5人のフィルター【創作ショートストーリー】

平日の早朝、とあるカフェにて。



1人目

 ぼく、あのおじちゃん知ってるよ。あのおじちゃん宇宙人なんだよ!このまえね、テレビで見たもん。お父さんみたいにね、スーツきててね、四角のカバンもっててね、メガネなんだよ。それでね、みんなが仕事に行かなきゃいけない時間にね、その人はべつに行かなくていいからね、こういうお店でね、コーヒー飲むの。でもそれはウソでね、みんなに宇宙人だっていうのをバレないようにするためでね、ほんとは飲んでないの。宇宙人のエネルギーはさとうだから、甘いのばっかり食べるんだよ。あのおじちゃんもケーキ食べてた!それでエネルギーをまんたんにしてね、目をつむって、宇宙船にいる仲間とね、こん・・・コンタクトしてるんだよ!



2人目

 ああ、見たわよ。私いつもここで朝ご飯を頂くんだけど、・・・え?そうそう、もうこんな歳でしょ?やることなくて暇なのよ。その人、何だか暗い顔して入ってきて、結構な時間居座ってたからさぁ。こんな平日のねぇ、朝でしょう?おかしいなぁと思ってちょっと見てみたらさぁ、鞄は汚いわ靴もくたびれてるわ、何だか冴えない感じでねぇ。ほら、この間○○、ずいぶんリストラしたらしいじゃない。あそこの本社ね、この辺りなのよ。だからさ、きっとその人も切られちゃったんじゃないかしら。それで奥さんに言えなくてここで時間潰してたのよ!かわいそうにねえ。でもこう言っちゃあ何だけど、ちょっと仕事ができる感じじゃ無かったものねぇ、あはははは。



3人目

 やっぱり。やっぱりあいつだったんだ。いや、似てるなあって思ったんすよ。たまたま前の日の夜にそういう動画見てて。あ、俺未解決事件の動画とかよく見るんすよ。警察通報しとけば良かったなあ。でも似てるって言っても、今の時代、写真も加工されまくりで当てになんないし・・・え?指名手配書はそう言う加工はしてない?ああ、そうっすよね!ハハハ!いやー、でもまさか近くに居るとは思わないっていうか。ああいう中年男性ってどこにでも居るでしょ。ちょっと禿げかけてて、メガネで、スーツ?ああ、でも時計は結構いいやつしてたかな。それにしても、最近どこも禁煙っすね。ここもついに喫煙スペース無くなっちゃったからなあ。あのおっさんも喫煙者でしょ、咳がさ、そういう咳だったもん。で?まだ捕まってないんスか?



4人目

 はい、見ました。平日のあの時間にゆっくりされるサラリーマンの方ってあんまり居ないから、よく覚えてます。いくつくらいだろう、私、歳当てるの苦手で・・・普通に、中年って感じの、おじさんだったと思います。グレーのスーツを着てました。黒縁の眼鏡をかけていて、コーヒーとモンブランを注文して・・・え?男性で甘いもの注文される方ですか?普通に居ますよ。ふふ、そういうの古くないですか?あ、ごめんなさい、えっと、印象でしたっけ・・・何だろう、あ、鞄とか靴とか、使い込んでるっぽいのが大人って感じで、渋くていいなって思いました。あ、でも匂い。煙草臭くて。店の中でも判るくらいだからきっと相当吸ってますよね。体に悪いだけなのに何がいいんだろう。あと、指輪してなかったので、独身だと思います。



「何これ、聞き込み調査?探偵ごっこでもしてんの?」
「いや、ちょっと実験の一環で、カフェに居た中年男性についての印象を訊いてみただけなんだけど。」
「ふーん。それにしても・・・宇宙人に、リストラされた夫に、犯罪者に、独身サラリーマンねえ。」
「どう思う?」
「同じ人間を見ていても、同じものが見えているとは限らない。そう言う話だろ。」
「4人は同じ店に居たと思う?」
「え?」
「先入観って怖いなって話だよ。」


                                おわり。

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