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ネクロマンティックルーレット

 ――呪的逃走だ。
 頭の中で囁く声に、ふざけんなと頭の中で怒鳴り返す。
 懐に抱えた重みを感じながら。

 事の発端は、ヤブ医者が病死した俺の妻の遺体を盗んだ事だった。
 妻は元から体は弱く、子供も出来なかった。だがそれには何の不満もない。
 妻が死んだ時、俺は一人で生きていく事に耐えられなかった。
 納棺の時、妻の棺に潜り込み、一緒に灰になって葬られたいと半ば本気で思う程に。
 だがそのおかげで、妻の遺体のすり替えに気が付いた。

 犯人はすぐ分かった。かかりつけの医者は昔からの馴染みで、妻の身体にも俺の次に詳しい。仕事で出かけていた俺の代わりに最後を看取ったのも奴だ。問い詰めたらすぐに白状した。魂魄の分離は遺体に痕跡を残す。だから贋物とすり替えたと。
 医者は錬金術士で死霊魔術士でもあった。妻の霊魂は美しく、高値が付くと判断した奴は妻の魂を死霊魔術士達のオークションに出品していた。
 俺は医者を生きたまま霊魂分離機にぶち込んで魂を引っこ抜くと、オークション会場に乗り込んだ。
 そして医者の魂を出品して出品者側の入り口に侵入し、会場をぶち壊して妻の魂を抱えて逃げ出した。
 
 だが、俺もまた死霊魔術士達の悪ふざけに気付くのが遅れた。
 妻の魂が入っているはずのケースに入っていたのは、六発の弾が込められたリボルバー。
 弾の見分けはつかず、内訳を書いた名簿には四発の当たり、一発の外れ、そして一発の大外れ。
 当たりは見ず知らずの四人分の死霊。
 外れは医者の魂。撃てば標的を殺した後、Uターンして俺を殺す。
 大外れは妻の魂。それを撃ってしまえば、俺は二度と妻に会えない。死んだ後ですら。
 強盗の俺に、死霊魔術士達は間違いなく怨霊を追手に差し向けてくる。
 対抗策は、この銃だけ。
 
 ――呪的逃走だ。
 俺が弾にした医者の声が脳裏で囁く。勿論妄想だが、毒づかずにはいられない。
 三枚の御札に、外れは入ってねぇだろうが。

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