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なぜ歯に衣着せぬインフルエンサーが生まれるのか

映画「The invention of lying」は、嘘がない世界で嘘を開発した男を描いています。擬態や、隠すことはあっても、人間のような相手の認識を想像しながら嘘をつく生き物はいないと言われています。

嘘がない世界がいかにおかしいかをこれでもかと表現しています。なにしろ似合ってない服を来ている人に「似合ってますよ」というのは一種の嘘なのですから。

そう考えると社会を円滑に回していくために嘘は必須のものだと考えられます。一方で人間は嘘をあまりにつき続けると、苦しくなります。嘘はこころと言葉の不一致ですから。人生で心とは違うことを言い続けてきた人は、どこかで歪みが表出すると私は考えています。

ポリティカルコレクトネスは、ここ数年で大きく広がりました。社会の中の不正義を押し除けたことは素晴らしいですが、最近はちょっとした発言でキャンセルされるようになりました。それをみて大人は皆社会的にこの発言が許されるかどうかを日々探るようになりました。

しかし、人間の心はそれほど早く変化しません。では、心が変わる速度と、ポリティカルコレクトネスが進む速度が合わない時、人はどう対処するのでしょうか。嘘(ある種の)で対応します。まだ腑に落ちていないけれど、言葉の上ではきちんと基準に従うわけです。

これは心と言葉が不一致の状態です。一定量であれば耐えられますが、閾値を超えるとストレスを感じるようになります。どこかで本当に思っていることを言いたい。心と言葉が一致した状態になりたい。

このエネルギーはバカにできないほど大きいと私は思っています。王様の耳はロバの耳だと叫ばずにいられなかったのは、黙っておくことが、または嘘をつくことが、我慢ならなかったからです。心と言葉の不一致はそれほどにストレスを与えます。

歯に衣着せぬインフルエンサーが、各国で登場していると感じています。それは心と言葉の不一致からくるストレスに耐えかねた人たちの、欲求が生み出したとも考えられないでしょうか。つまり、インフルエンサーが先ではなく、求めた人が先にいた、と私は考えています。

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Dai Tamesue(為末大)
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