――呪的逃走だ。 頭の中で囁く声に、ふざけんなと頭の中で怒鳴り返す。 懐に抱えた重みを感じながら。 事の発端は、ヤブ医者が病死した俺の妻の遺体を盗んだ事だった。 妻は元から体は弱く、子供も出来なかった。だがそれには何の不満もない。 妻が死んだ時、俺は一人で生きていく事に耐えられなかった。 納棺の時、妻の棺に潜り込み、一緒に灰になって葬られたいと半ば本気で思う程に。 だがそのおかげで、妻の遺体のすり替えに気が付いた。 犯人はすぐ分かった。かかりつけの医者は
きりきりきり。 ネジを巻く。 きりきりきり。 舌が潰れ、頬が突っ張る。 上顎の柔らかいところが押し上げられて、えずきそうになる。 だがまだ我慢。 きりき、り、き、き。 みし、と頭蓋に音の無い音が響く。 額関節の稼働限界、その三歩手前といったところ。 俺は慎重にネジから手を放す。意識的に気道を開き、少しでも楽に呼吸が出来る喉の開きを探る。 口に突っ込んだ器具が動かないよう、細心の注意を払いながら。 器具の名前は苦悩の梨。 最近少し有名になった古の拷問器
砂色の街の、砂色の通りを、男が歩いて行く。 日差し避けの古ぼけた白いフード付きマントを被っているため、目元と口元、そして前髪の幾ばくかだけである。黒髪黒瞳、ただし寝顔のように細い目つきのために、瞳の色はかすかにしか見えない。背丈は低くもなく高くもなく、肩幅はいくらか広かった。 しかし本人以上に目を引くのは、背中に担がれた巨大な剣だ。鞘の代わりに覆いをかけられて鍔は無く、先端に向かって僅かに細まった刀身に大人の拳四つ分ほどの鋼の柄がついており、先端は卵形の弧を描いている。
てすとてすとー。