アイドルソングを読む#3 ゼッタイレンド(手羽先センセーション)
はじめに
ここではライブアイドルを「アイドル」と呼びます。近年の坂道シリーズや80年代のアイドルのようないわゆる地上波アイドルではなく、地下に設置されることの多いライブハウスを主現場として活動しているアイドル(=地下アイドルまたはライブアイドル)を指します。
アイドルの楽曲は、オタクか推し活でもしない限り耳にすることはないでしょう。しかしアイドルに興味がない方でも、一度聴いてもらえれば素晴らしい楽曲が多くあることに気付いていただけると思います。
いまアイドル業界は群雄割拠で、無数のアイドルユニットが存在しています。カバー曲がメインの駆け出しアイドルから、オリジナル曲を多数抱える人気アイドルまで様々です。
アイドルに楽曲を提供しているのはプロのミュージシャンやバンド活動等をおこなってきたクリエイター集団が多く、音楽的にも完成度の高い作品が数多く存在します。
歌唱するアイドルのコンセプトやオタクの趣向、ライブで沸ける曲かどうかで評価が変わるのがアイドルソングの難しいところではありますが、ここでは純粋に作品の歌詞に注目し、その魅力を語りたいと思います。
ゼッタイレンド/手羽先センセーション
今回取り上げる「ゼッタイレンド」は2024年12月に発表された手羽先センセーションの楽曲です。
手羽先センセーションは名古屋を本拠地として首都圏や大阪でも活動する5人組の女性アイドルユニットで、疾走感のあるメロディの応援ソングやラブソングをメインに、確かな歌唱力とダイナミックなダンスで見応えのあるパフォーマンスを披露して人気を集めています。
では、歌詞を順に追っていきましょう。
切ない歌い出しです。「かじかむ指先」は孤独な冬を想起させます。慕っている「君」のことが頭から離れないようです。片想いの恋でしょうか。
「君」には比べるものがないほどの愛しさを感じているようです。「そんな気がしてる」という表現には、かつて経験したことがなく自分でもよくわからない感情だけれど、確かな愛を自認している様子がうかがえます。
自分の気持ちをストレートに伝えられない間柄なのかもしれません。すべてを投げうってでも君と一緒にいたいという強い気持ちが表れています。
サビの詞です。恋をすると当たり前に抱く感情。初恋なのか、それとも初めて本物の愛を知ったのか。君のことで頭がいっぱいで、想いを伝えようともがいているようにも見えます。「届け 届け 君へと」からは、メッセージや手紙など一方通行の連絡手段を使うことしかできない故の祈りのようなものを感じます。
ここに来て筆者はこのゼッタイレンド(絶対恋度)は「アイドルに恋をしたファンの気持ちを綴った楽曲なのでは?」と思うようになりました。
ガチ恋をしているファンであれば、自分以外のファンと談笑している推しメンに嫉妬したり、独り占めしたくなるものです。
「近くて遠くてつかめない光」はアイドルの比喩と考えるとしっくりきますね。推しメンに物理的に近づくことはできても、アイドルとファンの関係を超えることはできません。頭では分かっているけれど、どうしようもないくらい好きになってしまったという葛藤が見えます。
こんなに好きになれる人は2度と現れないことを確信しています。「心が痛いほど熱くなるんだ」は、恋をする切なさと同時に、こんなにも人のことを好きになれることに生きる悦びを感じているようにも思えます。
常に一緒にいたい、声援を送り続けたい。先のことは考えず、今の自分の気持ちに正直に行動しようと決意したようです。
アイドルに恋をしたファンであれば誰もが想う本音ですね。
「溶けない消えない想い」は「真っ白な恋雪」にかかる詞です。無垢な愛情や声援は、「君」を追いかける僕の人生の1コマ1コマに消えることのない記憶として降り積もっていく。
「君」の中に降らせた僕たちの雪はいつか溶けて消えてしまうかもしれないけれど、僕の中では一生溶けることのない宝物…そんな風に考えてみると、とても深い詞に感じました。
まとめ
今回は手羽先センセーションの「ゼッタイレンド」を読み解いてみましたが、いかがだったでしょうか。初めは冬のラブソングだと思っていましたが、オタク目線で読んでみると全く別の世界が広がって見えました。
あくまで筆者の解釈ですので作詞者の意図とは全く違うかもしれませんが、みなさんもお気に入りの楽曲の歌詞を自由に読み解いてみてください。新たな発見があるかもしれませんよ。
YouTubeでとってもエモいMVが公開されていますので、ぜひ観てください。美しい映像の中に恋の切なさがたくさん詰まっています。