ワインレッドのブックカバー
そんなに多くはないが、たまに人様から物を頂いたりする。そうは言っても、旅行の土産のお菓子とかそういった気の張らない類の、ちょっとしたものが殆どだが、中には分不相応なものも頂いたりすることも、これまたたまにだがある。
もう随分と前のことだが、私の祖母は存命中、私の誕生日となると毎年欠かさず何かしら祝いの品を贈ってくれた。離れて暮らしていたので、決まっていつも小包か電報だったが、その中にすっかり忘れていた品物があった。それは、ワインレッドのブックカバーだった。革製の、文庫用のとても素敵なものである。
このブックカバーは、当時、多分、私は今と変わらず分不相応と思い、そのまま仕舞い込んでいたのだろう。つい最近まで、ずっとその存在を忘れていたのだが、こんな時代になり(コロナ禍当時)、いい加減、引っ越して来た時に放り込んだそのままになっている押入れの荷物を片づけなければと思い、祖母から届いた手紙類やその他、友人達から届いた手紙等を処分しようかどうしようかと、何日かに分けて選別を始めた。
こういう時、ひとつ読み始めたら最後、日が暮れる。結局のところ、その日はそのまま選別だけして終わりにしたのだが、もう二度と届くことのない祖母からの手紙を捨てられる筈もなく、読む予定もないのだが段ボール一箱分、 手をつけずそのまま取っておくことにした。
その中に、ちょっと厚めの本のようなものがあった。それは実際にはケースだったのだが、その中にワインレッドの革製のブックカバーがそっくりそのまま、手付かずに入っていたのだった。
十数年経っていたが、カビが生えていることもなく、きれいなワインレッドを保ったまま全く無傷で、それはまるで、昨日もらったのではないかと思うくらいピカピカのまま、私は久し振りの対面を果たした。
今でも私は、このブックカバーを見て勿体ないと思うのだが、これからの人生で祖母から何か贈り物が届くこともないのだから、 忘れた頃に届いた贈り物だと思って、大事に使おうと思いを改めた。
思えば祖母は読書が好きな人だった。
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