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【ショートショート】 『使命』

俺には使命がある。

必ずや、約束の地にたどり着かなければならない。

俺は戦士だ。

特攻した仲間は皆、無惨に死んでいった。

決して彼らが無能だった訳ではない。

命令を下す上官が間抜けだったのだ。

あの上官は、あろうことか、約束の地とは全く違う方向に仲間を特攻させたのだ。

信じられないことだ。

ある仲間は、巨大な白い化物に食われた。

ある仲間は、洪水にのまれた。

ある仲間は、約束の地に近づいたが、途中で行き止まりに。

何て哀れな仲間たちだ。しかし、上官は全くお構い無しだ。アイツらが死んでも満足げな表情をしている。

俺はアイツらの分まで戦わなくてはならない。


…!!!

来た。この巨大な地響きが、上官からの出撃の合図だ。

俺は仲間と共に、押し出されるように一気に戦場まで飛ばされた。

無数の戦士で構成された、超大軍勢だ。

残念だが、体の弱い仲間はこの時点で既に死んでいる。

出撃に耐えられないのだ。

すまない…俺は先に行く。頼む、この出撃の行き先が、約束の地であってくれ。

俺はひたすら走った。どうやら方角は間違っていないらしい。

厳しい山々を超えて、俺は海に出た。

山を登りきれなかった仲間は数知れない。あれだけの大軍勢の約9割が死んだ。

しかし、この広い海をどうやって進めば良いんだ…

途方に暮れていると、どこからともなく救命ボートが流れてきた。

誰かが要請してくれたのか?藁にもすがる思いで乗り込む。

しばらく流れに身を任せていると、向こう岸が見えてきた。

「おい、やったぞ!」

隣の仲間に話しかけたが、応答がない。

既に敵の銃撃を受けて、絶命していた。

対岸に潜み、我々を殺しにきているのだ。

上陸するや否や、命懸けの戦争が始まった。

戦う者もいたが、完全武装している敵に勝てるわけがない。

俺はひたすら逃げ続けた。

捕まりそうになっても、振り切った。やられていく仲間を横目に、必死に進み続けた。

敵の潜伏地を抜けた時、俺たちはたった2人になっていた。

みんな死んじまったのか…?

いや、もう過ぎた者たちを想う時間はない。

約束の地は、もうすぐそこだ。遠くにうっすらと神々しい光を感じる。きっとあそこに違いない。

一人しか立ち入れないことは知っている。俺たちは顔を見合わせ、最後の馬鹿力で進み始めた。

ここまで苦楽を共にした仲間だが、絶対に譲れない。

意地の戦い。俺は一歩、また一歩と差をつけていった。

どんどんと周りが明るくなっていく。間違いない。約束の地だ。

最後の角を曲がると、そこには美しい女性がいた。

「よくぞ、ここまでたどり着きました。あなたこそ私が待ち続けた戦士です。」

俺はこれまでの戦いを思い出し、涙でびしょ濡れの状態で聞いた。

「ここが約束の地なんだな!俺は使命を達成した…!」

「ええ、そうですとも。」

この上ない感動に震えると共に、疑問が俺の脳内に広がる。

約束の地に来たあと、何をすればいいか知らなかったのだ。

「俺は、俺はこれからどうすればいいんだ?」

「あなたはこれから私と一つになります。そして、共に新たな約束の地を目指すのです。」

なんだかよくわからなかったけど、この人の言っていることは信用できる気がした。

俺は彼女に導かれ、抱きしめあった。



…なんだか不思議な気分だ。俺の中に彼女がいる。いや、彼女の中に俺がいるのか。

「なあ、新しい約束の地はどこにあるんだ?どこに向かって走ればいい?」

「あなたはこれまで走り続けてきましたね。ですが、今は待つ時なのです。時が来たら、私の上官が約束の地へ連れていってくれます。」

「君の上官?信用していいのか?」

「私の上官は、とてもとても優しい人です。あなたが海で困っている時、救命ボートを要請したのも彼女なんですよ。」

「命の恩人って訳か。それは信じるのが筋だ。しかし、待つってのは案外良いもんだな。」


俺たちには使命がある。

必ずや、約束の地にたどり着かなければならない。







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