2006年のこと(夏)
2019年6月29日土曜日。
映画「モデル 雅子 を追う旅」公開27日前。
前回に書いたようなことになったので、
「夏休み取ったら旅行に行こう!」となった。
色々検討した。
パリ。「夏行っても、どこも休みだよ」
トルコ。「うーん、なんか」
バリ島。「だから日焼けはさあ」
などなど悶着あった。
今にして思えば雅子は、
彼女の趣向が合うどの行き先が、
僕に合っているのかを考えていたと思う。
パリが大好きなはずなのに、その時はNGだった。
雅子はきっと「今の大介にパリの良さは分からない」と
うっすら感じていたのかもしれない。
その話はまた後に書く。
で、決まったのはイタリアだ。
たしか雅子も行ったこと無かった?はずだ。
もちろん僕も初めてだった。
5泊7日の限られた期間にどこを回るか。
かつて手掛けた映画「ハンニバル」の舞台になった、
フィレンツェは外せない。
地図やガイドを見て、
フィレンツェを起点に巡れる都市を考えた。
フィレンツェ→ヴェネツィア→ミラノ。
まあまあ駆け足だ。
フィレンツェでは、ポンテ・ヴェッキオの南詰の小さなホテルを取った。丘にそびえるベルヴェデーレ要塞、その裏手のオリーヴの小径、ミケランジェロ広場までまた丘を上って、ボボリ公園に戻って、暑い中よく歩いた。
次の日は、二人とも「市場」が好きなので、朝からサン・ロレンツォ聖堂のそばの露店街を見ながら歩いてメルカートへ。ポルチーニの乾物を買ったりオリーブ油たっぷりのサラダを食べたり。そこからサンタ・マリア・ノヴェッラ教会を抜けて、かの有名な薬局へ。雅子はまるで賢い犬のように店内をくまなく見て嗅いで歩き回り、2時間くらい出てこなかった。そこからヴェッキオ広場。ヴェッキオ宮の豪奢な意匠を見て回り、シニョリーア広場からレクターがパッツィ刑事を吊るしたバルコニーも見上げた。ジオットの鐘楼を登る。雅子は最初「え〜〜〜」と嫌そうな顔をしたけど、最後まで脚で登りきった。ハアハア言いながら二人で色々撮った。もちろん隣の大聖堂の中にも入り、古いまま地元の人々の祈りを受け止めている様に感嘆。レストランに向かう前に子豚の像の鼻を二人で撫でて、食べた後はレプブリカ広場をほっつき歩き、ストリートの声楽家に拍手。3日目は朝から駅に向かった。
列車に乗ってみたかったのだ。フィレンツェからヴェネツィアへ。ヨーロッパで列車に乗るのは初めてだった。雅子はユーロスターで何度かフランスからイギリスへと行き来したと言っていた。最初は新型車両、乗り換えたらそこそこ古びた車両の個室。思いの外早くサンタ・ルチア駅に着いた。リアルト橋のそばのホテルを取って、歩く歩く。小径が多いので迷路のようで楽しい。サンマルコ広場まで行ってランチ、とにかく暑くてビールが進む。島全体が観光地なんだろうけど、裏道に入れば地元の人しか行かないようなスーパーもあって、それがなかなか楽しい。住んでる感出して見て回る。4日目は、ほぼ衝動的にフェニーチェ歌劇場のツアーに参加。10年前の火事からまだ修復工事を続けているとか。いつか戻ってきて演目を観よう、と二人で誓った。
そして、ヴェネツィア映画祭の舞台、リド島に水上バスで渡るのだ。映画祭の舞台がどんな場所かを見たい、そして雅子のお目当ては「Hotel Des Bains」。映画「ベニスに死す」の舞台。泊りもしないのにロビーを歩き回って、シャンデリアの下で「ふふん」と座る雅子を隠し撮るのが面白い。そしてホテルの地下を抜けて、ビーチへ。太陽も降りてきていて人も少なくて風も気持ちよくて、海を見ながら二人で「果て」感を満喫した。
夕食も島のタベルナで。オバちゃんなんだかオッサンなんだか判らないTシャツの人が店を仕切っていて、二人で観察しながらケラケラ笑っていた。水上バスで戻るときにはすでに深夜。そして通勤で「帰る」人もいて、ここで「暮らす」想像に浸ったりしていた。
5日目の朝、また支度して駅へ。今度は列車で、1日だけのミラノへ。駅について荷物を預けるまでに一悶着してまあまあ時間をロス。街行くオッサン達がカッコ良いのなんの。ランチでカツレツ食べに入ったら、ウェイトレスの女の子が雅子をほめて離れない。ドゥオーモは工事中で残念。振り返ればガレリアで、壮麗な建物の中に現代のブランド店がびっしり入ってる。中心の牛のモザイクで一回転、一発で決めた。
雅子にも「やんなよ」と勧めたら「わたしはいいや。踵じゃなくてポワントだし」とか良く判らないこと言ってごまかす。お土産探しは、ガレリアから出てコヴァの店でお茶しつつチョコレート爆買い。その店で、ロン毛白髪の濃い顔つきのオジさんが、汗だらだらでひっきりなしに携帯をかけまくっていて、雅子の観察が止まらない。ついにオジさんがスーツの胸元から携帯「扇風機」を取り出してプ〜〜〜ンと自分の顔に向けたとき、2人のツボに入って息を殺して笑い転げた。
旅。
二人での旅はたまらない。
暮らすのと同じように、旅はとても大事だ。
ただ遊び・観光・消費でなく「知らないところを共に歩くこと」。
それを淡々と出来れば、合っている良い相棒なんだろうと思う。