時計
目が覚めたら誰もいなかった。
小さな家なのでこの部屋の中にいるだけで家族が不在なのはすぐわかった。
窓の外の景色もまったく動かない。
部屋の中は静寂が充満していた。
タンスの上の置き時計の秒針の刻む音以外は。
時計の音を聞いているうち、だんだん思い出してきた。
寝る前のことを。
いつもの医者が往診に来てわたしのおしりに大きな注射を打ったことを。
黒い大きな重そうな革の鞄を持ったあの医者だ。
タンスの前に脚立を置き、登ってみるとちょうど顔の前に時計があった。
秒針を目で追い、刻む音を聞いている。
この時すでに、この情景が過去に何度かあったことは知っていた。
時計が止まる前に、ゼンマイを巻きたかった。
それが自分の使命のように感じた。