』 桜田 光
電撃大賞
第30回電撃大賞
大賞
『魔女に首輪は付けられない』夢見大蛇之介(夢見夕利)
『竜胆の乙女 / わたしの中で永久に光る』 fudaraku
金賞
『歪み絶ちの殺人奴隷』 那西崇那
メディアワークス文庫賞
『残月ノ覚書 ―秦國博宝局心獣怪奇譚― 』羽洞はる彦
銀賞
『億千CRYSTAL』 長山久竜
『簡単なことだよ、愛しい人』柳之助
選考委員奨励賞
『Bloodstained Princess』 畑リンタロウ
『フィギュアのお医者さん』奈々宮熊財(芝宮青十)
『偽盲の君へ、不可視の僕より』にのまえあきら
小説 野性時代 新人賞
第15回〈小説 野性時代 新人賞〉
『海賊忍者』諏訪宗篤(すわ・むねあつ)
『みずもかえでも』関 かおる(せき・かおる)
角川文庫キャラクター小説大賞
第9回 角川文庫キャラクター小説大賞
『王は銀翅の夢を見る』佐木真紘
横溝正史ミステリ&ホラー大賞
北沢 陶「をんごく」
編集側コメント
上記より抜粋。めちゃくちゃいい内容なので普通に多くの人に読んでほしい。
※2011年の記事です。
『聖剣の刀鍛冶』(著:三浦勇雄)、『ゼロの使い魔』(著:ヤマグチノボル)など多数の人気作品を生み出し、学院卒業生の野島けんじさんも『きゅーきゅーキュート!』シリーズを現在刊行中のMF文庫J。数あるライトノベルレーベルの中でトップクラスの人気を誇っています。その編集をされている神長敬祐氏が、批評会の前に特別講義を行ってくださいました。
■「売れる作品」とは
今ライトノベルで一番大きいタイトルは「アクションもの」「バトルもの」だと思うのですが、かたや日常系の作品が売れたりしているので、必ずしもそれが絶対売れるみたいなジャンルはありません。月間100冊近くライトノベルが出ている中で、読者は自分のお財布と相談をしながらライトノベルを買っているので、100冊全部買えるわけではないですし、1ヶ月に多くても3冊とか4冊、もっと買う人なら10冊くらい買うと思います。でも100冊中10冊だったら90冊は全部切り捨てられてしまうということですから、その作品ならではの魅力みたいなのが無いと、読者には届かないのではないかと思います。
ライトノベルだけではなく、映画、アニメ、ドラマ、他の一般の小説など日々いろんな所にアンテナを張って、今読者に何が受け入れられているのかを常に模索し続ける事が大事なのではないかと思います。
■新人賞について
よく「オリジナリティを求めて書いてみました」といった、すごく奇をてらったものが新人賞で投稿されてきたりしますが、奇をてらっているだけですごい外していたりします。ベースに『敵対自分』みたいな構図がある中で、変わった設定を盛り込むっていうのならいいのですが、ぐちゃぐちゃで効果をなしていないという作品も新人賞ではよく見受けられます。
基本は基本として外さず、アイデアはアイデアとして常に持ち続けるという姿勢が必要なのではないかと思います。これはMF文庫Jの新人賞を審査する私からの意見なので、他社さんや他の編集さんがどういう風に考えているかというのはわからない部分ではありますが、少なくともそういう見方をしている編集もいるという風に思ってくれるといいかなと思います。
結局アイデアだけの塊というのは自己満足でしかない部分がすごく大きいと思うので、そのアイデアをいかにして読者に届けるかという所を常に意識しながら執筆活動にいそしんでもらうといいのではないでしょうか。それが新人賞に通りやすいというわけではないですが、眼に留まりやすくなると思います。奇をてらいすぎる作品よりもしっかりとした基礎のある作品のほうが眼に留まりやすいということだけは言えると思います。
■ラブコメ、恋愛系の作品について
MF文庫Jの読者の8割から9割は男性です。恋愛経験が多くても男の子は女の子の気持ちがあまりわからないから、喧嘩になったり、怒らせたり、泣かせたりみたいなドラマでよく描かれるようなことがあるわけです。
男性が憧れるシュチュエーションなんて、実際はほとんど起こりえないことだと思うのですが、でも夢としては皆持っているはずだと思います。そして、それを叶えてあげるのが小説なので、そういう意味ではちょっとエッチだったり、女の子といちゃいちゃ出来るみたいな話というのは、男性諸君が持っている夢を叶えてくれているため受け入れられやすい現状があると思います。とは言え、恋愛だけではなくバトルやハイファンタジーな作品があるのも今のライトノベル業界です。
しかし、普遍的に皆恋はしたいと思うので、ずっと残っていく分野であると思いますから、その辺は意識してやってみるといいのではないでしょうか。結局は読者が興味を持てるテーマを選べるかどうかというのがすごく大切になってきます。恋愛やファンタジーでも、それが読者に本当に受け入れられると思うのであればそこに向かって突っ走っていくのはありです。すべては読者のためにあるという考えの作品作りに取り組めると、出版社としてはうれしいです。
ラブコメ、ハーレムものが多いのは、結局は今恋愛みたいなものが読者に受けていると思うからです。ただし、新人賞が「萌え」や「ハーレムもの」が来るのを望んでいるかと言われたら、正直面白ければ何でもいいということになります。ただ、ずっと言っていますが、「読者に喜ばれるかどうか」というところが基準になっているので、まずは、歴代のうちの受賞作を読んみてください。
萌え、ハーレムモノのラブコメとかが受賞作の中にあることもありますし、青春モノが受賞していることもあります。
MF文庫Jとしても色々なものを目指していきたいと思うので、皆さんが面白いと思える作品をどんどん投稿してきていただいて、ぜひデビューしてもらいたい、と思います。
■最後に
それぞれみなさん書きたい作品というのが必ず一つはあると思います。絶対これを書いてデビューしたいという思いが。ただ、それだけにとらわれた狭い視野を持つだけではなく、もう少し世界を広げ、いろいろなものに目を向け、「どうしたら自分が書きたいものが読者に受け入れられるだろうか」をしっかり考えることを忘れずに、これから作家を目指して頑張って頂ければと思います。
ただ書くだけではつまらない。せっかく自分の作品を書いたんですから、いろんな人に読んでもらい、いろんな人に褒め讃えてもらいましょう。その中で、多くの人に読んでもらうために必要な何かが見えてくると思うので、そこを常に模索し続けてほしいと思います。頑張ってください。
受賞者コメント
参考記事❶:及川輝新様のNote
(中略)
小説の執筆歴は13~4年くらいです。普段は作家のほかにライターとして活動しており、コラムの執筆や校正なども行っています。
元々ライターを志していたため、学生時代は学内新聞を発行する団体に所属していました。小説を読むようになったのもその頃です。当時勤めていたバイト先の隣が本屋だったので、シフト前に巡回して気になった本を購入する…というのがルーティーンでしたね。ライトノベルに限らず純文学やエッセイなど、興味のあるものは手あたり次第読んでいました。
――学生時代から書く・読むの両方を習慣にしていたんですね。ちなみにライトノベルの中だと、お気に入りの作品は何ですか?
『涼宮ハルヒ』『文学少女』『ココロコネクト』『とらドラ!』など、2000年~2010年代の青春ものが好物です。櫛枝実乃梨は俺の嫁。あとライトノベル判定かは微妙ですが、滝本竜彦さんの『ネガティブハッピー・チェーンソーエッヂ』が好きで、何度も読み返しました。
――元々はライター志望とのことですが、及川先生が小説を書き始めたきっかけは何だったのでしょうか?
大学時代から習慣的に小説を読むようになって、数を重ねていくうちに「自分でも書いてみたい」と思い、見よう見まねで書いてみたのが始まりです。私は若者の葛藤や成長を描きたかったので、10代の少年・少女が登場するライトノベルという形式を選んだのは自然な流れでした。
あと、あわよくば学生時代にデビューして、就職を回避したいという下心もありました(笑)。当然そんなうまくいくはずもなく、普通に就職したわけですが。新卒の就活ではライターにもなれず、事務職に就きました。4年ほどその会社で働き、ライターにジョブチェンジして現在にいたります。その間も小説は書き続けていました。
――仕事で文章を書きつつ、小説の執筆も続けていたんですね。応募先にMF文庫Jを選んだ理由は何ですか?
理由は大きく2つあります。ひとつは本作がMF文庫Jのメインターゲットである、10代に向けて書くことを強く意識した作品だからです。
もうひとつはモチベーション的な理由ですね。私が応募したのは第1期(6月30日締切)で、秋頃に選考結果が出るスケジュールとなっていました。当時はほかにも色々な新人賞に応募していたのですが、私が応募する賞は締切が冬もしくは春に集中しており、毎年秋頃になると選考待ちのストックが切れてしまい、気分が落ち込みがちでした。そこで第1期に応募することで秋の結果発表を楽しみにしつつ、下半期の執筆モチベーションを高めるという狙いがありました。
正直、受賞できるとはまったく思っていなくて、「チャレンジ賞※」をもらえたらラッキー…くらいの気持ちでした。
(中略)
――それでは「優秀賞」を獲得した受賞作、『俺の背徳メシをおねだりせずにいられない、お隣のトップアイドルさま』がどんな物語なのかを教えてください。
本作は、料理が得意でおせっかいな高校生・鈴文と、彼の隣人である人気アイドル・優月との間で繰り広げられる「メシ堕ちバトル」が主軸となるラブコメです。
鈴文はお手製の“背徳メシ”で、優月の過度な食事制限を止めさせたい。それに対し優月は、握手や目覚ましボイスなどの“アイドルムーブ”で鈴文をファンにオトすことにより、自分の言うことをきかせたい(食事を振る舞うのを止めさせたい)。両者プライドをかけて戦いを繰り広げる中で、相手の価値観や人間性を知り少しずつ距離を縮めていく…というストーリーになっています。
――導入で主人公とヒロインが対立するラブコメは多いですが、グルメ×アイドルは珍しいですよね。物語の着想はどこから得たのでしょうか?
私は主人公とヒロイン、1対1の関係をじっくり描いていくのが好きなので、それを際立たせるために対決構造を取り入れました。グルメとアイドルを題材にしたのは、どちらも私が好きだったからです。
父が調理師だったので私は幼い頃から料理への関心が強く、自分でもよく台所に立っていました。アイドルに関しては学生時代、ハロプロの大ファンで、中でも『モーニング娘。』のコンサートには数えきれないほど参戦しました。
――ご自身の経験が作品づくりに活かされているのですね。作中には豚丼やラーメン、お好み焼きなど数々の背徳メシが登場します。グルメシーンを描く際はどのようなことを意識されていたのでしょうか。
小説におけるグルメシーンは、漫画や映像に比べるとどうしてもインパクトが弱くなってしまいます。読んでいる方に料理の魅力が伝わるように心掛けると同時に、“ただのグルメ紹介”にならないよう、食事をしているキャラの表情や仕草、食リポにも力を入れました。
――確かに優月の食事シーンはインパクト抜群ですね。
鈴文と出会う前までの優月は極端なほどの食事制限をしており、日々のメニューは豆腐バーやサラダチキンなど低カロリーなものばかりです。だからこそ背徳メシに屈した瞬間のギャップがすさまじいというか、自然とああいうリアクションになりました。
――改めて、本作の見どころや注目してほしい点を教えてください。
本作は「メシ堕ちラブコメ」と銘打っているように、グルメとラブコメの双方に力を入れています。ただ「おいしい・かわいい」だけでなく、青春もの・アイドルものとしてストーリーもしっかり練っているので、そこにも注目していただければと。
参考記事❷:ラノベニュースオンライン様
――まずは自己紹介からお願いします。
はじめまして。滝浪酒利と申します。出身は長野県北部で、静岡県で学生時代を過ごした後、現在は愛知県に住んでいます。執筆歴は受賞の連絡をいただいた時点で4、5年ほどだったかと思います。好きなものはペンネームの由来にもなっているんですが、お酒とお金です(笑)。趣味は漫画やアニメ、ゲーム、読書などです。特にフロム・ソフトウェアの作品が好きで、『アーマード・コアVI』は発売からずっと遊んでいます。ライトノベルだと中村恵里加先生の『ダブルブリッド』、細音啓先生の『黄昏色の詠使い』、秋田禎信先生の『魔術士オーフェン』シリーズなどが好きです。最近ハマったことですと、ベストセラー祈願でバンジージャンプに挑戦したのですが、飛んでいる最中にアドレナリンが溢れ出す感覚が癖になりました(笑)。機会があればまた行くかもしれないです。
――ゲームやライトノベルなど日ごろから様々なエンタメコンテンツに触れられているようですが、執筆活動を始めたきっかけは何だったのでしょうか。
すべては大学生の頃に『装甲悪鬼村正』というPCゲームをプレイしたことがきっかけです。個性的な世界観、静と動を使い分けた演出、圧倒的なリアリティで描かれる戦闘、血の通ったキャラクターによって演じられるキレキレのギャグや会話劇……魅力を語りだすとキリがないですね。それらの要素が組み合わさり「善悪相殺」のテーマのもと芸術に昇華されているんですよ。もう、完全に心を奪われました。『村正』は、無気力な学生生活を送っていた当時の私に、「俺もこんな物語をつくりたい!」という初期衝動をもたらしてくれました。だから、私にとって『装甲悪鬼村正』は、物語を書く原動力であり、一生をかけて追いかけ続ける目標になっています。
――『装甲悪鬼村正』の存在は滝浪先生にとって非常に大きなものだったんですね。執筆活動を始めるにあたっては、ゲームシナリオや一般文芸などの選択肢もあったかと思うのですが、なぜライトノベルを選ばれたのでしょうか。「MF文庫Jライトノベル新人賞」に応募した理由についてもあわせてお聞かせください。
創作の場にライトノベルを選んだのは、「『村正』のような物語を書きたい」という私の思いを受け入れてくれそうだと感じたからです。MF文庫Jの新人賞への応募理由はちょっと適当で申し訳ないんですが、「ラノベ 新人賞」と検索した際、検索結果で一番上に出てきたからです(笑)。応募のきっかけこそ適当ではありましたが、初めての投稿作で評価シートをいただいてからは、悔しさと「いつか絶対に面白いと言わせてやるから覚悟しろ」という怨念、もとい熱意を持って作品を送るようになりました。
――その想いが届き、このたび第19回MF文庫Jライトノベル新人賞にて「最優秀賞」を受賞されました。受賞の連絡を受けた時の率直な感想をお聞かせください。
まず、第一期予備審査で「佳作」に選出された旨の連絡をメールでいただきました。職場から車で帰宅しているタイミングで、あまりの嬉しさに車から降りてパーキングブロックを抱きしめたことは今でも覚えています(笑)。その後は担当編集様と改稿を進めながら最終結果の発表を待っていたのですが、原稿に粗が多いことを自覚していたのもあり、上位の賞はほとんど期待していませんでした。なので、「最優秀賞」受賞の連絡をいただいた時は、とても嬉しかったのと同時に率直にびっくりしました。でも「最優秀賞」を受賞したことで、新人賞に投稿していた頃の悔しさや怨念も綺麗に浄化されてくれました(笑)。
――ありがとうございます。それでは受賞作『マスカレード・コンフィデンス 詐欺師は少女と仮面仕掛けの旅をする』はどんな物語なのか教えてください。
本作は金目当ての詐欺師である主人公が、心を読めるヒロインと出会い、二人で旅をしながら自分自身と向き合っていくロードムービー風小説です。付け加えるならば、頭脳バトルものではなく、力で殴り合う能力バトルファンタジーです。
――本作はあらすじなどからも頭脳バトルを連想しがちなのですが、実際はゴリゴリのバトルファンタジーですよね(笑)。派手な能力を持つ強敵を相手に、無能力の主人公がどう戦うかなど、戦闘シーンには強いこだわりを感じました。バトルシーンを描く際にはどのようなことを意識されていたのでしょうか。
主人公のライナスにできるだけ多くの物理的、精神的ダメージを与えることは意識していました(笑)。彼を苦しめてやりたいという一心で、ダメージは痛々しく、敵は強くかつ恐ろしく映るよう丁寧な描写を心がけました。本作のカタルシスは、徹底して痛めつけられ、命の瀬戸際に立たされたライナスが、詐欺師らしく小細工とペテンで窮地を乗り切るところにあると思っています。バトルシーンではいかにこのカタルシスを生み出すかを大事にしています。
――確かにライナスが機転を利かせるシーンは、彼の格好良さが全面に表れていますよね。
ありがとうございます。そもそも私は「強い主人公」が好きなこともあり、本作でも「強い主人公」を登場させたいと考えていました。強い主人公と聞くと、『北斗の拳』のケンシロウみたいに腕力のあるキャラクターや、知略を巡らせ頭脳バトルに勝つキャラクターを真っ先に想像するかと思います。それに対して、「腕力も知力も優れていないけど強い主人公とは、どんなキャラクターなのか」を考える中で生まれたのが、ライナス=クルーガーでした。彼は詐欺師ですが、知力はそれほど高くありませんし、腕力も決して強くはありません。手先が器用で、顔が良く背も高いんですが、それだけでは主人公の武器としては物足りなさがあります。そんな彼の強さは何かというと「アドリブ力」です。物語の都合上、主人公の前に立ちはだかる障害を、その場しのぎで乗り切る力ですね。ひとつひとつの状況を切り抜ける瞬間的な発想力と行動力に関しては、作中最強の人間として描きました。
――「強い主人公」に対する思索からライナスが生まれたとのことですが、本作の物語そのものの着想は何だったのでしょうか。
本作の着想となるアイデアが生まれたのは、就職活動の最中でした。就職面接の場では嘘をついてはいけません。しかし、自身のステータスを包み隠さず話してしまうと、選考を落とされてしまいます。そんなことを考えている際に生まれたのが「嘘をつくときのコツを教えよう。——真実だけを、話すことだ。」という本作のキャッチコピーでした。この言葉の意味については、ぜひ本編を読んで確認してください。私の言わんとしている事を見抜いていただけるかと思います。
(中略)
――ライナスは創作した他者の人生や記憶、感情を自分のモノであるかのように演じることを得意としていましたよね。滝浪先生も物語を書く際は、創作したキャラクターに体をゆだねるような形で書かれていたりするのでしょうか。
いえ……期待外れの回答かもしれませんが、小説のキャラクターは自分自身とは切り離して客観視しながら書いています。とはいえ、キャラクターは私自身の感情や考えを誇張したり、脚色したり否定したりしながら独立させていくイメージで作っているので、完全な他人とまでは言えないかもしれないです。また私は読み手としても、物語と自分自身とを切り分けるタイプらしく、登場人物への感情移入や自己投影もあまりできません。そういった感性も、今後読者の皆様に寄り添う際に必要かと思いますので、頑張って磨いていきたいです。
――なるほど。キャラクターを憑依させるわけではなく、自身の考えを織り交ぜながら、客観的な視点でキャラクターを動かしているんですね。そんなキャラクターたちの中で、特に書きやすいと感じるキャラクターはいましたか。
ライナスが自身の詐欺行為や金に対するポリシーを述べている場面は、かなり筆が乗っていましたね。とんでもねえ野郎だなコイツと思いながら、楽しく書けました(笑)。あとはイヴリーンとパトリツィアの二人が喋っているシーンでしょうか。この二人は思考が単純なこともあり、私自身が深く考えずともセリフを出してくれる非常に書きやすいキャラクターです。書いている内にお気に入りになったキャラクターでもありますね。
傾向
☃Note主のひとこと☃
自分も一次選考を通していただいたことがあります。的確かつ新人育成に重点をおいた評価シートをいただきました。有意義な応募となりまして、とても感謝しています。その時は下記のようなご指摘をいただきました。
状況描写が甘い
展開の既視感が強い
キャラクターが生き生きしていて、掛け合いはテンポが良かった
レーベルの主な読者である男子中高生向けとは言いがたい
この内容から見ても、キャラクターが立っているか/男子中高生向けかどうか はかなり重視されているようですね。
参考記事❶らのきゅー様
※2020年の記事です。
ザ・萌え系。しかしそれだけに留まらず、きちんと話の面白いものも揃っている。傾向としては萌え系ではあるが、それだけではないことも念頭に置いてほしい。募集も必ず萌え系じゃないと駄目とかそういう事はない。
新人賞の評価シートに力を入れており、書き手にとって優しいレーベル。
参考記事❷新田漣様のNote
受賞作の傾向
尖ってる!
ゲスト陣が受賞作を決める選評も『めちゃくちゃ粗いけど俺は好きだ!』『減点方式では0点だけど加点方式では1000点!』のように小説ゴリラみたいな意見(褒めてる)が多く、既存の枠組みをぶっ壊すようなエンタメを描きたい人にはオススメの公募
裏を返せば面白くても手堅く纏まった作品は不利なのかも。書きたい物が明確で、荒々しくても熱量の高い作品が好まれている印象を受けます。また、設定を読むだけでセールスポイントが明確な作品や、個性的なキャラクターが登場する作品が有利?
第18回の最優秀賞『のくたーんたたんたんたんたたん』の選評で、鈴木大輔先生が応募時の梗概を加点要素にしていた
MF文庫Jライトノベル新人賞のまとめ
所感だが『設定だけでも戦えるエンタメ特化の作品』『キャラクター造形に力を入れた作品』が強い
デビュー済みのプロは参加できないのも大きな特色
評価シートは公式ホームページのサンプルしか情報がありませんが、丁寧に、かつズバズバと切り裂いてくれるイメージ。指摘を素直に受け入れる貪欲さと、あくなき向上心を兼ね備えている方に向いている
講評指摘傾向
上記記事の総評部分について、似通った内容をまとめるようチャットGPTに指示したもの。正確性は期待しないよう。
審査員講評の要約
1. 全体の評価とアドバイス
受賞作の特徴:個性があり面白い作品が揃っていたが、全体の数は少なめ。
推敲の重要性:作品応募の段階からの推敲が勝敗を分けた。
スケール感:物語のテーマに合ったスケールを意識する必要がある。
設定の甘さ:設定の練り込み不足が複数の作品で問題となった。
2. 最優秀賞『魔法使いの孤』の評価
作品概要:ジュヴナイル風の魔法をテーマにした作品。
評価点:文章の整理が良く、推敲がしっかりされていた。
課題:ライトノベルの作法に寄せすぎている印象があり、作者自身の方向性をもっと重視すべき。
3. 優秀賞『冬めく。』の評価
作品概要:ポストアポカリプスもの。不死の主人公と死を迎えるヒロインの旅を描く。
評価点:もの悲しい雰囲気を持ちながらも温かみがあるエピソードが好評。
課題:クライマックスの展開が急で、説明不足による感情移入の欠如が見られた。
4. 佳作『ツギハギ事象の欠落人形』の評価
作品概要:人形をテーマにしたバトルファンタジー。
評価点:キャラクターの掛け合いや主人公の戦い方が印象的。終盤のまとめ方も良かった。
課題:設定の甘さや不自然な単語がノイズになり、説得力が低下していた。
5. 今後への助言と激励
技術向上の重要性:弱点の克服と長所の伸長を通じて成長することが求められる。
要点まとめ
各作品は個性的で光る部分があったが、設定の甘さやスケール感の不整合が指摘された。
推敲と物語の完成度が重要で、審査においても大きなポイントとなった。
キャラクターや物語の終盤には好印象が多く、今後の成長が期待されている。
ありがとうございます。おやつ🍫や書籍代にあてさせていただきます。