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⑬「団体支援」人材を育てる・育つための施策案その2〜伴走支援型連続講座(心理的安全性を確保しつつ支援感覚を養う)〜

こんにちは。NPOコンサルタントの堤大介( @22minda )です。「NPO支援者育成試論」13本目の記事です。NPOのどのような課題を支援するかという分類のうち「機能支援」だけでなく「団体支援」もやりたいと考えたとき「どのようにすれば団体支援ができるようになるか」という点について、前回と今回の記事で具体的な学習方法として有効であろうというものをご紹介しています。前回ご紹介したのは「NPO経営・NPO診断のフレームワークの学習」でした。今回ご紹介するのは「伴走支援型連続講座」です。

伴走支援型連続講座とは何か

まず初めに、伴走支援型連続講座とは何なのかというところから話を始めましょう。特に一般的に広く使われている用語という訳ではなく、私がこの連載のテーマについて考える際に便宜的に整理して呼んでいるだけのものです。

NPOを支援する具体的な方法としてコンサルティングなど「個別の団体を支援する」方法と集合研修・講座などの場で「複数の団体をまとめて支援する」方法がありますが、今回取り上げるのは複数団体をまとめて支援する集合研修です。

そして集合研修の中にも単発で完結するものもあれば、複数回に渡って実施するもの、さらには単に複数回の研修が提供されるだけでなく集合研修の間に課題への取り組みや何らかの実践を求めたりそれらのアクションに対してのフィードバックやサポート等の支援を行うものまで様々な種類や幅があるのですが、今回私が意識しているのは一番最後の例です。

要件をまとめると以下のようになるでしょうか(必ずしもすべてを満たしている必要はないですが)

- 集合研修の回数は3回以上
- プログラム全体の期間は2ヶ月〜1年程度(さらに長いケースもあります)
- 集合研修での講義以外に宿題や、受講組織・個人としてのアクションの実行などの課題が課される
- 集合研修の場でもワークショップ的な要素や受講者からの発表など、一方通行の講義ではなく双方向性の要素(講師対受講者、受講者同士など)がある
- 講師からも単なる質疑応答だけでなく、受講者・団体の取り組んだ課題に対してのフィードバックやコンサルティング・コーチング等の支援が行われる
- 扱われるテーマは「ファンドレイジング」等特定の機能的なテーマに集中して行われる場合もあれば、「NPOマネジメント(事業計画策定)」「組織基盤強化」など幅広く設定される場合もある

伴走支援型の連続講座はNPO支援の方法として優れている

これは私個人の感覚の部分が強い話ですが、そもそも伴走支援型の連続講座はNPO支援者の育成の話以前に、NPOを支援する方法としても優れていると感じています。もちろん団体の状況や課題に丁寧に向き合いコンサルティング等の適切な支援を提供する個別団体への支援は集合研修以上に効果が高くなりやすいですが、NPO支援者としても高いコミットが必要になります。当然コストが高くなるのでその費用を捻出できる団体は限られることになりますし、一人の支援者が支援できる数にもすぐに限界が来てしまいます。

一方で単発の集合研修では、団体目線では参加費用も安く気軽に多くの団体が参加することができますが、時間的な制約が大きく、個別の団体の課題に深く立ち入ったり団体側のアクションを促すことが難しいため、研修受講後の成果という部分ではどうしても限定的になってしまいます。

伴走支援型の連続講座というのは両者の良いとこ取りをしたような位置づけになります。集合研修ではありながら、個別の団体への課題やワークが課されたり、提出した課題や実行したアクションに対して講師からのフィードバックを得たり、質問・相談に乗ってもらうことができるため、研修内容を団体内部へ落とし込みを促しやすくなります。また、他の団体も複数参加するため研修で扱われる同テーマに対して他の団体の取組状況を知りながら、学ぶを深めることができたり、団体同士での相互エンパワメントなどの効果も期待できます。NPO支援者としても、事前に設計した研修のプログラムの枠組みに沿って進めることができるため、効率的に複数の団体への支援を行うことができます。主催が自治体や財団等である場合などは、開催費用(講師への依頼料など)の多くを主催者が負担して個別の団体の参加費用は低く抑えることで、財政基盤や組織基盤が整っていないフェーズの団体にも効率的に組織基盤強化等の施策を提供することが可能になります。

そして、このような伴走支援型の連続講座はNPOへの支援効果が高いだけでなく、NPO支援者を育成する機会としても有効であるというのが本日の記事でお伝えしたいことです。

連続講座がNPO支援者育成の機会として優れている3つの点

ここからはなぜ伴走支援型の連続講座がNPO支援者育成の機会として優れていると考えているのかをお伝えしていきます。
育成対象となるNPO支援者候補は、伴走支援型の連続講座において、まずは講師ではなく受講団体のワークや議論のサポートや壁打ちを行う役(伴走支援役)として参加する設計にするのが良いでしょう。伴走支援役の付け方は、固定せずさまざまな団体のワークの補助に参加する形もあれば、特定の団体を特定の人材が担当するパターン、一人の伴走支援役が複数の団体を担当するパターンなどプログラム全体の設計の中で色々と考えることができますが、プログラム期間中の議論の変遷や組織変化の過程に伴走できる方が経験は積みやすいのでNPO支援者の育成という観点では担当制にする方が良いでしょう。そしてメインの講師はNPO支援経験の十分にある一人前の支援者が担当します。

こうした設計を行うことにより、NPO支援者育成という観点から見てさまざまなメリットがあります。

①受講団体とともに講義を聞くことによりNPO経営(やその他研修テーマについて)のフレームワークを学ぶことができる
②NPOがフレームワークのどこでつまづきやすいのか、教科書通りに進まない部分を知ることができる
③講師や他の伴走支援役に相談しながら進めることができる

順に解説していきます。

①受講団体とともに講義を聞くことによりNPO経営(やその他研修テーマについて)のフレームワークを学ぶことができる

①については前回の記事でまとめた通り、NPOを支援するためのフレームワークや専門的な知識を学ぶことが重要なのですが、伴走支援役として研修に出席することで受講団体とともに学ぶことができるということです。受講団体の反応なども見ながら学ぶことができるので、単に一人で講義スライドを見たり書籍を読んだりするよりも学びが大きくなりやすいです。

②NPOがどこでつまづきやすいのか、教科書通りに進まない部分を知ることができる

そして、講義された内容に対してどこでどのような質問が出るのかといったことや、ワークへの取り組みの中でどこで議論が詰まってしまいやすいのかといったことを実際の団体の声や感覚を見て感じ取ることができます。前回の記事でも書きましたが、フレームワークや教科書通りには進まない部分が多々ありますし、そうしたつまづきやフレームワークからのズレは場合によってはその団体の特徴や強みであって矯正すべきような部分ではないといったことも往々にしてあります。また、講義やワークの内容が例えばWebマーケティングだったとしても、そもそもビジョンや中期計画が曖昧な状況ではWebマーケティングの議論は進められないといった本質的な課題に直面するといったことも、ある程度の長期間で幅広い内容を扱う連続講座では比較的起こりやすいです。NPO支援をしていく上で非常に重要な感覚を実践的に養うことができます。

③講師や他の伴走支援役に相談しながら進めることができる

さらに、伴走役として講座中のワークを進めるための議論のファシリテーターや壁打ち役を務めたりする中では、受講者の方から質問や相談をいただく場面や、議論が煮詰まって何らかの介入が必要な場面に直面することもありますが、適切な対応が分からないといったケースも当然生じるでしょう。一人で団体の支援に入っている状況であれば、基本的にはすべて一人で対応する必要がありますが、自身が伴走支援役として参加している連続講座の場であれば、適切な対応がわからないものは講師に相談をしたり、他の伴走支援役に助けを求めることができますし、自分が対応方法がわからなかった場面に講師である先輩支援者はどのように対応をするのかも学ぶことができます。

心理的安全性の高い環境でいかに支援経験を積むことができるか

ここまで書いてきたように、連続講座におけるサブの伴走支援役という関わり方は色々と優れている点はあるのですが、特に重要な②③をまとめると「心理的安全性が高い状態でNPO支援の実践経験を積むことができる」ということができるでしょう。

プロのNPO支援者としてNPOに関わるというのは支援テーマや関わり方は多様であれ、基本的には何らかの専門性を持った人材として団体と関わることになります。仕事として自分自身の専門性を適切に提供していくためには、専門性の範囲を丁寧に伝えることや期待値コントロールをしっかりと行うことなど支援者として仕事をしていく上での適切なコミュニケーションも身につけていく必要がありますが、そのような感覚はいきなり身につくものではなく、ある程度場数を踏むことも必要です。特に初期の頃はたとえ自分の専門性から多少外れたものであっても「できない」「わからない」を言うことに抵抗感を持ってしまう場合も少なくないと思いますが、一人で支援者として団体に入った際に、そうした振る舞いをしてしまうことはトラブルの原因になってしまいます。「できない」「わからない」を適切に表明できるということは心理的安全性の重要な要素とも言われていますが、自分ひとりが最終的な責任を持つ立場ではなく、メインの講師が別に居て、自分自身はサブの伴走支援役であるという状況は最悪わからないことや対応しきれないことが出てきたとしても大丈夫であるという認識をNPO側とNPO支援者候補の双方が持ちながらNPOと関わっていくことができる安心・安全なNPO支援の実践演習の場と位置づけることができるのです。

実際にどのようにNPO支援者の育成に活用するか

ここまで、伴走支援型の連続講座がNPO支援者育成の機会として優れているということを述べてきましたが、では実際にどのようにNPO支援者の育成に活用していくことができるでしょうか。私自身がこれまで経験してきたケースは大きく3パターンです。(中間支援組織等が本記事で言う伴走支援型の連続講座を企画する際に、講師と伴走支援役を誰が務めるのかという観点での場合分けです)

パターン①講師・伴走支援役(NPO支援者候補)ともに内部人材
まず一つ目はNPO支援に関わるサービスを提供している企業や中間支援団体がメイン講師もサブの伴走支援役(育成対象者)もどちらも自社社員で実施するケースです。コンサルティングサービスを提供している会社の他、NPOセクターではファンドレイジング等の支援サービスを提供しているプラットフォーム企業が伴走支援サービスまで提供するようになっているケースが複数ありますので、こうした企業では例えば新卒の社員でNPO支援経験が多くない人材を育成対象者として伴走支援役から経験させていくということは十分に機能するでしょう。

パターン②講師は外部、伴走支援役(NPO支援者候補)は内部人材
続いては1つ目のパターンと似ていますが、主催がどこであれ、講師のみ外部の専門家というパターンもあります。例えば私がこれまでに経験したケースだと、連続講座の主催者である中間支援組織の職員を伴走支援役とするといったことがありました。市民活動センター等の中間支援組織は通常業務としてNPOの相談支援などを行っていますが、その組織の運営主体によってはまったくNPO支援の経験や知識がないまま配属されるケースもあり、NPO支援の経験を積むというニーズがあります。そこで私が講師として研修の設計を受注していた案件において、受講団体に対して担当がつくような形で中間支援組織の職員さんにも研修プログラムに参加してもらう形式をご提案しました。研修の実施目的自体を受講するNPOへの研修だけでなく、職員の育成との二本立てにして、各回の集合研修の前後に各職員さんの担当団体への伴走の様子や振り返りを行いながら進めていく、という設計を実施したことがあります。

パターン③講師な内部・外部どちらも有り、伴走支援役は外部人材
3つ目のパターンは、NPO支援に関心のある方にボランティア・プロボノとして伴走支援役を務めてもらうというケースです。受講団体に伴走支援役をつけることができれば個々の団体に対してより手厚い支援をすることができ、NPO支援者を目指す方としても学びながら支援経験を積むことができるので良い形ではありますが、現場の私のようにフリーランスで講師を依頼される立場で、ボランティアとして第三者を招き入れるというのはなかなか気軽にできることではないので、NPO支援者育成に関心のある研修プログラム主催者がいれば実施は可能、というところでしょうか。

以上、本記事ではNPO支援者を育成するための実践的な場としての「伴走支援型の連続講座」について考えてみました。NPO支援者を育成するという観点で連続講座を企画したい方(自組織の職員のNPO支援力を高めたい、NPO支援者を増やしたい)や既存のNPO向けの連続講座の中にNPO支援者育成の要素も取り入れたい方などいらっしゃればぜひご連絡ください。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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NPOコンサルや伴走支援者になりたかった数年前の私のような方に向けて仕事をする中で感じたことや考えたことを書いています。 支援者育成やNPO支援の仕組み化などに取り組んでいくために、もしいいなと思ってもらえたら、サポートしてもらえると嬉しいです。