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彼の死3 | 手遅れ
センターの方との電話はサイレンが聞こえた時点で終わった。
部屋に救急救命士が到着するまでマッサージは引き続きしてください、との指示があった。
救急救命士の方が部屋にやってきた。
変わります、と声をかけてもらい心臓マッサージを交代してもらうつもりだったが、彼の所見を見てもう手遅れだと判断したのだろう。
心臓マッサージの手を止め、機械で心電図を見ましょうということになった。
彼の心臓はもうとっくに止まっていて、やはり死後硬直も始まっていた。
生きているときは全身を巡っている血液も一定の場所に留まるため、手の爪の色が変色していた。
彼の死亡がその場で確認された。
その後は、自宅で1人で亡くなっていたということもあって不審死扱いになるとのことで、警察へ引き継ぎになりますと救急救命士の方から言われた。
警察が到着するのを待つ間、私は近くに住む両親へ電話をかけた。
彼が自宅で死んでいた、と。
自殺?!と声色を変えて聞かれたが、私はたぶん違うと答え、すぐに向かうからと言われ電話を切った。
少しの間、彼と二人きりになった。
横たわった彼の左手をなでた。
普段は全く意識することはなかったが、肌の弾力や温かさは血の巡りがあってこそなのだな、と改めて思い知らされるくらい、彼の手は冷たく張りを失っていた。
ごめんね、と何に対しての謝罪かも分からず私は彼に声をかけた。
ほどなくして担当の警察官が数名到着した。
我が家は小さなアパートで玄関スペースも小さく、大人の靴が玄関だけには入りきらず外にもあぶれていた。
警察官が到着してまもなく両親も到着し、3人で軽い取り調べのようなものを受け、別室に移動して医師の検死が終わるのを待った。
私は検死が終わるのを待っている間も、飲み物すら喉を通らなかった。
検死の結果は、突発性心臓死。
いわゆる心臓発作だった。