ショートショートその48『フクロ小路』/- 「正しい答え」は、時に「正しくない答え」となる。世界は二つに分かれた。従う者と、問う者と……
「どのサイズのレジ袋にいたしますか?」
この質問を聞くたびに、私は深いため息をつかずにはいられない。
まるでカフカの『城』の主人公のように、私はこの不条理な儀式に巻き込まれている。
スーパーのレジに立つたび、この謎めいた質問が投げかけられる。
Mサイズ?Lサイズ?まるで服のサイズを選ぶように。
しかし、私の買い物は既にカゴの中にある。
その容量は一目瞭然なのだ。
「これが全部入るサイズでお願いします」
私の返答に、レジ係の若い女性は困惑の表情を浮かべる。
まるで私が「人生の意味とは何か」と尋ねたかのように。
彼女は他の客には「Mサイズですか?Lサイズですか?」と機械的に聞き、客も「はい、Mで」と反射的に答える。
この暗黙の儀式に従わない私は、明らかに異分子なのだ。
店によってサイズの基準も異なる。
あるスーパーのMサイズは、別のドラッグストアではLサイズかもしれない。
この混沌とした規格の世界で、私たちは毎日買い物をしているのだ。
「すみません、これが全部入るサイズでお願いします」
レジ係の女性は一瞬動きを止める。
まるでプログラムにない命令を受けたロボットのように。
「あの、Mサイズかそれともお客様…」
「いえ、これが全部入るサイズでいいんです。毎日レジに立っていらっしゃるので、ご判断いただけると」
彼女は困ったように上司の方をちらりと見る。
まるで「このお客様、想定外の応答をしてきました」と助けを求めているかのようだ。
「お客様、Lサイズでよろしいでしょうか?」
「いいえ、そうではなくて。この買い物かごの中身が全部入るサイズをお選びください」
レジ係は再び固まる。
後ろの列から小さなため息が漏れる。
私の横を通り過ぎる客が「めんどくさい客だね」と囁くのが聞こえる。
「あの、当店ではMサイズとLサイズをご用意しておりまして…」
「ええ、そうですよね。だからこそ、この量に最適なサイズをお願いしているんです」
完全な袋小路だ。
レジ係の困惑は頂点に達し、後ろの客の視線が私に刺さる。
私は社会の歯車を狂わせる反逆者となった。
スーパーマーケットの空調の音だけが、この不毛な沈黙を埋めている。
結局、彼女は おずおずとLサイズの袋を取り出した。
その仕草には「とりあえずこれで許してください」という懇願が込められているように見えた。
時々考える。
これは環境省の陰謀なのではないかと。
この煩わしい会話を繰り返させることで、人々をエコバッグ使用へと誘導する密かな社会実験。
だとしたら見事な成功だ。
しかし私は諦めない。
毎回同じ答えを返し続ける。
なぜなら、それが最も論理的な答えだからだ。
たとえ、論理が通じない世界での孤独な戦いだとしても。
レジ袋有料化から数年。
制度は定着したが、人々の思考は硬直したままだ。
そして私は今日も、スーパーのレジに立ち、例の質問を待っている。
ポケットの中のエコバッグの存在を無視しながら。
これは、たかがレジ袋についての些細な物語。
されど、現代社会の不条理を映し出す、小さな鏡なのかもしれない。
【糸冬】