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白露 第四十四候 鶺鴒鳴

白露の次候は、せきれいなく。期間は 9月12日から16日頃。
セキレイは日本で暮らしていた頃はごく身近な野鳥でしたが、チェンマイでは、山の中の渓流では見かけても、残念ながら街の中では出会ったことがありません。

なにぶん山国のチェンマイといえども、街場はそれはそれは平板な地形で、20キロ移動しても高低差は1メートルほどというような場所が大半です。
おかげで洪水が起きても街の中では、河から越水しても水はゆっくり、お盆をゆるゆる水が広がるような塩梅なので、洪水が来そうな大雨が続くと、チェンマイの街沿いに流れる大きな河、ピン河には増水加減を見に人が集まり、それを見込んで屋台も集まり、どう考えても災害が来るという緊張感よりも小さなお祭りのような雰囲気があたりに漂います。

けれどいよいよ河と道の高さが同じになって、ちょろちょろと川から道へ土色の水が入り込み出すと、それ!とばかりに見物人たちは、家に携帯で越水したと知らせながらバイクを飛ばして家へ戻り、それから門に土嚢を積んだり家財道具を二階へ運んだりするのですが、それでも家庭の洪水対策は間に合ってしまうくらいゆるやかなものです。

そんな場所ですから、勢いの良い水の流れのある場所を好むセキレイには、ゆったりと流れる水しかない、たいらかな街場はあまり居心地が良くないのかもしれません。
ここ数年、もしかするとタイのほとんどの地域が水に覆われたのではないかと思われるほどだった2011年の大洪水以来(もう十年!)、地域によっては出水してもかつてのように、毎夕スコールが降ることもなくなり、雨季だというのに路肩を砂ぼこりが舞うようなことも増え、台風前夜の奇妙な高揚感をもって水面がうるうると盛り上がるピン河へ人が集まることも無くなりました。

こんなに、お天気が変わってしまって、セキレイたちが大好きな、山の中の渓流はきちんと涼しく流れているだろうか?とセキレイたちの上下に揺らす可愛い長い尾羽や、ツッツッという細やかな声を思い浮かべてしまいます。以前ならばこんな事を思ったらすぐに山へ出かけただろうに、小旅行などのちょっとした移動もままならなくなったこの二年近く。気づけばセキレイたちの声もこの期間と同じ時間だけ聞いていません。

そんな人族のもやもやした気持ちを他所に、白いふわふわは鳥が言葉を持っているというNHKのドキュメンタリーに興味津々です。

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ドキュメンタリーの鳥は軽井沢のシジュウカラの仲間たちでしたが、セキレイも言葉を持っているのかな?なにしろ水が好きな鳥たちなのだから、水に関する言葉を持っているのかもしれない。ああ、でももし人族以外の種族の言葉がわかるならば、やっぱり一番知りたいのは、白い毛皮の家族の言葉だなあ。そんなことをふと思ったのでした。

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