別れの時は別の顔
子供の頃、近くの田んぼでおたまじゃくしを網で掬って、家に持って帰って来たことがあった。水道水そのままではおたまじゃくしは死んでしまうから、正月に食べた酢だこの入っていた白いバケツに水を汲んで、一日陽に当てて塩素を飛ばし、そこに掬って来た大量のおたまじゃくしを放った。
はじめは酢だこのバケツの中を、元気いっぱいチョロチョロと泳ぎ回っていたおたまじゃくだったが、数日すると一匹死に二匹死にと、日を追う毎にどんどん数が減っていった。そして、終いには一匹となってしまった。
生き残ったそのおたまじゃくしは、来る日も来る日もチョロチョロチョロチョロとすばしっこく、元気に縦横無尽に泳いでいた。
学校から帰って来ては、ランドセルを背負ったまましゃがみこんで、私はそのおたまじゃくしを飽きもせず毎日眺めていた。
可愛くて仕方がなかったのである。
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