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歌詞統一祭2023冬のイラスト(AIイラスト)ができるまで

世間では評判が悪い(?)AIイラスト。
わたしは「上手に使えば、こんな便利なものはない」という主義で、すでにガンガン使用しています。

ボカロPさんの有志が参加したイベント、歌詞統一祭に参加した曲のMV(ミュージックビデオ)でも、AIイラストを使用しましたが、けっこうみなさまの評判がよろしくて、ホクホクしております。

調子に乗って「今回のイラストはどうやって作ったか」という記事を書くことにしました。みなさんがAIイラストを活用するときの参考になればうれしいです。

あーあ、また5,000字超……(汗)

わたしのAIイラストの作り方(AIさんの使役方法)


AIイラストの描き方、というか描かせ方は、大きく分けて2通りあります。

ひとつは「こういうシチュエーションの、こんな感じのイラストを描いてくれよ」ということを、言葉(文字、プロンプトと呼びます)で指示して描いてもらう方法。

もうひとつは、自分で原画を描いて「これをもとにしてイラストを描いてくれる?」と指示するやり方です。下絵を読み込ませたうえで、言葉(プロンプト)で指示も出す方法もあります。

わたしの感覚では「AI」というイラストレーターさんに、人間がイラストを発注するイメージですね。その発注方法とか、発注した人の関与の度合いによって、すごく問題になるケースと、(少なくとも法的には)ほぼ問題にはならないケースが分かれる感じです。

手順1:イメージを固める

今回は「歌詞統一祭」という作曲イベントに参加するため、オリジナルのMV(ミュージックビデオ)を作ることに。

「ゆうまぐれ」という、夕暮れ時をあらわす、少し古風な言い回しのタイトルなので、それに合った絵を準備することにしました。

背景を描き切る画力はないので、フリーで背景イラストをご提供くださっている方がいないか検索。めちゃめちゃビンゴな、ステキな背景イラストをフリーでご提供なさっている方を発見。この背景なしには、今回のMVはなかったとも言えます!
イラストレーター みんちりえさんのHP

イラストレーター「みんちりえ」さんの背景イラスト 夕暮れ時の風景

単純に夕暮れ時から日没までの、ほんとうに短い時間(黄昏どきの一瞬)の移り変わりを描こうと思いました。

手順2:人物のイラストの準備をする

今回の人物イラストは、AIさんの手を借りようと決めていました。背景が別の方の、おそらくプロ(でないとしても、少なくともプロ級)のイラストレーターさんのイラストなので、わたしのイラストだと下手すぎて浮きまくるからです(あとで、はっきりわかるようお見せします)。

そこで(1)ベースとなるイラストを準備(2)いったんAIに食べてもらいアウトプットを得る(3)そのアウトプットをトレース(4)トレースした絵をさらにAIに(5)出てきた画像を修正・加工(6)背景画像と一体にして(7)アニメーション素材を作って完成、という流れで制作しました。

手順3:順を追ってイラストを仕上げてゆく

先ほどの章で説明した手順を、制作過程のイラストをもとに説明します。

(1)ベースとなるイラストを準備

いちばん基礎となるイラストはこれです。たいして上手ではないけれど、まあこれをベースにするのがいいかなと。

MV「ゆうまぐれ」の原画イラスト 去年練習で描いたものだが、かなり不気味ちゃん……

(2)いったんAIに食べてもらいアウトプットを得る

それがこうなります。

原画をもとにAIが描き出したイラストのパターン各種

原画、不気味……。今回は右上のイラストをベースに決めました。

(3)そのアウトプットをトレース

AIイラストのアウトプットを、そのままAIさんに食べさせることもできるんですが、それをやると「クセが強め」になることが。

また、背景イラストの色調に合わせて着色して、その状態でAIさんの助けを借りたほうがいいので、ここでトレースです。

AIイラストを下絵にして背景に合わせてトレースと着色したイラスト

わたしがイラストを使いたい理由がお分かりですね。背景との画力の差で違和感ありありです。トレースしても、このあたりまでが画力の限界なのです。

(4)トレースした絵をさらAIに

前述のイラストをAIさんに食べてもらい、再度アウトプットしてもらうと、こんなにステキになります。

わたしのトレース画像を背景ごとAIに読み込ませて生成したイラスト

いい感じですが、背景が変わっているのがお分かりですか?背景もAIが解釈して、書き直すんですね。ですが、全体的に同じような色調で、塗りも含めていい感じになりました。イラストの雰囲気も、今回は割と狙ったとおりです。

(5)出てきた画像を修正・加工

AIが描いた背景をきれいに消しゴムで消します。微妙に残った部分の処理として「イラストを複製し、ぼかしを入れた画像で、ピントの合った切り抜き画像を挟む」という処理をしています。

要は「消しゴムで消したあたりを誤魔化すために、イラストの境界線をぼかした」ということです。こうすると、人物イラストが背景のイラストにも馴染みますしね。

描き出したイラストの上に、ぼかしたイラストを貼り付けると、どうなると思いますか?ピンボケのイラストになるんです。まんまですね。しかし、ピンボケイラストの顔部分を消すと、そこからは「ピントの合ったイラスト」が出てきます。

カメラで「大事なところは焦点があってて、ほかはボケてる」感じに撮影しますよね。あれです。イラストの顔はピントが合った感じで、それ以外をちょっとぼかしているというわけです。

人物イラストのレイヤーの表示:5〜7のレイヤーは下から「輪郭用のピンぼけイラスト」「顔などくっきりした部分用のイラスト」「全体をボワっとさせるためのピンぼけイラスト」の順に重ねている。

いちばん下(5のイラスト)と、いちばん上(7のイラスト)では、ぼかし方が若干違うのと、実はいちばん上のレイヤーは、若干透明にして重ねるので、3枚画像が必要に。いいのかどうかわかりませんが、わたしはそうしているということです。

(6)背景画像と一体にする

こうして大体仕上げた人物イラストと、背景イラストを重ねます。人物の「顔以外の場所」がうっすらピンボケなら、当然ですが背景はもっとピンボケですよね。これも「焦点のあったイラスト(原画)」の上に「ピンぼけイラストを重ねて、ちょっと細工をします。

背景のうち「手前の部分」のピンぼけイラストを、消しゴムで「うっすらと消す」のです。そうすると、後ろのくっきりイラストと、重ねたピンボケイラストが混ざって、「うっすらピンボケ」になります。

こうして、背景の後ろの方がガッツリボケて、手前になるにつれて焦点があってくる感じに整えます。人物イラストのボケ感の調整などもここで行います。

(7)アニメーション素材を作る

アニメーションと言っても、日が暮れる感じに全体の色を変えるだけです。あとは装飾をチラホラ。

人物と背景を合わせたイラストはこんな感じ。いちばんくっきりしているのが瞳で、背景はかなりボカしています。こうすると「ピントの合っている場所=瞳」に視線を誘導できるかな、と。

人物と背景のイラストを合体したもの。ボケ感の調整も終わった夕方の風景

このイラストをコピーします。そしてコピーしたイラストを「単色化」します。要は「フルカラーじゃなくて、特定の色のグラデーションにすること」です。

これが黒のグラデーション(黒と白だけで表現すること)を、通常はモノクロって言いますね。本来はグレースケールと言うべきなんでしょうけど。

今回は夜に移り変わる感じを作りたいので、紺色(深い青)のモノトーンにします。その結果、こんな感じの画像ができます。

元のイラストを「暗い青のモノトーン」に変換したもの

これを、夕方の風景の原画と重ねます。ただ、このまま重ねちゃうと、夜になった時に顔が見えませんよね。なので、元画像もう一枚コピーして、この夜の画像の下に潜り込ませます。そして、夜の画像の「人物の顔だけ消しゴムをかける」のです。すると、夜なのに顔だけ明るくなります。

人物の顔の部分だけ消しゴムをかけたもの

夕暮れ時の画像と、この陽が落ち切った感じを画像をゆっくり切り替えていけば、夕暮れから日没の変化を表現できます。しかし、これだけではただの日暮れの映像で、まったく華がありません。

そこで、サビに合わせて「人物の顔にスポットライトを当てて目立たせること」「周辺にキラキラを出して派手にすること」をやります。

単純に「キラキラをのせる」「その画像をコピー」「コピーした画像にキラキラを追加」「その画像をコピー」「キラキラを追加」を繰り返します。キラキラを増やすときに、顔に光を乗せます。「加算・発光」というモードのレイヤを作り、エアブラシで軽く白い色を乗せました。

キラキラを最初にのせた画像と、キラキラを乗せ切った画像は次のとおりです。

イラストにキラキラ乗せはじめた画像
イラストにキラキラを乗せ切った画像

当然、この二つのイラストをつなぐものも何枚かあります。これらのイラストを重ねます。いちばん下に、キラキラを乗せ切った画像。いちばん上に、キラキラがない画像。イラストを一枚めくるごとにキラキラが増えます。要はパラパラ漫画です。

逆に重ねれば「だんだんキラキラが消えていく」という表現ができます。

あとは「全体を写したカット」と「顔をアップにしたカット」など組み合わせれば、静止画なのに、なんとなくアニメーションっぽいMVのできあがりです。

これらのことを組み合わせると、こんな感じになります。

まとめ:AIイラストを利用するのは悪なのか?

ものすごくレベルが高いMVかというと、そんなことはないですよね。ただ、最初にお見せした下絵を思い出してください。あの画力の人が、ちょっと工夫したら、このレベルのものを仕上げられるのですから、やっぱり魅力的です。

そして、今回のわたしの一連の作業をご覧になって、「これは創作ではない」「イラストを自分で作った(描いた)というな!」と言えるかというと、ビミョーではないでしょうか?

わたしの個人的な意見としては「わたしは創作者ですが、かなりAIの助けを借りました」と述べるのが、最も適正な感じがします。

このAIがどんなイラストを学習したのかわかりませんが、AIイラストは原則として「学習したものを、いったんどろどろのスープみたいにして、そこから『指定された条件』に合わせて、形を作る」ものです。

すると「学習にひどい偏り=特定の作家さんだけ読み込ませているなど がないこと」と、「指示した内容にパクリ要素がないこと」という点をクリアできれば「問題ないんじゃないかなぁ」というのが、わたしの考えです。

これを紹介すると殴られそうですが。ニコニコ動画界隈のボカロ動画を、ボカロ動画に馴染みのない知人が見て、ひとこと。「同じ絵ばっかり」。

すごく人気のある曲や動画が出ると、その雰囲気に似たものがいっぱい出る。その中には、AIイラストよりも、もっと露骨に「パクリ?」みたいなのもある気がします。要は「AIを使ったかどうか」ではなくて、そこにパクリ要素はどれだけあるのかが問題じゃないかと。

あと、AIイラストの議論では「同じようなイラストになる」「本人の味や個性がなくなる」から、使わない方がいい、という意見があります(色々な方が、あちこちで発言しているイメージなので、代表的な意見のひとつだと思います)

これも個人的には「場合による」としか言いようがないと思います。

下手でも個性が求められる場面と、個性がなくてもクオリティが上がった方が良い場面、両方あります。その場面ごとで、求められるものが違うのに、それを「AIは無個性だからねぇ」と切り捨てるのは、ちょっと違うんじゃないかと。

建築家に依頼して個性的な注文住宅を作る人もいれば、大手住宅メーカーの「無個性な家」を選ぶ人もいる。どっちがいても良くないですか?

要は、それが用途やシチュエーションにあっていることが問題の本質で、個性の問題は創作において「絶対的な要素」ではない、ということです。現に、ボカロ界隈をよく知らない人から見れば、「やたら同じ絵がある(実際,特定の作家さんの絵が多いのも事実ですが)」と言われることもあるわけで。そこで「個性」って、そこまで重視されていない気がします。

なので、他の人のものをパクらないよう法律の範囲内で上手に使えば、むしろ「表現をあきらめていた人が、表現に参加できる」のに、その可能性を「個性」のひとことで潰すのは、どうなのかなぁと感じています。

この記事が「そこまで画力がない人が、もう一段階上のものを作るうえで、AIなどを活用する方法」として。さらに「AIイラストってそんなに悪なの?」ということを考える材料として。幾らかでもお役に立てば幸いです。

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