迷宮
家に帰るのに時々近道を通る。
家と家の狭い隙間を壁に肩を擦るようにして通り抜けると急に空間が広がる。
そこには右の家の玄関があって、いつも老婆がじょうろを持って近づいてくる。
またうちの敷地に無断で入ってきて・・・
ときっと思っているだろうが、一度も文句を言われたことはない。
反対側の左の家はまだ壁が続いていて、二階の窓からは子供がこちらを見下ろしている。
気味の悪い恐怖から逃れようと先を急ぐ。
また狭くなっていてここを通り抜けると大通りに出る。
わかっているのになかなか出られない。
なんだかいつもと違う。
だいぶ進んでようやく大通りが見えてきた。
やっと左右の家の壁が途切れる所まで来た。
このコンクリートの階段を三段下りれば大通りだ。
見下ろすと波しぶきが打ち寄せている。
顔を上げると一面の海が広がっている。
もうどうにもならない。
戻って、あの老婆のところまでゆけば、
なんとかなるかもしれない。
老婆が背を向けているのをいいことに、
わたしは玄関先を突っ切った。
そこにまた狭い路地を見つけたからだ。
鞄も落とし、袖も破れ、血まで出ている。
必死に走って広い通りを探すが、
どこまでいっても狭い壁と壁に挟まれた空間が続く。
壁の途切れ目にまた迷路のような、壁と壁に挟まれた道とも言えない道が、
行けども行けども続く。
気づくと微かな笑い声がする。
あちらこちらから聞こえてくる。降り注ぐように。
見上げると、二階の窓という窓から子供がこちらを覗いていた。