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モラルハラスメントに気付いた日(後編)

・朝起きる
・朝ご飯を作る
・息子の小学校の支度を手伝う(宿題、持ち物確認、学童の連絡帳)
・水筒を子供分(2本)準備
・娘の保育園の連絡帳を記入
・毎朝癇癪が強い娘をなんとか家から連れ出す
・自転車で保育園まで送る
【在宅で仕事をしながら合間に】
  ・食洗機をセット
  ・洗濯機を回し干し、取り込む
  ・掃除機をできたらかける
・電車に乗って隣駅にある保育園と学童に迎えに行く
・帰宅後お風呂を沸かす
・お風呂に入るよう呼びかけ→3人で入る
・夜ご飯を作る
・疲れて荒れている子供たちを宥めながら寝かしつけ
 (所定の時間までに終わらせられるように促す)
・食洗機を回す
・洗濯物を畳む
(自分の時間を1~2時間)
・寝る

 これでワンオペ一日分。

 掃除や洗濯畳みなどは毎日ではないが、そうなると代わりにゴミ捨て、鍋洗い、書類記入なんかが入ってきたりする。夫が家事育児をすると間に合えばお風呂、土日は昼・夜ご飯を引き受けてくれたりするので少しだけでも助かった。今思うとそんな些細なことでとても協力してくれている!と思っていた自分が虚しい。私も夫もフルタイム。

 部屋に完全に引き篭もられてしまうと困るのが、子供の注意がひとりの大人に集中してしまうこと。テープを出す、お茶を注ぐ、お風呂から出た時に体を拭く係、見て!の相手……とにかくひとりで見る。しかも2人分。部屋にいるのに出てこない、協力してくれないことは、家に最初からひとりでいることよりも孤独を感じた。

 夫の無視はずっと続き、1週間経とうとしていた。

 私はワンオペをすることもきつかったが、そもそもどうしてこうなったのか?理解が追い付かず困惑していた。自分の立ち回りがいつもと違ったのか?子供はこの異常な状態で困っていないか?私が今倒れたらこの家は大丈夫だろうか?色んな考えが頭をよぎる。

「おはよう!」

 1週間後の朝、突然それは終わりを告げる。夫がにこやかに起きてきたのだ。子供たちは戸惑い、私は唖然としたが夫は構わず子供に話し掛けている。そう、こうやってなし崩し的に元に戻るのだ。何もなかったかのように、夫は引き篭もった理由も謝罪もしないまま、いつも通りの朝が始まる。私は笑顔で「おはよう」と返すしかなかった。


 そこから2週間後、息子が休日にゲームをしていた時に予め決めていた時間を超過した。私は優しくたしなめていたが、5分ほど超過したところで床に寝転んでいた夫が突如吠えた。

「せこい!!!!!」

 その声は少し離れたところにいた私でも飛び上がるほどだったので、近くにいた息子は相当怖かったろうと思う。急いで息子に駆け寄ると息子は泣いていた。すぐ子供の寝室に連れて行き、声掛けをしてフォローした。

「ひどいね」
「あんなに大きな声を出さなくてもいいよね」
「辛かったね」
「泣いていいんだよ」

 息子は泣きながら布団にくるまり、自分の中の感情を調整しているようだった。しばらくしてからふたりでリビングに戻ると、不安そうな娘と面白くなさそうな顔をした夫がいた。夫は正しい事を注意しただけなのに私が見えない所で息子を庇ったのが気にくわなかったようだ。

 そしてまた午後から、夫は自分の部屋に引き篭もった。

 このあたりから、私は一体彼にとってなんなんだろう?と考えるようになる。彼は全て放棄しても家も食事も家族も維持できるが、私は放棄したら絶対許されないだろう。大事な人にこんなことをするか?そもそも人に対する扱いなんだろうか。
 ネットで夫、理不尽、などの用語を検索しているうちに「モラハラ」という単語が目に付くようになり、モラハラ度チェックをふとやってみたところ夫は項目のほぼ全てにあてはまった。また、被害に遭いやすい人のチェック項目にも自分が全て当てはまった。動悸がする。このチェック項目、まるで自分の家の事を覗いているようだ。

 そこからは「モラハラ」の言葉をキーワードにして検索をしていった。そしてしばらくして確信した。夫が、モラハラをしていることに。今までは嫌なことをされる、程度の認識だったのが具体的に名称がついたことで輪郭がくっきりしたような気分になった。次の日普段家の事を相談している上司に興奮気味に報告した。

「私、モラハラを受けてるようなんですけど……」
「……今更気づいたの……?そうだよ」

 やっと分かったんだね、と上司が返してきたので私はすとんと腹落ちした。人から言われて改めて、私はその事実をはっきり自覚したのだった。




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