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大河べらぼう◆ドラマと史実はどう違う?時系列で見てみよう

大河べらぼう。
七話の放送が終わりました。
◎七話の放送後の記事はこちら↓

実は以前から気になっていたのが史実とドラマの時系列の違いです。
もちろんドラマは創作として視聴者に分かりやすく面白く作るのが一番。私も楽しんで見ているので野暮なことを言うつもりはありません。

しかしせっかくなので、ドラマを楽しみながら史実の彼らにも想いを馳せるために、この辺で一度整理しておきたいなと思いました。

というのも、次回・八話目は、いよいよ黄表紙『金々先生栄華夢(きんきんせんせいえいがのゆめ)』が登場しそうなのですが、特に鱗形屋の偽版問題と『金々先生栄華夢』の出版の時系列が逆になっているために、このあたりが黄表紙好きとしてどうにもモヤモヤしてしまうのですよね。

◎金々先生については第六話の記事で詳しく書いていますのでこちらもあわせてどうぞ。

今回の記事は、同じように史実はどうだったの?と気になっている方の参考になればうれしいです。



ドラマの時系列

まずはドラマ内の主要な事件や出版物を、ドラマ内の時間軸で書き出してみます。

  • 明和の大火(目黒行人坂大火)

  • 『細見 嗚呼御江戸』上梓

  • 豊千代誕生(後の十一代将軍・家斉)

  • 『一目千本』上梓

  • 賢丸(後の松平定信)が白河藩の養子へ

  • 田安家の当主・治察死去

  • 『雛形若菜』上梓

  • 『節用集』偽版の罪により鱗形屋主人が捕縛される

  • 『細見 籬の花』上梓

  • 『金々先生栄華夢』上梓 ← 第八話で登場か?


史実の時系列

山東京伝「箱入娘面屋人魚」より蔦屋重三郎(パプリックドメイン)

次は史実の年代の順に並べていきます。

  • 明和9年(1772年)2月/明和の大火(目黒行人坂大火)

  • 安永2年(1773年)10月/豊千代誕生(後の十一代将軍・家斉)

  • 安永3年(1774年)1月/『細見嗚呼御江戸』上梓

  • 安永3年(1774年)3月/賢丸(後の松平定信)が白河藩の養子へ

  • 安永3年(1774年)7月/『一目千本』上梓

  • 安永3年(1774年)9月/田安家の当主・治察死去

  • 安永4、5年ごろ(1775~1776年ごろ)/『雛形若菜』上梓

  • 安永4年(1775年)1月/『金々先生栄華夢』上梓

  • 安永4年(1775年)5月から8月にかけて/鱗形屋の手代が『宝暦新撰早引節用集』重版問題で評議される

  • 安永4年(1775年)7月/『細見 籬の花』上梓

改めてこう見てみると、明和9年の大火からスタートしたドラマ内の時間は、たった2~3年のこと。吉原をバックに蔦重が版元に成りあがる助走部分を、かなりしっかりと密度濃く描いていることになります。

ドラマと史実の大きな違い

 
幕閣側の話は、蔦重たちの庶民の話とは別に「一方そのころ」といった感じで描かれるので、それはそれで庶民のシーンと前後するのはおいておいて、やはり大きな違いは『金々先生栄華夢』と鱗形屋の偽版問題の入れ替えの部分ですね。

鱗形屋はすでに安永4年1月に『金々先生栄華夢』を出版しており、偽版問題が取りざたされたのは同年5月だということです。

偽版問題については下記の記事が大変参考になりました。

この記事によれば、江戸の版元・丸屋源八と鱗形屋の手代・藤八が、大坂の本屋から『宝暦新撰早引節用集』の重版で訴えられ、安永4年5月から8月にかけて評議されたそうです。

実際の記録によれば、ドラマのように鱗形屋の主人が長谷川平蔵に捕縛されたわけではなく、手代が訴えられて本屋仲間の間での評議となったということのよう。

また偽版というのも、ドラマ内で分かりやすくしただけで、「重版」として罪に問われたようですね。

ただ手代が訴えられたといっても、主人が全く気付いていなかったとは考えにくいため、実際は鱗形屋の主人も承知の上で行っていたことでしょう。

しかし、ここで謎なのがすでに鱗形屋は『金々先生栄華夢』という大ヒット作品を出版しているわけです。
『金々先生栄華夢』は、「黄表紙」という新ジャンルを生み出し、それまでの青本・黒本(次郎兵衛兄さんがつまんないと言ってた本)を蹴散らしてしまうほどの人気を呼んだ作品でした。

そんな大ヒット作で儲かっていたはずなのに、一体、なぜ節用集の重版に手を出したのか。

これについては、先ほどの記事の中でもドラマと同じく、やはり明和9年の大火で鱗形屋も多くの版木を焼失してしまうなど大きな被害を受けたのかもしれない、それで店を立て直したかったからではないか、と推測されています。

『金々先生栄華夢』の制作にかかわる部分

さて、ドラマ内では偽版が発覚する前に、鱗形屋と蔦重が「金々野郎が出てくる話」のアイデアを楽しそうに話し合っていましたね。

おそらく次回八回目で『金々先生栄華夢』が出てくる際に、蔦重が考えた話を鱗形屋が奪ってほかの人物に書かせた(そのほかの人物というのが、駿河小島藩の家臣であった恋川春町)ということになるのでは…と思うのですが、そうなった場合は、そのいきさつはまるっとあくまでドラマの創作であると思います(恋川春町が『金々先生~』を描いたことは事実です)。

史実では今まで説明したとおり、重版の罪に問われる前に、「金々先生栄華夢」は作られ出版されているからです。

そして、すでに恋川春町は、『金々先生栄華夢』の出版からさかのぼること2年前の安永2年(1773年)、金々先生のプロトタイプといってもいい『当世風俗通』という洒落本を、朋誠堂喜三二と共に作って出しているのです。

『当世風俗通』という洒落本の存在

朋誠堂喜三二作、恋川春町画『当世風俗通』より(NDL)

『当世風俗通』は、当時の流行りのメンズファッションを紹介したもので、イケてる若者はこういった格好がいいよ!女性にもてるよ!と教えてくれる本です。
上の画像は、当時の男性のヘアスタイルを紹介したもの。ドラマでも出てきた疫病本多(左ページの右下)も載ってます。

さらに、この『当世風俗通』には『金々先生栄華夢』に出てくるファッションがいくつも描かれているのです。
例えば下記のように。 ↓

金持ちの息子ファッション
頭巾スタイル
蓑スタイル

上記のようなことから考えて、史実では恋川春町はこの『当世風俗通』を踏まえて『金々先生栄華夢』を描いた、とされているのでした。


おわりに

とはいえ、こんな風に「もしかしたらあったかもしれない」と思わせる、史実の隙間をうまく想像で面白くしていくという脚本家の方やスタッフの方のアイデアはすごいですよね。

何より、視聴者の皆さんは役者の横浜流星さんの演技含め、毎回弾けるようにミッションクリアしていく蔦重にすっかり魅了されているのではないでしょうか。

そういえば、どなたかのnoteで、「鱗形屋が偽版を出したのは、小島藩から頼まれたからで(ドラマで鱗形屋が武士と偽版の話をしていたのは江戸の小島藩邸でした)そこから春町につながるのでは…」といったドラマ内の考察をしていたのも鋭い!と思いました。
ドラマとして、このあたりに強いファクターを入れておきたいという狙いがあるのかもしれません。ゆくゆくの春町の身の上に繋がるような…。

もうすぐ登場するであろう恋川春町を演じるのは、岡山天音さん。そして朋誠堂喜三二を演じるのは、尾美としのりさん。

喜三二は毎回どこかに一瞬映っているのを探すのも楽しいですね笑

今回は、時系列でドラマと史実の違いを見てみました。
これからも、大河べらぼうがもっと面白くなる小話を書いていきたいと思っています。マガジンを作っていますので、ぜひフォローしていただいて一緒にべらぼうを楽しんでいきましょう♪


それではまた~!

※年表に間違いがあったり、これも追加しといて!ということがありましたらコメントください。必要に応じて修正します◎

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