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冬至 第六十六候 雪下出麦

七十二候は冬至の末候。雪下出麦 。ゆきわたりてむぎのびるです。
期間は12月31日から1月4日。旧暦ではまだ新年を迎えていませんが、年を越える候でした。
意味は、積もった雪の下で、麦が芽を出す頃という意味だそうです。

お隣の国、ミャンマーだと、チェンマイよりもう少し北寄りのカチン州の山岳地帯などでは雪が降り、雪化粧した金のパゴダや高床式の家の美しい光景が見られるそうですが、ここでは残念ながら。。。
良くて標高の高い地域での霜が精一杯です。

とはいえ、こちらも冬。
そして2月の下旬から寒季から一気に乾いた夏にあたる暑季に季節は変わるのですが、この1月から2月の間には、ほんのわずかな間、まるで一瞬の春。束の間の春。とでも言いたくなる、日本の春のような優しいお天気の日があるように感じます。
そんな期間には、芽吹きやこの期間に限られた美しい花が見られ、雪の下で静かに耐えて春に向かうという、耐え忍ぶ感じでこそありませんが、冷たく暗かった時から目覚めるような気配が動植物には現れます。そして、そんな様子を体現しているのは、ちょうどこの時期から始まるヒマラヤザクラの開花ではないかと思うのです。

ヒマラヤザクラは寒緋桜の仲間で、学名はPrunus cerasoides。ソメイヨシノのご先祖の一つでもあるとか。ヒマラヤが起源の野生の桜の一種ですが、それがなぜタイにもあるかといえば、タイにある高い山(といってもいずれも1500mくらいですが)は、ヒマラヤ(そしてヒマラヤはサンスクリット語で雪の蔵の意味)山塊の末端にあるためなのだそう。他にも石楠花の仲間など、ヒマラヤの高地にあるものに近い種があったり、ヒマラヤと植生が思いがけず似ていたりする地域もあるそうです。この桜が育つのは標高1400メートル以上の山岳地帯というのも、その出自を考えると納得です。

南の国に暮らしているために桜を見られないと思いきや、はからずもヒマラヤ山脈のおかげで、少し季節は違えど桜が見られる嬉しさ。わざわざ山の中まで行かなくてはなりませんが、そんなことは花に会える嬉しさに比べたら、大したことはありません。むしろ、静かな山の木の間を通り過ぎる風の音を聞きながら花と対面するのは、本当の花見だという気がすれば、その花は、それは遠大な造山活動と植物達の旅の歴史の贈り物のような気がしてその嬉しさはなおさらになる気がします。

そんな花だからでしょうか、あたりに生命の力が柔らかく満ち始めた気配(春の語源は、命がみなぎって張るからだとか)を感じ、どこかに花の声を聞いたような気がすると、もはや心は落ち着かなくなり、それこそ「世の中に たえて桜の なかりせば 春の心は のどけからまし」の業平の心地。今年も思わず山の中へ可憐なこの花に会いにでかけてしまいました。

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ちなみに、ヒマラヤザクラのタイ語名は、ナンパヤースワクロン( นางพญาเสือโคร่ง )虎の女王という意味だそう。今年の干支にもぴったりです。


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