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浪人時代の話(その5)

大事なことを忘れていた。
夏休みには東京に大学見学に行った。
高校同期のT君の家に5日間泊まらせてもらった。
T君は東京都立大学に現役で進学していた。
お世話になったなと思う。
さて、東京で見学した大学は東大・一橋・早稲田・慶應・中央である。
まずは中央大学多摩キャンパスに行った。
山の中だな、と感じられる。たしかに緑が多く綺麗なキャンパスだ。
一方で、自分がかつて住んでいた生家や実家のことが思い返された。
これでは私の故郷から大都会東京に出る、ということの意味がなくなってしまうと感じられた。受験するかどうかはともかく、中央法に進学することはないな、と意志を固めた。
翌日、早稲田と慶應を回ったが、印象にない。東大に落ちれば早稲田か慶應に進学するんだろうな、というくらいだ。
次いで、東大駒場キャンパスを訪れた。大学構内を回っていると、女子大生に声をかけられた。「バドミントン興味ありませんか?」私を東大生だと思ったのだろう。私はとっさに、「結構です」と答えたが、「今は浪人生で合格したら入ります」などと答えて話を聞くのも良かったのかもしれない、とも今なら思う。
最後に一橋に行った。
高校のクラスメイトで現役で一橋法に合格していたKさんに案内してもらった。情報ルームを案内してもらい、本当はダメだが、IDとパスワードを教えてもらってログインした。内部情報などは見ていないが、当時はネット環境がない学生も多かった。新鮮で楽しめた。「もういいかな?」と熱中する私にKさんが声をかける。そして国立のキャンパスを後にして、喫茶店に入った。「Kさんは一橋のどのあたりが気に入って進学したの?」と何の気なしに私が尋ねると、「私は東京の大学の法学部に進学したかっただけであって、一橋に入りたかったわけではないから!」と怒りを込めて返事が来た。よくよく思い返してみた。Kさんは数学と物理と国語と世界史が得意。センター試験でも数学は190点以上、物理は1ミスである。一橋入試本番でも数学は4問半解いたらしい。全完まであと少しだったそうだ。法学部だから一橋になったタイプである。東大の日本史がどうしてもダメだと言っていた。文II文IIIなら日本史はカバーできるが、文Iなら難しいということだろう。京大法でも合格できているだろうし、東大も文Iと理III以外なら合格出来ているだろう。Kさんのプライドを考慮しなかった私の落ち度であった。「ごめん」と謝った。
そして店を出て、お礼を言ってKさんと別れた。

Kさんは大手生保に入り、社内恋愛で結婚をした。と30の頃に聞いた。
氷河期で大手生保、やはり文IIや理Iに合格できる学力があれば就職も上手く行くのだな、と後年思った。彼女が体育会に入っていたのもあるのだろうが。

大学見学では一橋に関しての印象が強かった。私の母は私立大学の社会学部出身で、「学力が高ければ一橋社会学部に行ってみたかった。一橋は日本で唯一の国立大学の社会学部があるところだから」という話を聞いていた。関西では認知度が低いとはいえ、一橋は実力のある大学である。一方で、一橋に入ると早慶と同じで東大コンプレックスを抱えてしまうのか、と感じ、文Iになんとしても合格しなければならないと決意を新たにした。

続く

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