チョコレートとの距離感で過去と向き合う

思い出したくもない、思い出すと悲しくなったり、怒りがこみ上げたり、いてもたってもいられなくなったりする過去がある。
家族との確執や学生時代の友だちとのいざこざ、社会人になってからの人間関係のトラブル、恋人との悲惨な別れ……。
家庭環境などの自分ではどうにもできなかったことよりも、自分自身が原因で後悔や懺悔の気持ちしかない過去は、思い出したくなくてフタをしてしまっていた。

しかし、そうやって過去にフタをすることで、人と深く関わることを避けたり、本音で人と付き合えなかったり、自分の人生に悪影響を及ぼしていることは明白だった。
その悪影響を自覚していながらも、そこからも逃げて、どうにもできないまま年を重ねてしまった。
でも、このままではこの先の人生でも同じ失敗や過ちを繰り返してしまうし、明るい未来を生きていくことができない。
やっと気づくことができた、というか自覚できたと同時に、「なんとかしたい」と強く思った。

しっかり過去と向き合ってみよう、それでどのような結果になるかはわからないけれど、とにかくやってみよう。

気づくことができたのは、コーチングのおかげだった。
今、コーチングの勉強をしていて、スクールのメンバーとのセッション練習で気づかせてもらったため、コーチングにもそのメンバーにも、本当に感謝している。

さて、過去と向き合うと決意したものの、どうやって過去と向き合ったらいいのだろうと悩んだ。
またコーチングセッションを受けたらいいのか、カウンセリングを受けたらいいのか、はたまた……。
でも、まずは自分ひとりで向き合いたいと思った。
そこで、頼るべきは本の力だ。
今まで何度か読み返している『運気を磨く(田坂広志著、光文社新書)』を思い出し、加えて最近読んだ『悩まない人の考え方(木下勝寿著、ダイヤモンド社)』も力になってくれそうだと思い、改めて2冊を読み返した。

まず、両方の本に書かれている「過去は変えられないが、過去の意味は変えられる」、「過去の解釈を変える」という内容が書かれている部分を繰り返し読んだ。
そして、『悩まない人の考え方』の「時間を決めること」、「書き出すこと」を実践し、過去と向き合うのは1時間と決め、思い出したくない過去を書き出していった。
そのあとは、『運気を磨く』を参考に、書き出した心のしこりとなっている出来事や一人ひとりについて、どうしてしこりになっているのかを静かに、客観的に見つめ、正面から向き合い、一人ひとりに心の中で感謝の言葉を言った。

ここでのポイントは、斜めに構えず正対すること、心が感謝の状態になっていなくても感謝の言葉を述べることだという。
「心身一如」の理によって、感謝の言葉を語ると心の状態が変わり、心がポジティブな方向に変わり始める、とのことだった。
ポイントを踏まえて、しこりが大きい人には何度も何度も感謝の言葉を口にし、1時間どっぷり過去に浸ってみた。

過去と向き合ってみて、ずっと逃げ続けていたことと向き合えた爽快感と、どんどん暗い気持ちになり、胃がシクシクしたり頭や肩も痛くなったりしながらも向き合った自分をほめてあげたい心境になった。
しかし、すっきりしたわけでも、乗り越えられた感覚を得られたわけでもなかった。
もちろん、この1時間で、すべての過去の意味や解釈を変えられるとは思っていない。
それに、私が過去の意味や解釈を変えようと、多くの人を傷つけたり迷惑をかけたりした事実が変わるわけではないことを忘れてはいけないと思った。

ただ、この1時間のおかげで、その後にいい影響をもたらしている。
今までは、嫌な過去の記憶がよみがえると心がネガティブ思考に支配され、ぐるぐるもやもやと嫌なことを考え続けてしまっていた。
そのネガティブ思考を断ち切るために、むりやり違うことを考えたりほかのことに集中しようとしたりするけれど、そこから抜け出せずにもがくことが多かった。

それが、今は嫌な過去の記憶が出てきても、その過去を冷静に見つめて、素直に自分の至らなさを反省できるようになった。
そして、最後に感謝の言葉を心の中で述べるか、実際に口に出して感謝の言葉を言うと、それで気持ちを切り替えられるようになったのだ。
これは日常生活にも活用できて、日常で起こった嫌なことや傷ついたことなどが頭から離れないときに、感謝の言葉で締めくくると、引きずらなくて済んでいる。
大きな過去の後悔や傷ついたことに対してはそれでもうまくいかないこともあるけれど、すぐに心がネガティブに支配されやすかったのが、だいぶ改善されつつある。

そして、気づいたことがある。
過去をチョコレートのように捉え、チョコレートとの距離感で過去と向き合っていくのがいいのではないか、と。

チョコレートは甘いものから苦いものまでさまざまあり、過去も……ということではなく、たんに私はチョコレートが大好きで、私の人生にとって欠かせないアイテムだからだ。
だから、過去もチョコレートのように、いいことも悪いこともどんなに自分が認めたくない部分であっても、すべてが今の私を形成している、私の人生にとって欠かせない一部分だったと思いたい。
今はまだ、すべての過去をそうは思えていないけれど。

そして、私はチョコレートが大好きだからこそ、ほどよい距離感を保つように心がけている。
ほぼ毎日食べるけれど、たくさんは食べない。
メンタルが不安定になると、より多くのチョコレートを求めて食べ過ぎてしまう失敗を繰り返していく中で、ほどよい距離感を学んだ。

過去と向き合うこと、過去との距離感も、ほどよい距離感を保てるようになりたい。
今まで逃げ続けて、記憶から消し去りたかった過去とやみくもに向き合って、心身を病むのは避けるべきだ。
本で学んだ方法を参考に、試行錯誤を繰り返していくうちに、過去とのほどよい距離感を学んでいきたい。

そうしているうちに、過去から学んだことが人生に活きたり、私の経験を伝えることで誰かのお役に立てたり、反面教師にしてもらえたり、そういったいいことが起こるといいと思う。
そして、すべての過去が、チョコレートのように私の人生において必要不可欠なものだと、心から思えるようになる日がくるといいと思う。

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