伸びる集団と伸びない集団
今回は「集団」について話をしていきたいと思います。
こちらを見られている方は個人競技の人がやや多いのかなと思うのですが、
個人競技であってもチームに所属することが多いですし、チーム競技であれば尚更集団について考えることは大事です。
今回は『Winning Alone(ウィニング・アローン) 自己理解のパフォーマンス論 』にも書いている、集団に関する章からいくつか引っ張ってお話します。
集団から何かをもらおうと思っている人は
質の良い集団から選ばれにくい
まず「どんな集団が良い集団なのでしょうか」という質問をよく受けるのですが、それは結局、「自分自身が一体何をその集団から得たいのか」、「その集団を通じてどんな人間になりたいのか」といったことが影響してくると思います。
例えば「僕は陸上がやりたいんです」と言っても、陸上競技を通じて五輪に行きたいのか、それとも仲間と一緒にワイワイやりたいのか。または陸上通じて学んだことを人生に活かしていきたいのか。色々目的があります。
その目的によって、向いている集団と向いていない集団が決まりますから、まずは「自分がどうなりたいか」を決めるのはとても大事になるんですね。
今度は集団側から見た論理というのは、とてもはっきりしていて、集団から何かをもらおうと思っている人をたくさん入れると、みんな「待ちの人間」ばかりになるので、集団として機能しないわけです。一方で「自分がこの集団を変えるんだ」とか、「この集団を良くしていくんだ」と思ってる人を集めると、主体的な人ばかりになるので、チームが良くなります。つまり、集団からすると集団に入りたい人間よりは、集団が入って欲しい人間の確率を高めておきたいわけです。
そもそも集団から何かをもらおうと思っている人は、良い集団、質の良い集団から選ばれにくいわけですね。まずは自分が主体的にどういう集団に入りたいのか。そこで自分は何をその集団に提供したいのかというのを考えるところからスタートするといいと思います。
この“A”が自分だとします。
①ちょっと集団のレベルが低いからトップに位置できる集団もあれば、
②自分のレベルが真ん中に位置する集団、または
③集団のレベルがかなり高くて自分には厳しいなという集団もある。
どれがいいんでしょうか。
色々な考え方があります。
③のように、低い位置から将来的に高い位置に引き上げてもらうという考え方もありますし、②で揉まれるという考え方もあれば、①でトップになるという考え方もある。
私個人の感覚では、なんとなく②の中〜上位に位置できるような集団を選ぶのがいいんじゃないかなと思います。
よく高校のチャンピオンが大学に入って、みんなに揉まれてダメになってしまうということがあります(①→②)。
私も高校の時に1番で、大学に入った時に周りのレベルが高くてスランプに陥ったことがあるのでよくわかるのですが、要するに、集団で走っていても「先頭で走る」のと「2・3番目で走る」のでは全然意味合いが違うんです。
例えば、「今日は200m走を5本だ」と走っていても、先頭で走っている時は自分のペースをコントロールして動きにも余裕があるんですけど、後ろから追いかけていくというのは、慣れないうちは余裕を持って走れないので、そのチームの1番でやる練習と4・5番あるいはもっと後ろでやる練習は全然違ってきます。
まずチームで自分がどれくらいの位置にいるのかというのはとっても大事になります。
そこまで強くないチームは言葉の定義が曖昧
もう1点よく見て欲しいのは、そのチームが色々なビジョンを掲げるなかで、口癖にしている言葉です。そのチームが当たり前のようにどんな言葉を使っているのかというのは、すごく重要になります。
そこまで強くないチームは、言葉の定義が曖昧なんです。
例えば、「足腰」とまとめて言ってしまったり、色々な分析も「負けて悔しい、がんばるぞ」みたいなことしかなされないチームは、そもそも学習の精度が高くないので、あまり強くならないです。
不思議と人間っていうのはそういうチームにいると、言語がうつってしまうので、曖昧な言葉を使っている集団というのはあまりお勧めしないです。
「足腰を鍛える」というと、例えばハムストリングスと大腿四頭筋の比率というのは6:4の力のバランスが一番ケガをしにくいと言われていますが、「ハムストリングス」と「大腿四頭筋」のように使い分けているチームであれば、「ちょっと肉離れしました」という時に、「大腿四頭筋の方が弱いから鍛えた方が良いんじゃないか」という話になります。「足腰」と言っているチームは、肉離れをした時、「足腰が弱いから足腰を鍛えた方が良い」となるわけです。
そうなると余計にハムストリングスを鍛えて、大腿四頭筋とのバランスを崩す可能性もあります。
どれくらい粒度を細かく、正確に言葉の定義を決めて使っているのか。
チーム内でその言葉の定義がきちんと共有されているのか。
これらはとても重要なことで、その辺りを見てもらえると良いと思います。
私が日本の学校選び(部活)で一番問題だと思う点は、自分が入ろうと思っているチームの情報があまり出回っていない点です。
どんな練習をしているのか、どんなコーチなのか、外に情報がないので皆当てずっぽうで決める、もしくは今の学校の監督が決めるということがあって、マッチングの問題が大きくあります。
自分の進路は自分の人生なので、ちゃんと主体的に決めて、主体的に決めるためには情報を集めて何が自分にとって良いのかというのを考えていくのが大事だと思います。
人間は同じカテゴリーだと思う人に影響を受ける
もうひとつ、集団に関して大きな法則があって、人間は自分と同じカテゴリーだと思う人には影響を受けるんですが、違うカテゴリーだと思うと影響を受けないという性質があります。
例えば、ジャマイカの選手の記録が伸びると、中南米の選手とアメリカの選手は刺激されて記録が伸びやすくなるんですが、日本とか東アジア圏の韓国や中国あたりは、あんまり影響を受けないんです。
それは、「なんとなく自分達はこのグループ」というのを私たちは決めていて、その範囲の中の人をライバルだと思っているわけです。ライバルだということは、自分とは変わらないと思っているわけで、「その記録が伸びたのなら、じゃあ自分もやれるんじゃないか」といって記録が伸びるわけです。
「自分とはちょっと違うな」と思っているカテゴリーの人が伸びても、「あれは自分とは違うので」と、記録に影響を受けないわけです。
同じチーム内でも、中レベルの人たちは影響を与え合っていますが、その集団のトップの選手がいくら活躍しても、「あいつは元々俺たちとは違うから」と、影響をあまり受けないわけです。
チーム全体のレベルが上がる時は、中レベルの選手が伸びる時です。
中レベルの選手が伸びると、
「え?あいつ昨日まで俺と一緒だったのに、もうあんなになっちゃったの?」、「じゃあ俺にもできるんじゃなか」ということで刺激を受けて上がっていくんです。
自分とは違うカテゴリーに人を追いやった途端、この影響は受けられなくなるので、上手に自分を引き上げてくれるような、なんとなく②自分のレベルが真ん中に位置する集団くらいのポジションがやりやすいんじゃないのかなと思っています。
いずれにしてもこの集団選びは人生でそんなに何回もできませんので、ものすごい精度で学習していかないといけません。競技に関しては、もし国内で競技をやっていたらチーム選びは、多くても高校・大学の2回選択をするくらいで終わってしまいます。
その2つでミスをしてしまわないように、よく情報を集めて決めていって欲しいと思います。