不機嫌な客
行列なんか並びたくない。
後ろに並んだ奴がやたら間隔を詰めてくることがある。
それだけで不機嫌になる。
例えそうでなくていたって普通の奴が後に並んだとしても、
わたしの不機嫌の度合いが軽減されるわけでもない。
なぜならいざ自分の番になったらなったで、
慣れない画面操作で焦ってしまう。
下手にミスしようものなら後ろに並んでいる人間の数だけの冷たい視線がわたしの背中になんの容赦もなく突き刺さるのだ。
まったく世間は他人に冷たい。
毎回そんな想いでテーブルに付く。
テーブルに付いたら付いたで今度は接客係の態度だ。
接客係はすべてを見ているのだ。
接客態度に出すわけではないが、
むしろ憐れみを含んだ慇懃な対応なのだが、
わたしにはわかる。
去り際の横顔であったり、声の出し方であったり、
わたしには見えるのだ。
他の客に対するそれとの微妙な違いが。
憐れみをよそおってはいるがそれは軽蔑を隠し切れない結果としての憐れみであることを。
溺れた犬に石を投げるようなものだ。
わたしは卑屈になっていじけて接客係の背中を睨む。
この未熟者め、との想念を込めて。
二人は、会話もせずに、喧嘩をしている。