秋の虹
先月の半ば、郊外で一面に広がる稲穂の向こう、小島のようにこんもりとある村の上すれすれに、これから盛り上がってくるように虹が現れたのを見つけ、その時のあたりの空の高さや雲の儚さ、風の涼しさに、これでいよいよ雨季も終わりが近づいたのだと思ったものでした。
実際、気象局は例年より二週間遅れ、10月下旬に雨季が明けると当初は予測し、虹を見た頃には、そろそろ雨季明けするだろう、これでいよいよ気持ちの良い寒季がきますね!楽しみですね!と、あちらこちらで報道されていたのです。
ところが、そんな透明な晴れも束の間、その後北タイは連日のように大変な大雨に見舞われ、スコータイでは衛星からも見える広大な範囲が洪水となるほどで、例年の10月より30%も多い降水量となりました。
おかげで多くのダムの貯水量もずいぶんと増えたのですが、とはいえ雨季全体としては、平均値を下回る雨量だそうで、実感としても本当に雨季らしく降ったのはこの10月の下旬の連日の大雨だったような印象です。
そんな中、私とイングリッシュゴールデンレトリバーの白いふわふわはといえば、私は大雨になる前線が近づくたびに、急激に下がる気温と気圧に体調が崩れては、風邪の兆候まででてしまい、風邪をかろうじて押し返すのに精一杯。白いふわふわも明け方に雨音がすると今日はお散歩はできないのだとわかってしまうようでしょんぼり。また終日曇りと雨が繰り返される空模様に、やはりなんとなく身体がおもたげでした。
11月に入ってやっとそんな雨天続きが終わり、にわかやってきた数日の朝の肌寒さに、今度こそ寒季だ!と、二人してご機嫌で早朝の散歩を復活させたのですが、今度はご機嫌で調子に乗って歩きすぎたふわふわがバテ気味になってしまい、散歩の距離を少し短めにしていると、気温がまたしても上がり出し、慎ましくなりだしていたはずの積乱雲がみるみる力を盛り返して、範囲は狭まったものの、郊外では鉄砲水が出るほどの大雨が降るようになりました。
そうこうしているうちに、気象局が雨は減ってきているが、天候は、寒季の到来の条件をまだ充分満たしていない。寒季入(雨季の終わり)は11月の半ばであろうと、いささか驚くような発表をしました。結局雨季明けは、例年よりほぼ1ヶ月遅れたということです。
更に、一昨日には、気象学者の見解として、今年の寒季はあまり気温が下がらないので冬物の衣類や暖房器具を扱う業者は、在庫を持ちすぎないように。雨も少なかったので、農家は稲作のスケジュールを良く考慮し、水の節約に努めるように。また来年の暑季は、更に高温となるだろう。と、かなり厳しく、憂鬱にならない人などいないような発表も行いました。もちろん、あくまで予測であり今までにない事例なので、外れる可能性もあると但し書きも添えながらですが。
実際、昨日今日の昼間は本当に暑く、近所の家のほとんどはエアコンを夜になってもつけていますし、やっと調子をとりもどした白いふわふわも、朝の散歩でも息が上がるのが早めで、夕方の庭での追いかけっこも短めでやめてしまうようになりました。
日が短くなって勢いを失っていた蓮や睡蓮はまた蕾を出し始めましたし、薔薇の蕾は暑さで、日向にあるものは咲かずに乾いてしまいます。
私自身も、気温が下がり風邪っぽくなった時に出した布団と毛布はまた外してしまいましたし、束の間ですが着るのが楽しい冬物をまだ出せずにいます。
この高温、人による二酸化炭素排出の増大に加え、去年のトンガの噴火で排出され成層圏に入り込んだ水蒸気も一因で(南極圏のオゾン層にもまた穴ができてしまったほどだそう)、それが消散するまでに数年かかるという説もあるのだとか。
季節の巡りの乱れに、こんなにも生き物は翻弄されるのかとあらためて実感しつつ、ターナーが光を絵に閉じ込めることをものした「夏のない年」を思い浮かべ、トンガの噴火の蒸気は仕方ないとしても、なるべく小さくそっと暮らして、この暴れるお天気を少しでも鎮められたらと思ったりするのでした。どうか、「冬のない年」になんてなりませんように。と思いながら。