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地上に間借り

チェンマイは、相変わらずロックダウンと午後10時から翌朝4時までの夜間外出禁止令が敷かれ、県境を越えることも原則禁じられています。(生活必需品の物流や医療など、必要があるものは許可されています)
ツーリストが消え、飛行機が街の上を飛ぶことも当分なくなり、カフェやマッサージ店、レストランなど、賑やかな場所は全てクローズして、ひどく静かな毎日です。
マスクの着用や店舗に入る時の体温の確認やアルコール消毒などの感染対策の手間以外は、正直さほどの不自由や不都合はなく、むしろこの静けさには安寧さえ感じることすらあります。

実際、乾ききった暑季の中でも、サルスベリの仲間や、ナンバンサイカチの花はこれ以上ないくらい美しく咲き、龍眼やジャスミンの花の香りであたりは大抵、爽やかでいてセンシュアルな気配に満ちています。そんな中で、鳥たちは子育てをしていますし、野生のミツバチは蜜を集め、円盤状の巣を大きくしていくのに余念がありません。
そんな様子を見ていると、人族が見舞われている危機は地球をおおう生命圏のほんの一画での小さな出来事のようにも思われ、一方で私たちには世界を根底から揺るがすような不安に覆われている現実に、裸虫という言葉が想起され、その文字通り人間がどれだけフラジャイルな種族なのかと思い知って、心もとなくなるようです。

あたかも滅びと困難の熱の季節という風のチェンマイの4月の中で、傷つきやすい人間の周りで生命や現在を十全に生きている存在たちをみるにつけ、彼らの存在が横溢する傍らで、不安げに、自然の一部でありながら、そこから乖離しているような矛盾をはらんである自分たちは、まるで広大な地上のとある、わずかな隙き間に間借りしているような気がするばかりです。

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