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「パルワールド」良し悪し問題に関する議論のすれ違い

はじめに

2024年1月19日にアーリー・アクセス版がリリースされたインディー・ゲーム「パルワールド」が異例の大ヒット中です。

このゲームに関して、既存のゲームの名前を挙げて「アレのパクリだから嫌だ」という声が X で盛り上がっており、それに対して「ゲームのパクリなんて今に始まったことではない」として反論する声も上がっています。
この議論が加熱し、話がパクリ以外の部分についても及んでいるのををすこし離れたところから眺めていて、論点がずれているなと感じることが多かったので自分なりに整理してみたいと思いました。

クリーチャーの見た目

パルワールドには「パル」と呼ばれるかわいいクリーチャーが存在していて、それらを狩ることで素材として使ったり、捕まえることで使役したりできます。
このクリーチャーのうち、多くの見た目が「ポケモン」と似通っている、というのが一番多く見た主張でした。

これに対して「メダロット」や「ドラゴンクエストモンスターズ」シリーズ、あるいは「Temtem」等の既存タイトルを持ち出し、「ポケモンのパクリは昔からある」という反論をしている人がいました。

反論をする方々が挙げるタイトルの多くがポケモンと似ているのはゲーム・メカニクスの方であり、クリーチャーやキャラクターのデザインに関してはポケモンに寄せようとしているようには見えないため、論点がずれているように感じます。

ゲーム・メカニクス

パルワールドは「ポケモン」+「Ark」+「ゼルダ(ブレス・オブ・ザ・ワイルド)」と説明されることが多くあります。

  • クリーチャーを捕獲して使役させることができる

  • クリーチャーの素材やワールドに生成されるオブジェクトを採集して、アイテムやオブジェクトを作成することができる

  • 高低差のあるオープン・ワールドで、カイトを使って滑空したりものを燃やしたりできる

これらの要素の組み合わせによりそういった印象が生まれていると考えられ、作り手側も明らかに先行タイトルを参考にしていると思われます。
この類似についてパクリだから嫌だと主張している人はあまり見ていません。 これは、ビデオゲームにそうした過去のゲーム・メカニクスの組み合わせや翻案で新しい潮流やジャンルが生まれるという一面があるからだと思います。

他方、前述の「ポケモンのパクリは昔からある」の例としてこれらのゲーム・メカニクスを挙げる人は多くいたので、ここでも話が噛み合っていません。
ビジュアル・スタイルやデザインの類似とゲーム・メカニクスの類似はわけて考えるべきです。

法的な問題と倫理的な問題の混同

パルとポケモンのデザイン上の類似性について、制作者側が「法的には問題ない」と説明しています。

弊社は真剣にゲーム作りに取り組んでおり、当然ですが、他社の知的財産権等を侵害する意図は全く御座いません。法務のレビューも受けており、現時点で他社様から何らかの具体的なアクションを頂いた事も御座いません。

https://automaton-media.com/articles/interviewsjp/20240119-279536/

しかし、この類似性について問題視している人たちは法的な問題点ではなく、どちらかというと倫理的な問題点を指摘しているように思います。

当然ですが、ゲーム制作は最終的に利益を得ることがゴールのひとつです。 このため、制作にかかる費用のうち優先度の低いものが後回しにされるのはごく普通のこと。インディー・ゲームであれば予算は少ないため、なおさらこの傾向は強いでしょう。

デザインのコンセプトを練り、目にするものや耳にするものの端々から世界を感じることができる舞台を作り上げるのは費用も時間もかかります。
パルワールドが世界観の磨き上げについて優先度を下げたことは明らかですが、それ自体が悪だということはなく、プロジェクトにおいてありうる選択肢のひとつだと思います。

ですが、優先度を下げた結果としてビジュアル・スタイルに関しても既存作品の類型になるのであれば、その「既存作品」こそがこれまで苦労して世界観を磨き上げてきた先人たちの手によるものなわけです。

にも関わらず、「怒られませんか」という質問を受けて制作者から出たのが「法的には問題ない」発言だったので、先人に対するリスペクトが欠けていると感じた人がいたのでしょう。

大切なものが毀損されたように感じる

以上のような特徴をもつゲームが異常なヒットを飛ばしているのを目の当たりにして、普段「世界の磨き上げ」こそに価値を感じてリスペクトを払っている人たちが「そんなもの大事にしなくても多くの人は認めるのだ」ということが可視化されるのを見て、辛く感じることもあるようです。

また、棒で殴ったり銃で撃ったり、あまつさえ解体されてしまうかわいい(どこかで見たことのある)キャラクターを見て、悪趣味であると感じたり、辛く感じている人もいました。

他方、大手のゲーム・メーカーは、そうした「辛く感じる人がいる可能性がある表現」には配慮して削っていくので、そうした表現があること自体がインディー・ゲームにしかできないことであり、それが尖っていて面白いと感じる人もいるでしょう。

これらの感想は感性や価値観によるので、人によってまったく異なるでしょう。
ただ、自分が辛くないからといって、その人の辛さを尊重しなくていいとは(ましてや個人攻撃を仕掛けていいとは)ぼくは思いません。

Dakota の個人的な意見

「じゃああなたはどう思っているの」と聞かれるかもしれないので、以下に簡単に筆者個人の意見を記します。

ぼくもいちゲーマーとしてパルワールドは事前情報を追っており、普通に買ってプレイするつもりでした。

ポケモンのパクリではないかと言われているクリーチャーのデザインや既存のゲーム作品のつぎはぎのようなゲーム・メカニクスについても、当初はそこまで強い拒否反応は出ませんでした。

が、実際に買ってプレイする前にものすごいヒットになってしまったことで、先に上記の噛み合わない議論を多く目にすることになり、必然的にストリーマーのプレイ配信などをより注意深く見るようになりました。

ぼくがパルワールドのプレイに消極的になったのは、実はパルのデザインではなく「ゼルダ」にインスピレーションを得たと思われるピアノを使った静謐なサウンド・デザインを耳にした時でした。
クリーチャー・デザインだけを見た時はそこまで気にならなかったのですが、このサウンドを聴いた時「それぞれまったく異なる場所から人気のある要素を持ってくれば何とかなる」と制作陣が考えていることが伝わり、世界観を磨き上げる気がない(もしくはそういう細部の積み上げでプレイヤー体験ができあがっているということが理解できていない)ということが明確にわかりました。

ぼくは現実とは異なる世界を感じたり物語を体験したくてゲームをやっているので、以上のことにより頭にきたというよりは興味がなくなってしまいました。

そんなわけで、現時点ではパルワールドを購入してはいません。

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