【ショートショート】 『見られている』
私の家から中学校までの距離は、そこそこある。
最近、登下校の時、ずっと誰かに見られている気がする。
ストーカー?
流し目で後ろを見ると、どうにも怪しい男の姿が見え隠れする。黒い服の大柄の男。日によって服は違うけど、あの体格は同じ人物に見える。
私は昔から人の視線に敏感なタイプだった。何というか、相手の真意はさておき、見られているという感覚そのものが苦手だった。
今回は特別嫌な感じがする。
いや、考えすぎかな。自意識過剰だと思われるのも嫌だな。
一瞬そう思ったけど、やっぱりちょっと怖いから、友人のAに相談することにした。
「いや、あなたは自分が思ってるより可愛いの。ヤバいストーカーだよ絶対。親と警察に言った方がいいよ。」
そう言われると不安が増してきた。
その日の帰りは、Aが家までついてきてくれた。Aの家は逆方向なのに。本当に良い友人だ。
Aと一緒だからか、道中で嫌な視線は感じなかった。大柄な男の姿も見えない。
でも、途中の細い道に入った時だけ、なんだか違和感があった。
ちゃんとした歩道がなくて、道の端に側溝がある、狭くて危ない道。
なんて言えばいいかわからないけど、なんというか、不気味な雰囲気を感じた。
Aにもそのことを伝えたが、辺りをぐるっと見て、
「誰もいないよ。流石に大丈夫だって笑。」
と、私を小突いた。
両親が帰宅すると、私は視線のことを伝えた。
案の定、父は考えすぎだろうと笑ったが、母は真剣に心配してくれた。
翌る日の土曜日、私と母は警察署へ相談に行った。
「いや、あながち勘違いじゃないかもしれません。」
応対してくれた警察官が言った。
「実は隣町で、不審者の目撃情報が出てるんですよ。女子中学生をつけてる大柄な奴がいるって。」
これまでの経験がハッキリとした事実とリンクし、一気に汗が出てきた。
「娘はどうすればいいのでしょうか…?」
母が心配そうな面持ちで尋ねた。
「とにかく暗い時間に出歩かない。最近は陽が落ちるのも早いですし。なるべく一人で行動せず、何かあったら大声で助けを呼んで、すぐ警察にも通報してください。」
私たちは、万が一の時の対応方法をしっかり聞き、警察署を出た。
警察も町の巡回を増員してくれるとのことだ。
週明けの月曜日、私はこのことを担任の先生に伝えた。
隣町で不審者が出てることも踏まえ、私の名前は伏せた上で、こういう経験をした生徒がいるという情報が各学級で共有された。
Aは毎日一緒に帰ると言ってくれたが、流石に申し訳ないし、Aの帰り道が心配なので、それは断った。
それから私は、駆け足で学校から帰るようにした。
何日か経ったある日、隣町で大柄の男が逮捕されたというニュースがテレビで流れてきた。
その男は女子中学生のあとをつけ、襲おうとしたところ、巡回していた警察官に目撃され、現行犯逮捕されたという。
もしかしたら私だったかもしれないという不安が、背中をなでるように通っていく。
このニュースは次の日の学校でも共有された。
Aは、私が警察に行ったことが功を奏したと、安堵していた。
ちょっとずつ安心感が出てきて、その日の学校は久しぶりになんの心配もなく過ごせた。
その日の帰り道は、ゆっくり歩いて帰った。
嫌な視線も感じないし、やっと解放されたんだって実感が湧いてきて、ちょっとスキップしたりして。
だからいつもより気が抜けていたのかもしれない。
あっ!
自分の靴紐を踏んで転びかけた。例の細い道の真ん中だった。
危なかったな…あーあ、靴紐結び直さなきゃ。
前から車が来た。
道の端に移動して、靴紐を結ぼうとしゃがみ込む。
ん?
……!!!!!!!!!!
強烈な悪寒が走り、靴紐から側溝に目を向ける。
カメラを構えた小柄な男と目が合った。