お・と・う・と / 歳の離れた弟との再会
2000年9月1日に他のサイトへ掲載した原稿を加筆修正しました。
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父は4回結婚している。
つまり、3回離婚している事になる。
3回目の結婚の時に男の子が生まれた。突然弟ができた。私とは12歳年が離れている弟が。
最初は戸惑った。歳の離れた弟に対して、どう接したらいいのか、全く分からなかった。
いくら歳が離れていても、一緒に暮らしていると、弟は自然と懐いてくる。私が部屋でレコードを聞いていたり、本を読んでいても、ちょこちょこ闖入してきた。そして一緒に風呂に入ったり、一緒にテレビを観たり… することになった。
弟はテレビ番組と食べ物は同じようなものだと考えていた。だから自分の好きなテレビ番組は1人で見たがる。なぜなら、2人で見ると30分の番組が15分で終わると思っていた。
私がスペインへ行く前、1975年の夏、アルバイト休みの日曜日にはよく公園で弟と一緒にサッカーをして遊んだ。だから今でも公園でサッカーをしている親子を見たら、弟の幼年期を思い出してしまう。弟の事を思い出す度に出てくるイメージも公園でサッカーをしているイメージが多い。
残されて寂しくなると感じたのだろう、私がスペインに行く時に弟は「行くな!、行くな!」とごねていた。
私がスペインへ行った後、家の近所のバス停にバスが止まる度に、弟は私がそのバスに乗っていて今日は家に帰ってくるのかと何度も何度も母に尋ねたそうだ。
スペインから闘牛の絵葉書などを何度か送ってやったりもした。弟も何度か手紙をくれた。しかし1年ぐらい経つと、弟から返事の手紙が来なくなった。
もう小学生だし、多分友達と遊ぶので忙しいんだろう、私はと思っていた。
そして2年後、私がスペインから日本へ一時帰国した時、家に弟はいなかった。
私が日本を出てから1年ぐらい後に父と母は離婚し、弟は母に連れられて家を去っていた。
やってられんなぁ~!
バス・ドラムの響きが印象的な《The Weight / ザ・ウェイト》が遠くから聞こえてくる。
スペインへ行く前、ザ・バンドの『Music from Big Pink / ミュージック・フロム・ビッグ・ピンク』をよく聴いていた。
ぎっしり詰まったアメリカン・ルーツ・ミュージック風の音楽もいいが、ボブ・ディランが描いた絵を使ったジャケット・デザインもなかなかいい。子供が描いた絵みたいだが、不思議な味があって見ていて飽きない。
地味だが名曲揃いのアルバム。中でもレコードではA面最後の曲《The Weight / ザ・ウェイト》はずっしりと心に響く。
レヴォン・ヘルムのゴツゴツとした語りかけるようなボーカルとやるせないコーラス。そしてそこはかとなく漂う重苦しさ。まさに生きてゆくために誰しもが背負い続けねばならない "重荷" のような曲だ。
弟の記憶とザ・バンドの物悲しくもやるせないサウンドは知らないうちに完全に結びついていた。
『The Band / ザ・バンド』や『Stage Fright / ステージ・フライト』、『カフーツ / Cahoots』など、どのアルバムからもザ・バンド独特の渋くて重いチョコレート色をした、腹にズシンと響く「やってられんなぁ~!」的なサウンドが金太郎飴のように出てくる。
その後、弟とは約16年後にパリで再会した。
大きくなっても、昔一緒にサッカーをしていた頃と同じ表情だったので、心の中で少し笑ってしまった。