寒露 第五十候 菊花開
寒露の次候である第五十候「菊花開」、きくのはなひらくは 10/13~10/17頃。朝夕が肌寒くなって露も降りる頃。そのため空も澄んでいよいよ秋が深まり始めるのを実感する、そんな時分です。
そして、旧暦では14日が重陽節、菊の節句。陽の気が極まり、今度は陰の方へとあたりの気配が傾いていく節目としても、しめやかな香りの菊をさまざまに楽しむのにも、夏の気配が色濃い太陽暦の重陽節より、旧暦の方がふさわしい気がします。
このところずっと、どことなし季節の進み方がちぐはぐなチェンマイですが、それでも朝夕の涼しいというより、ひんやりする空気にはやはり季節が雨季から寒季へ変わろうとしている気配があり、気づけば日が暮れるのが早くなったのはもちろん、夜が開けるのも遅くなって、毛皮族の家族が早朝に庭で遊ぶおねだりをする時間も遅くなりはじめました。
そして、16日土曜日の朝、気温は19度まで下がり、リビングの扉を開けると、北からは滔滔と肌寒い風が部屋を通り抜けていくではありませんか。
空は鈍色に暗く、なんだか今日は終日眠たい感じのお天気になりそう、そんな様子です。まるで重陽を過ぎて、それまでの熱気に堰き止められていた陰の気配がついに溢れ始めたみたいです。
こんな週末は、無理に元気に過ごす事はない。冬籠りの予行演習でもしてみよう。そんな風に思い、長袖のワンピースに、ちょうど新聞にも「そろそろ寒い季節が来ますよ!しまっておいたセーターを引っ張り出して埃を払っておきましょう!」そんな見出しが出ていたことだし、と、この秋最初のウールのカーディガンを羽織り、首には薄いカシミアのストールも巻き付け、部屋の隅の分厚い敷物の上に沢山のクッションや毛布で「巣」を作り、急に冷え込んだせいか少しぼんやりしている、可愛い大きな白い毛皮族とその中へ潜り込んで丸くなり、お茶を飲みながら、終日うとうとするか本を読むかという、怠惰を貪ったのでした。(実は翌日の日曜日も)
とはいえ、寒く暗い季節へ向かう時は、どこか心も体も芯だるくなってしまうので、まだもう少し明るい気分も、身の内にとどめておきたい。と、重陽は少し過ぎたけれど、お茶は菊花茶にしました。
北タイでは花の栽培が盛んで、小型の菊も良く見かけますが、なんとタイで菊の栽培を広めたのは、仕事でお世話になっている養蜂家のお爺さんでした。彼が問わず語りにした思い出話によると、若かりし日の彼は、農業関係の国家公務員で(アメリカで国費留学生として新しい技術を学んでいたことも!動植物の名前を聞くとラテン名で返ってくるのも、販売している蜂蜜のブランド名がギリシア神話に因んでいるのも道理で!という気がしてしまいます。)、北タイ各地をめぐって農業指導をおこなす仕事をしていたそうですが、稲や野菜が育たない土地では、色々な花の栽培を奨励し、菊も海外から種を取り寄せて始めたのだそうです。
優秀な農業技師だった彼が養蜂家になったのは、仕事で来た北タイの自然や文化に「恋に落ちてしまった」(多分、奥さんとも)からだとか。
そんな情熱的な彼が作る蜂蜜を溶かした菊花茶を飲み、眠りの中に柔らかな微光を放つ球のような暖かさを抱きながら、過ごした第五十候の週末でした。