『夜のある町で』 荒川洋治 著
恐れ多いことを承知で言わせていただくと、荒川洋治氏は、高精度のセンサーを持っている。そのセンセーは、暮らしの中のありふれたこと、人と人とが交わす何気ない遣り取り、果ては物や誌面など、ありとあらゆるものをに反応する。時には盗み見するようにスナップショットする。写真を撮ることに例えてしまったのは、著書を読み進めていくうちに、写真家森山大道が想起されたから。森山大道自身、街中をぶらぶら歩き、あっと感じたものをスナップする。それをセンサーが感じて反応する、と言っていることを思い出した。
荒川洋治のエッセー『夜のある町で』。
こんな一節がある。
著者は、社会という枠組みの中の人間としてではなく、人間個人として捉えようとしている。社会の枠組みからふと外れた瞬間の人間らしさ、味わいようなものを見逃さない。先に、写真家に例えてしまったが、著者の視線はスクープ写真のような獲物を狙う鋭い眼差しではない。
その眼差しは、人の幸福を、喜ぶ顔を見つけたいのだ。それが、高精度のセンサーを持っている所以である。