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山田連合/鶏不逢志慶

 我々……私とケンジの共通点は2つあった。ひとつは同じ「山田」の名字を持つこと。もうひとつは、友達がいなかったこと。休み時間に騒がしい教室のなか手持ち無沙汰となった我々は、その手を取り合い「山田連合」を結成することにした。
山田連合の活動は、雑談のちカードゲーム。たまに一緒に帰ったりもする。ケンジは自転車通学なので、雨の日は傘を差し歩かなければならないのだ。私は、1人の寂しさを知っているのでその横をともに歩く。6月の数少ない楽しみだった。
さて、そんな山田連合にもあるひとつの試練が訪れる。受験戦争だ。来たる1月16日に備え、我々の活動内容に「勉強」が加わることとなった。私は教科の課題をし、彼は自主学習をした。私は息抜きにジャンプを読み、彼は英単語帳を読み返す。何度も捲られた英単語帳は、見る度にぼろぼろになっていた。やがてケンジは私よりも机に向き合うことの方が多くなり、山田連合は解散の危機を迎えることとなった。

「ケンジ」

放課後に呼び止めたのはいつ以来だろうか。

「どうかした」

「あ、いや」

咄嗟にポケットの中から紙箱を取り出す。不器用な手つきで取り出されたそれを、震えた声とともに差し出した。

「カードゲームを、しようと、思ってね」

アドリブの下手な私を、ケンジは訝しげに見つめる。

「いいよ」

もどかしい空気と一緒に、私とケンジは机に向かった。

「次は私の番か」

私は山札からカードを1枚引いて、手札に加えた。それは〈僧侶〉のカード。一言で表すと、守りの手だ。変な言動で自分を守っていた私には、ピッタリの代物かもしれない。でも今はいらないな。私はもう1枚の手札から〈魔術師〉のカードを出す。

「〈魔術師〉を使用。捨てるのは自分で」

〈魔術師〉の効果で私は手札を一枚捨てて、山札から一枚引く。新たに手札に加わったのは、〈姫〉のカード。心臓とも呼べるくらい大事なカード。これを捨てた時、私は文字通り負ける。

「じゃ、次は俺だな」

ケンジは一枚引くと、〈道化〉のカードを取り出した。

「効果で手札を見せてもらうよ」

もう負けそうだ。私は手札の〈姫〉を渋々見せた。捨てられないのなら、隠さなればならない。だが道化はふざけた顔をして覗き込む。ノートとにらめっこしていた時には出ない、勝負を楽しむ顔だ。

「ところでさ」ケンジは〈姫〉を見ながら話しかける。

「今日話しかけたのって、これで遊ぶ為じゃなかったよね。言いたいことでもあったんじゃない?」

すぐに答えることはできなかった。蓋をした言葉が喉の奥で膨張し続け、私は窒息しそうになる。
「ケンジはさ、いつも優しいよな」吐き出すのに、そう時間はかからなかった。

「遊んでくれるしさ」山田連合を持ちかけたのは、ケンジの方だ。

「バカにしたりもしないし」ケンジは真面目すぎて友達ができなかった。煙草を吸いたくなかったらしい。私はふざけすぎて友達ができなかった。女なのに、男みたいだってよく言われていた。
「一緒に帰ることもあった」雨の日にケンジは、いつも親の迎えを断っていた。友達と一緒に帰ると伝えて。

「要するにさ、私が言いたいことはさ」私はなぜかまた震えていた。

「大学試験に落ちてほしい」

「いやどうしてそうなるんだよ」

その後私たちは「友達漫才」とゲームを続けた。

──ケンジの受ける滑り止め、私の第1志望だったんだよ。言葉に再び蓋をして、勝負をする。
私の行動は空振りし、ケンジのターンとなった。

「〈魔術師〉。捨てるのは山田で」

「そりゃどっちの山田だ」

私は笑いながら手札の〈姫〉を捨てた。ルールは覚えている。〈姫〉が捨てられたから、カードゲーム『ラブレター』は、これにておしまい。

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