Nick Drake 未発表曲解説 『Joey』
忘れられた曲たちへ
ニックドレイクの未発表曲の解説、第3弾はデビュー前のニックが残した曲を取り上げる。
今回は寂寥感と繊細さが心を打つJoey。
ニックの残した楽曲の中でも5本の指に入る私の好きな曲のひとつだ。
この曲が捨てられるまで
この曲は1968年11月11日にレコーディングされたもので、1st『Five leaves left』へ収録するための曲を作っていた時期のものだ。
アルバムの質を高めるために、この曲やClothes of sandなどは曲の持つ雰囲気の重なるThe thoughts of Mary Janeに取って代わることとなった。
私としては、このJoeyも1stに収録するべきだったのになあ、と思わずにいられないほどの完成度であるが、作品への妥協を許さないニックの姿勢がそうさせたのだろう。
現在一般的な方法で聞くことのできるこの曲は、コーラスのかけられた煌びやかなアコースティックでのアルペジオで演奏されているが、この曲が一定の完成を迎えるまでに、いくつかの変遷があったように思われる。
ブートレグ等で聞ける音源の中には5:09もの長さの初期Joeyが収録されている。YouTubeにもあったので、以下引用
ここでの演奏は恐らく最初期のデモであり、コード弾きかつピックでの演奏で、どこかスパニッシュな雰囲気を感じさせる。
(あんまり詳しくないので間違った喩えかも…)
この煌びやかさは12弦ギターでの演奏かもしれない。
ニックの歌い方も以降のそれとも違い、デビュー前のまだ腹に力を入れて歌っていた(?)時期のものだ。
さらに現在の形に近づいたテイクも見つけた。
時系列は想像でしかないが、こちらの方がおそらく後だろう。
指弾きでの演奏になっており、歌い方も肩の力を抜いたささやくようなニックらしい歌い方になっている。
サビ部分のコードもDm以降の進行が若干違っており、試行錯誤の跡が垣間見える。
そこからさらにどういう過程で現在の形になったのかはわからないが、後述するThe thoughts of Mary Janeとの歌詞や奏法における類似性が、この美しい曲を封印するという結果に繋がったのだろう。
歌詞について
(和訳は諦めました… 私のつたない英語力では…)
歌詞の概要としては、ジョーイという女性が「あなた」に別れを告げに来る。彼女の心がわからずに、どこへ行ったのか?どうして来ないのか?
彼女を待ち続けているけれど、もうやっては来ない。
ありがちな悲恋の曲ではあるが、どこかジョーイにミステリアスな雰囲気を感じずにはいられない。
歌詞自体もThe thoughts of Mary Janeのメリージェーンに通じる
もの悲しさがある。
メリージェーンの気持ちは誰もわからない。
どこへ行くのかも、どうして去っていくのかも。
私はこの2曲にニックにとっての女性観が表れているように感じる。
The thoughts of Mary Janeはマリファナについての裏のテーマがあるというが、なんとなくつかみどころのない女性、ふわりと風に乗って消えていくような、そんな女性を静かに座って見届けているニックの姿がイメージとして浮かぶ。
それがこの哀愁漂うギターとマッチしている。
確かにメリージェーンと似ているところはあるけれど、あちらがどこか春の日差しのような温かさを感じさせるのに対して、こちらはイングランドの冷たい雨の降るどんよりした景色を彷彿とさせる。
曲について
この曲は珍しくスタンダードのチューニングで演奏されている。
カポタストは3フレット。
私も初めてニックの曲をコピーしたのがこの曲で、真似のできないほかの曲に比べ、弾きやすい曲である。
ヴァースのミステリアスな雰囲気から転調してのDmから続くコード進行は初めて聞いた時に感動した覚えがある。
いや、このコードの響きがすごく胸を締め付けられる感じがして。
2:35のあたりでギターの音が詰まって聞こえる箇所があり、こういうミスタッチがニックもレコーディングで緊張するのかな?なんて親近感を覚える好きな箇所。