マーケティング

「私は盲目です。助けてください」

と書いた段ボールを隣に置いて、1人の老人が、道の隅に座っていた。

彼は盲目のホームレス。耳からの情報だけを頼りに、目の前を通り過ぎる人たちに助けを求めていた。

しかし…

忙しい街の人間たちは、彼に目を向けようともしない。

たまに、増えすぎてしまった小銭を減らそうとしたサラリーマンが、無造作に何枚かの小銭を彼の前に投げ捨てる。

彼はそれを、手探りで探して、自分の目の前に置いてある小銭入れに入れる。

地面に散らばった小銭を探す彼の手は、ひどく汚れていた。

ふと、その小銭入れに手が当たって、「カラン」と音が鳴る。

目が見えない彼でも、数えられるほどのコインしか入っていないことが分かる…。

「コツ、コツ、コツ…」

そんな時、ある女性が現れた。

彼女は、そのホームレスの目の前に立つと、横に置いてある段ボールを手にとった。

目が見えない彼は、その女性が何をしているのか分からない…。

必死に耳をすませて彼女の動きを探っていると、何やら、段ボールに文字を書いているようだった。

そして、数十秒後。彼女は何も言わずに立ち去っていった。

目が見えない彼は、気が気ではなかった。「何かいたずらをされたのかも知れない…」嫌な予感がした。しかし、そんな不安は、次の瞬間吹き飛んだ。というのも...

■■ 突然、大量のコインが彼の元に。

今まで全く見向きもされなかった彼の目の前に、次から次に、小銭が恵まれていった。彼は、もう何が何だか分からない。それでも、どんどん小銭は増えていく。あっという間に、彼の小銭入れは、コインでいっぱいになった。

人通りが少なくなる頃にはもう、1つの小銭入れでは収まりきらないほどの小銭が溜まっていた。

「コツ、コツ、コツ…」

また、彼女が戻ってきた。足音、そして匂い。これは、あの時の彼女に間違いないと確信した。そして、彼女はまた、彼の目の前に立ち止まった。

「一体、何をしてくれたんですか?」

感謝の言葉よりも先に、何があったのかを知りたかった。すると彼女は、優しい声で彼に「秘密」を打ち明けた。

「同じ意味の言葉を書いただけよ。“違う言葉”を使ってね」

・・

・・・

彼女が書き換えた言葉、それは....

「今日は素敵な1日。でも、私はそれを見ることが出来ません…」

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?