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pasteltime
彼女の初恋
中学生時代、彼女の気持ちがわかったのは、卒業式もあと数日に迫った、ある日のことだった。
一級下の彼女が私のいるクラスへサイン帳を手に、歩幅も狭く肩をすぼめた状態で、居心地の悪そうに一点を見つめながら、思い詰めたように私のところへやって来た。
「先輩。あの、私のサイン帳にお別れのサインを書いてくれませんか」
彼女は胸の前でしっかりと大事そうに抱えていた サイン帳から、私の前にそっと一枚差し出した。
一級下の彼女は真山さんといって、私のクラスメイトだった軽度の知的障害を持った三人の生徒を、私が特殊学級に連れて行く役目をしていた際、そこで顔を合わせるようになった女子生徒だった。
真山さんも軽度の知的障害を持っていたから、朝のホームルームの時間と給食の時間以外は、彼らと同じ教室で学んでいた。しょっちゅう顔を合わせていた記憶はないが、真山さんはいつの頃からか私に好意を寄せていたらしかった。いつも上目使いで私の顔を見ながら、ちょっと前歯の出た口を半分ポカンと開けた、いつもぼんやりしている女の子だった。
他のクラスの生徒や在校生と接する機会が少なかった真山さんは、私がクラスメイトの三人を連れて行くといつもニコニコして、遠くから私のことを眺めていた。
思春期真っ只中であった十代半ば、真山さんもきっと性の目覚めや同性への憧れ、異性への好意、そんなものがあったのかもしれない。軽度の知的障害を持った真山さんのそんな感情がどのようなものだったのか、性の目覚めというものが私たちのそれとは違い、具体的にどのようなものであり、どれぐらいのものであったのか私は知る由もなかった。
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