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こじれた話は座らない #010 《私的な物価推移考》

1971年の春から高校一年生になった。

大阪市阿倍野区にある、工芸・デザイン・美術系の少し専門学校的な高校に通っていた。

一年生、二年生の時の担任の先生は京都芸大の日本画学科を卒業して間もない、年にして27歳ぐらいの若い男の先生だった。

その先生は学校の近所の町中華の二階に狭い部屋に住んでいた。六畳に毛が生えた程度の広さの、多分階下の町中華の厨房の影響だろう、少しばかりジメジメした部屋だった。

その先生とは妙に馬が合い、連れと一緒に放課後に何度か先生の部屋へ遊びに行ったことがある。アトリエ兼用だったその部屋は散らかし放題。日本画の画材や本などがいたるところに散乱している、独身男性らしい?部屋だった。

それほど裕福な生活を送っていた先生ではなかったが、どういう風の吹き回しか、おいとまする時、下の店でラーメンでも食って帰れと自分と連れに100円づつ握らせた。

先生の好意に甘え、自分と連れは下の町中華で100円のラーメンを食べて帰ることにした。

それは町中華風のシンプルな醤油ラーメンだった。トッピングは焼豚ではなく薄いハム、ナルトにメンマ、そして少量のもやしと刻みネギ程度の質素なラーメンだった。

100円で食べたラーメンはこんな感じだった。
しかし具はもっと少なかったと記憶している。

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では現在、一杯のラーメンの値段はいくらぐらいなのか?

ここ数年、外でラーメンを食べる機会がほとんど無かったので、その一般的な値段がどれぐらいなのか、全く検討がつかない。

とりあえずネットでラーメン(豚骨醤油)の価格推移を調べてみると、2021年の全国平均価格は約600円らしい。しかしウクライナ紛争が始まった2022年から全国平均価格は異常に高騰し、2024年には約670円に達しているそうだ。

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自分が高校一・二年生の頃、ハイライトと共に人気のあったタバコ、セブンスターは一箱100円だったが、今の値段は600円。

つまりラーメンとタバコはここ50年ぐらいで共に値段は約6倍程度アップしていることになる。

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ではそれぞれの中身、質について考えてみる。

自分が高校生の時に100円で食べた町中華の醤油ラーメンと今の醤油ラーメンを比べてみると、スープ、トッピング共に今の醤油ラーメンの方が進歩・進化しているように思える。

しかしその進歩・進化に伴い、典型的なB級グルメだったラーメンは驚くほど高級化・洗練化しつつあり、値段もA級化してしまいそうだ。

果たして近いうちにラーメンは1000円の壁を超えるのだろうか?

ラーメンの進歩・進化は止まらず、下手をすると高級料理にもなりかねない勢いだ。まぁ自分が知らないだけで、すでにラーメンは"高級料理に堕落"しているのかもしれないけど…

変化を厭わず、高級化・洗練化(これが正しいのかどうかは別問題)などに努めたラーメンの平均単価がここ50年で約6倍アップし、ウクライナ戦争が始まる2022年まで全国平均で約600円になっても、それはそれで納得できる。

なぜならラーメンの価格は"物価上昇+質的向上"によるものだから。

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話は逸れるが、ここ50年でラーメンほどバリエーションが増えて、変化し続けた料理は無いだろう。

同じ中華・炭水化物系でも炒飯はにはここまでの変化はない。同じ麺類の蕎麦やうどんにもそれ程の変化は見えない。

ひょっとしてラーメンに何とか対抗できるだけの変化等を遂げた麺類はスパゲッティぐらいかもしれない。50年ほど前、一般的に知られていたのはナポリタンとミートソースぐらいだった。

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ではタバコはラーメンのように進歩・進化したのだろうか?

答えはシンプルに否だろう。

正直言って50年前のセブンスターと今のセブンスターに何ら大きな違いは感じられない。そこに質的な向上は感じられない。

タバコの価格推移は"物価上昇+質的向上"によるものではないだろう。

タバコの価格上昇はタバコの質的な向上によるものではなく、単に税収を増やすためだけのセコい手段に他ならない。

つまりその価格推移は"物価上昇+税収向上"によるものだと思う。

タバコ業界の方は「ワシらも電子タバコを開発したり、色々努力しとるんじゃ!」とおっしゃるだろう。

確かにユーザーに新たな喫煙スタイルを提供した点においては、タバコの質的向上ともいえるかもしれない。しかしこの電子タバコの開発・販売も結局は新たな税金徴収装置の導入に他ならないだろう。

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ラーメンのようにその価格推移が"物価上昇+質的向上"によるものなら認めるのが、タバコのようにその価格推移が"物価上昇+税収向上"によるものは認めたくない。

原材料が値上がりすると、それが商品の価格に反映されるのは当たり前だが、その上昇した価格の中にはある程度の質的向上が含まれているべきだと思うけれど、如何なものか?

タバコだけではなく酒類なども含め、税収向上だけの値上げほど阿保らしくも難儀なものはない。ほくそ笑んでいるのは"税収向上教"を頑なに信じる財務省だけだろう。

自分は精神衛生上、"税は国に払うもの"、とは思わず、"税は国にくれてやるもの"、だと思うようにしている。

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屁理屈だらけのこじれた話はこの辺で。あほらし屋も阿呆らしすぎて鐘を鳴らすのを忘れてしまいそうだ。

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おまけの曲は吸いたい気分になる"名"にして"迷"な一曲。タバコに関してあえて苦言を呈したのは、自分は愛煙家の味方だから。

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