ドラマ「ブギウギ」を観て思うこと。
十月から始まった朝の連続テレビ小説「ブギウギ」を観ている。
当初、この作品を私は観ようか観まいか迷っていた。なぜならば主人公となったモデルが、私が長年大好きである「笠置シヅ子」であるだけに、思い入れが強かったのが理由の一つ。
もう一つの理由は、余り好きではない役者が出ていたからである。好き嫌いの激しい私は、扱う題材、脚本、それらがいくら良くても出演者の中に好きじゃない役者がいると、観るのをやめてしまうことが多々あるのだが、今回のドラマ「ブギウギ」の中でも私の好きではない役者がかなり出ていたので、どこまで観ていられるか「我慢比べ」と言った観方であった。
しかし、私の大好きな笠置シヅ子の人生をモデルにしている、そして、これまた大好きな淡谷のり子も登場、そして、戦争が始まり時代が悪い方へ大きく変わって行く中にあって、新たなモダンな文化や芸術が花開いた戦前からの話ということもあり、結局私は何だかんだ含むところもあるが、今もドラマを観ている。
彼女たちの人生の中で起こった最も知ってほしい出来事を、一部だがそれを本にまでしてしまったくらい、私は二人とも大好きなだけに、そのキャストのネーミングや役者の佇まいや演技、様々な面で良くも悪くも鼻について仕方がないところもあったのだが、それはもう別のものとして観るようにしている。
ただただ、このドラマが好きだという方からしてみたら、私は偏屈者でしかないと思うのだが、お許し頂きたい。
だって考えてもご覧なさい、今をときめくアイドルたちを「推している」人と同じ感覚なのだから。
大好きな人や物に、誰かに「手をつけられる」ということはそういうことなのである。
ドラマは下手に史実を知らず、思い入れも強くない状態で観るのがいちばんであると、私はつくづく感じた次第である。
今回、このドラマについて私的感想を書きたいと思う。まず、二人の役者・蒼井優と水川あさみの素晴らしさを知るまたとない作品となったことに、触れずにはいられない。
蒼井優は笠置の先輩に当たる松竹少女歌劇団の娘役・大和礼子(モデルは飛鳥明子と思われる)を演じた。
一見、清楚で美しい佇まいの大和たが、親の反対を押し切り歌劇団に入団し、その後、早過ぎる死を迎えるまで一度たりとも両親とは再会を果たさなかった、当時としては一本芯の通った非常に意思の強い女性を好演した。
一方、水川あさみは、養母でありながら手塩にかけて笠置を愛情深く育て、そしてまた家業である銭湯を明るく切り盛りしながらも、養母という立場から、少しばかり神経質で繊細な一面を持つ笠置の母役を好演している。
歌に関して言えば、趣里演じる笠置の歌唱シーンは、笠置本来のパンチのある歌声をレコードで散々聴いていた私には、余りにもか細くて弱々しく、良く言えば優等生。厳しい言い方をすれば、そこだけは笠置のレコードに合わせて口パクでお願いしたいと思ったのが本音だが、それは私の「推し」でもあった「笠置シヅ子」の歌だから仕方がないのだろう。
強いて言うなれば、趣里のおかげで今まで広く知られていなかった服部良一と笠置シヅ子による「ラッパと娘」や「センチメンタル・ダイナ」から始まり、戦後に花開くブギのメロディーを多くの日本人、特に若い世代が知るきっかけになったことは、非常に嬉しい限りである。
こんなにもこじゃれた歌が日本に、しかも一九三〇年代という戦前にあったという事実は、ある意味、衝撃的だったのではないだろうか。ひょっとしたら、カラオケで普通に笠置シヅ子の「ラッパと娘」や「センチメンタル・ダイナ」を歌う女子高生や二十代の若者が続出するとも考えられる。
ある意味、凄い時代である。
戦争を知らない世代が、戦時下の日本人の心を演じるということを、これから演じる側も観る側も働かさなければならないのは「想像力」である。
観る側も、ただ「再現ドラマ」を観ているという思いではなく、その時代がどのような時代であったのか、わざわざ「何年何月何日、どことどこが」といったそんな難しいところまで遡って勉強しろということではなく、そういう事実がまだ百年も経たない日本に、そして世界にあったということを心に留めてドラマを観てほしいのである。そして、自分の先祖について心を寄せて欲しいのである。
私の大伯父は悲しいが笠置さんの弟(本名・八郎)さんと同様、フィリピンのルソン島で戦死している。二十二歳の若さだった。
私は直接大伯父を知らないが、彼のことを思うと自然と涙が溢れてしまい言葉にならないのである。
今日、放送された六郎と大伯父がダブって見えてしまい、私は涙せずに観ることが出来なかった。
どうか、そういったご先祖があなたの家族にいたとしたら、それを知った時、その彼らに思いを馳せて欲しい、心を寄せてほしい。そして、手を合わせてほしいのである。
彼らの犠牲があったから、今の私たちがあるのだということ。そして、行きたくもない戦争に行って 命を落とした人。半分、騙されて戦争へ志願して戦死した人。そして、戦争で人生を大きく狂わされた人。空襲により、多くの民間人が犠牲になったこと。様々な人々があの時代にいたということを、このドラマをきっかけに考えて欲しいのである。
そして、それを地位と名誉を獲得している出演者の皆さんには機会を作り、様々な形でもっと戦争と平和について発信して欲しいと私は願うのである。
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