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雨水 第五候 霞始靆

第五候は、春霞がたなびく頃という頃。チェンマイも確かに遠くが霞んで朧に見える頃ですが、霞の正体は残念ながらタイも含め近隣の国で始まる野焼きや、乾燥するこの季節特有の山火事に由来する煙です。
北タイ周辺では、暑さの極まる四月のピークまで煙はひどくなり空は鈍色に、時には太陽が昼でも赤らんで見え、地域によっては飛行機が視界不良でキャンセルになるほどでが、そんな煙の主な原因は世界中にとめどなく広がるファストフードなどのおかげで、需要が増えつづける家畜用の飼料のトウモロコシを収穫したあとの茎を燃やすため。かつて山岳民族の人びとが森と共存するように行っていた焼畑農業のための煙とは全く異なるもので、なんだか自分たち自身の手足をもいで食べているような、あるいは、ゴヤの「自分の息子を喰らうサトゥルヌス」の図が思い浮かんでくる、嬉しくない霞です。

それでも、束の間の嵐の後、少しだけ北の高気圧が強まったおかげで少し強い風が吹き渡る日、あるいは連休などで、人の活動がゆっくりになった時には、思いがけず見える青空や、キジバトの胸の色のような夕空には繊細な雲がたなびき、本当の春の朧ろが感じられますが、先週末、二月二十六日の仏教の祝日、万仏節(ワン・マカーブーチャー)がそんな日でした。

マカブチャ


それぞれが慎み深く過ごし、お寺へ徳を積みに出かける人も多いこの日は、終日普段とは違う少し厳かな気配があたりに満ち、夕方、読経が静かに響く中、花をかざして人々が金の仏塔をめぐるさまは、深い陰影が美しくいつまでも見ていたくなります。

ところでマカーブーチャーは、陰暦三月、満月の日に釈迦のもとに悟りを得た1,250人の弟子が偶然一堂に会したという特別な出来事を祝う日。
最初の二音「マカ」は、その月が磨羯宮にあったからなのだとか。
そうか、磨羯もサンスクリット語の当て字だと思い至ったところで、そういえば、羅睺(ラーフ)と計都(ケートゥ)は、インドからタイへも辿り着き、この国では水曜日の守護神として黒い姿(お供えものも黒!)に太陽を飲み込む姿でお寺に鎮座し、また、ヨーロッパではドラゴンヘッドとドラゴンテイルにもなっていることに気づいたのでした。
煙が他所の国へもたなびき届くように、天体の運行のイメージの響きも、少しずつ月のごとく表情を変えながら、さまざまな国へ広がっているみたいです。

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