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「即レス」できる人は、本当に仕事ができる人なのか?
2025年からは、自分自身に向けた週報をつくり、週に一度、日々の活動や頭の中で考えていることを整理しながらアウトプットする習慣を取り入れてみようと思う。これが、その第一回だ。
この年末年始は、私にとって「医学書・論文の執筆」に明け暮れた日々だった。念校、初校を終えた書籍が2つあり、今年中にはなんとか形になりそうだ(皆さんにお披露目できる日も近い気がする…!)。
現在進行中の原稿や共同制作を進めているプロジェクトがいくつかあり、そのやり取りの連絡が、人によってレスポンスのタイミングがまちまちだったのも印象的だ。さらに私自身も、年末年始の忘年会や新年会、家族行事が重なり、すぐに返信できないこともしばしばあった。
そこで今回は、仕事におけるレスポンスの速さやタイミングについて、普段から感じていることをアウトプットすることで整理してみたいと思う。
「レスポンスの速さ」はビジネスシーンのみならず、共同研究や論文執筆、医療現場においても大きな影響力をもつ。プロジェクトの進行やタスク管理において、誰かが情報や判断を待っている状況では、返信が律速となる場面が多いからだ。その一方で、常に即レスを要求する姿勢は、返信する側に大きな負担を強いる可能性がある。なぜなら、レスポンスを意識するあまり、集中力の維持や深い思考の時間が細切れになり、結果として仕事の質や学びの深さを損なう恐れがあるためだ。
「即レス症候群」という言葉が示すように、SNSやチャットツールを通じて「既読スルー」に対するストレスが語られる現代では、「レスが遅い人=非協力的」という一面的なイメージが定着しやすい。しかし、それは本当にベストな働き方を反映したイメージだろうか。ここでは、レスポンスが早いことの「メリット」と「デメリット」の視点を取り入れつつ、レスポンススピードと時間管理のバランス、そして最適なコミュニケーション・ペースをいかに探るかを考えてみたい。
即レスのメリットと、その背後にある狙い
「即レス」には以下のようなメリットがあるとされる。
確認漏れや返信忘れが防げる
信頼が得られる
相手からの「即レス」がもらいやすくなる
タスク管理がしやすくなる
いずれも、連絡を受け取ったタイミングで素早く返信することによって得られるメリットである。実際、私自身も研究や論文執筆の共同作業で「ボールを投げ合う」場面を数多く経験してきた。例えば、共同研究者から実験結果を共有されたときや、署名を求められた際に、迅速にリアクションすれば相手は次のステップにスムーズに進める。この「待ち時間をつくらない」行為は、共同作業全体の効率を高めるという点で大いに意義がある。
また、「信頼が得られる」という要素はビジネスでも通用する指標である。メールやチャット、SNSなどのやり取りにおいて、相手が送った連絡に迅速に反応すると、それだけで「すぐ動いてくれる人」という印象を与えられる。医療現場や研究現場でも同様で、上級医や指導医、あるいはプロジェクトリーダーからの相談に即座に反応すれば、「彼(彼女)なら安心して任せられる」と評価されやすい。
さらに、「相手からも即レスがもらいやすくなる」という心理面のメリットも見逃せない。人は相手の対応に合わせる傾向があるため、自分がこまめに返信をしていれば、相手も同様のペースで返そうとする可能性が高まる。結果的にタスクがスピーディーに進み、「タスク管理がしやすくなる」という好循環が生まれるわけである。
即レスのデメリットと「時間の管理」の重要性
一方で、「即レスのデメリット」としては次の2点が挙げられるだろう。
落ち着かない
暇だと思われる
実際に、私もメールやチャットの通知を常にオンにし、鳴るたびに即座に返信していた時期がある。その頃は、確かに相手を待たせることは少なかったが、自分のタスクが頻繁に中断されてしまう現象が顕著だった。集中力を要する作業をしていても、通知音が鳴ると意識がそちらに向き、一旦返信をしたあと元のタスクに戻るのに時間がかかる。脳波や認知研究でも示唆されているように、作業中の中断が生産性を落とすことは科学的にも裏付けがある(引用文献1)。
さらに「いつもすぐに返事していると、暇だと思われるのでは?」という懸念も、私たちが心のどこかで感じていることであろう。とくに周囲に対して「忙しくするのが美徳」という価値観がある職場の場合、即レスを繰り返す人が逆に“本当に忙しいのか?”と思われる可能性も否定できない。メールやSNSの返信に追われるあまり、本当に重要な思考や作業に十分な時間を割けないのではないかと疑われるのだ。
こうした状況を防ぐために、返信するタイミングを管理するという対処法がある。たとえば「就業すぐ」「休憩明け」「終業1時間前」など、メールチェックのタイミングをあらかじめ決めておく。これは医療者や研究者にとっても有効で、手術が終わった後、または当直明けにまとめてチェックするなど、自分なりのルールを設定することで、「いつ頃返信を催促すればいいのか」「いつ頃レスポンスが貰えそうか」を周囲に理解してもらいやすくなる。
「即レス症候群」に陥らないための心構え
「相手が読んでいるのにレスがない」という「既読スルー」問題は、LINEなどのメッセージアプリが広く普及したことで大きな話題となってきた。こうした環境で「即レス」を強要されたり、自分自身が「既読スルーされている」ことに過度にストレスを感じたりする状態は、「即レス症候群」と呼ばれている。
若い世代を中心に、SNSやチャットの世界がコミュニケーションの大半を占めるようになると、この問題はより切実になる。既読スルーや「いいね」の押し合いに神経をすり減らし、本業の学業や仕事に集中できないということも起こり得る。医療従事者や研究者であっても、プライベートのSNSで同様のストレスを抱える可能性は大いにある。
そこで大切なのは、やはり「自分なりのマイルールを明確にしておく」ことだろう。全員の期待に応じてすべてを即レスし続けるのは非現実的であり、自身の時間を守るために「自分はこの時間は返信しない」と割り切る姿勢が必要だ。周囲からの同調圧力に屈せず、「緊急の場合は電話で連絡してほしい」などと伝えておくことが、余裕ある働き方や学びのスタイルを確立する一歩になるだろう。
レスポンス・スピードをどう最適化するか
ここまでの議論を踏まえると、即レスには大きなメリットがある一方で、集中力やメンタル面の負担となるリスクが見えてくる。「メリットかデメリットか」の二元論で片づけるのではなく、それらをうまく両立するための戦略を考えることが重要だ。いくつか、返信のタイミングを最適化する方法を考えていきたい。
優先度と緊急度を見極める
全ての連絡に対して“最優先”で対応する必要はない。相手や内容の緊急度を判断し、返信のタイミングを柔軟に決める。必要であれば「至急」と明記してもらう、あるいは電話連絡をお願いするなどのルールを明文化することも一案である。
事前に「レスの方針」を周囲に共有する
たとえば、「自分は午前と午後にそれぞれ1回ずつメールチェックをする」「夜のメールは翌朝に返信する」などをプロジェクトメンバーやチームに知らせる。そうすれば、相手の期待値をコントロールできるため、むやみに「なぜ返信がないのか」と焦らされることが減る。
「即レスがほしい時は電話」のルール化
医療現場や研究の緊急連絡など、即時の判断が求められる場合に備え、チャットやメールではなく電話や緊急連絡ツールを使うルールを定めておく。これにより、すべての連絡を即レスで処理せずとも安心が得られる。
「レス貯め作戦」の実践
自分の作業効率や集中力を守るために、ある程度レスを貯めて一括で対応する。まとめて返信することで確認漏れや返信忘れを防ぎつつ、深い思考の時間を確保する。相手が頻繁に急ぎの連絡を必要とするプロジェクトなら、上記の電話ルールをあわせて活用する。
まとめ―「即レス至上主義」ではない、豊かな働き方と学びのために
ビジネスや学術、臨床現場など、どの領域においても「連絡のスピード」はプロジェクトを円滑に進めるうえで不可欠である。しかし、その一方で、絶えず通知に捉われ続ける働き方や学び方は、長期的に見ると個人の生産性や創造性をむしばむリスクがある。引用文章でも指摘されているように、「即レス症候群」に陥ると、既読スルーに一喜一憂し、周囲の評価や同調圧力に振り回されてしまう可能性が高まる。
「メリット」があるからといって、その恩恵を常に最大化するべきとは限らない。状況に応じて、「今は深く考える時間が必要」「今回はこのタスクを先に片づけたい」という優先順位を明確化し、自分に合ったコミュニケーション・リズムを作り上げることが重要である。医療現場では、患者への対応が最優先であることが前提である上に、教育・研究のタスクとのバランスも求められるため、一律に「即レスが正解」とは言いきれず、時にレスポンスができない状況もあるのだ。
最終的に、とことん即レスを目指すか、あるいはレス貯めによって集中を維持するかは、個人の働き方や性格、そして組織文化に応じて最適解が異なる。重要なのは、何も考えずに「即レス至上主義」に流されるのではなく、自身の「時間管理」や「精神的余裕」を考慮しながら、適切なコミュニケーション手段とペースを見つけることである。こうした柔軟性が身につけば、急ぎの依頼にも適切に対応しつつ、自分自身の思考を深め、学びを強化するための時間を守ることができるだろう。
即レスが生むメリットを享受しつつ、デメリットを最小化するための工夫―それこそが、現代のコミュニケーション社会における新たなリテラシーではないだろうか。相手を待たせない利他の精神と、自分の集中を守る自立の精神をいかに両立させるか。それは、医療に限らず、ビジネスや学術、あらゆる領域で追求すべき永遠のテーマである。
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