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ビザール×フェティッシュ×トーテミズム

 きりきりきり。
 ネジを巻く。
 きりきりきり。
 舌が潰れ、頬が突っ張る。
 上顎の柔らかいところが押し上げられて、えずきそうになる。
 だがまだ我慢。
 きりき、り、き、き。
 みし、と頭蓋に音の無い音が響く。
 額関節の稼働限界、その三歩手前といったところ。
 俺は慎重にネジから手を放す。意識的に気道を開き、少しでも楽に呼吸が出来る喉の開きを探る。
 口に突っ込んだ器具が動かないよう、細心の注意を払いながら。
 器具の名前は苦悩の梨。
 最近少し有名になった古の拷問器具。洋梨型の本体が取っ手のネジによって開閉し、挿入した器官を内側から破壊する。
 ただ、実物の実用性には疑義がある。今俺の口に突っ込んでいるのも、血錆香るアンティークではなく、3Dプリンタを駆使して自作したカスタム品だ。
 そうだ。
 俺は俺が作った拷問器具を、俺自身の身体に使用している。
 ただこれが、俺がマゾヒストの変態であるという証左にはならない、と思っている。
 別に他人に鞭打たれたり、熱い蝋で火傷したり爪を剝がされたりしたい訳ではないからだ。
 俺はただ自分の口腔を拡張したいだけなのだ。
 だから自分の口の形に合わせて器具を一から作成した。
 既存の形でやると口を十分に開く前に前歯が折れそうになる。上下ともだ。そんな不便は別に望んでない。
 だから俺の梨は梨と電球の間くらいの形になっている。展開した時の本体の縁も丸めてある。ただ、それでも口の中で器具が回転すると舌や上顎を損傷する。
 さっき俺の手付きが慎重になった理由だ。
 俺はただ、この口が限界まで押し開かれる時の圧迫感が好きなだけなのだ。
 祖母の家で食わせてもらった旨い巻き寿司を口いっぱいに頬張って、飲み込む時のほの苦しい幸福感を思い出す。多分この癖がついたのは祖母ちゃん家だろう。
 すまねぇ祖母ちゃん。
 貴方に謝罪と、感謝を。
 何故ならこの癖は、俺にとって実益のあるものだからだ。

続く

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