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夜のパリでタクシーに乗ると無料で付いてくるもの
2000年10月13日に他のサイトへ掲載した原稿を加筆修正しました。
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我が社の営業部員たちは会社支給のタクシーチケットを "リーサル・ウェポン" と呼んでいた。つまりそれは終電を逃した後、帰宅する為の "最終兵器" という事だ。
確かに "リーサル・ウェポン" を使えば家まで帰れる。しかし少し残念なのは、せっかく深夜のタクシーに乗っても美しい夜景が楽しめないことだ。
大阪の歓楽街、ミナミの宗右衛門町あたりで飲む事が多かったので、流しのタクシーを拾うと、夕陽ヶ丘から高速に乗って、大阪南部の自宅へ帰るのだが、タクシーの窓から見えるのは派手な電照看板やネオンばかり。殺風景な風景が続くだけで実に味気ない。これは大阪だけではなく、東京や名古屋でも多分同じだろう。
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パリに住んでいた頃(厳密に言うと、パリから少し離れた郊外に住んでいた頃)、仕事の後に仲間たちと遅くまで飲んだ時はタクシーで帰った。
住んでいたのはパリの中心部から車で約20分程度の所。タクシー料金は約2,000円ぐらいだった。自分のポケットマネーで十分支払える程度の金額だ。
日本と比べてずっと安いパリのタクシー料金もありがたいが、パリで夜にタクシーに乗った時、一番ありがたくて素晴らしいのは、パリの美しい夜景がもれなく無料で付いてくることだ。
フランスでは看板やネオンなど屋外広告物に対する規制が厳しいので、街並は昼間も十分美しいが、夜景はもっと美しい。
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肌寒くなった初秋の頃、深夜にタクシーで帰宅する時、その帰路は夜景を楽しむナイト・クルージング、"Paris by Night" に一変する。
タクシーの窓から目に入るのは、オペラ座、ルーブル美術館中庭のガラスのピラミッド、コンコルド広場とオベリスク、アレクサンドル3世橋、アンバリッド、そしてエッフェル塔 … どれもが美しくライトアップされ、闇夜に眩い姿がくっきりと浮かぶ。
そして澄み切った夜空には秋月。
月まで泳ごう
ムーンライト・ドライブ
突然ピアノと蛇のように絡みつくギターの音が聴こえてくる。
若くしてパリで客死したジム・モリソンの歌声が聴こえてくる。
そう、ドアーズの《Moonlight Drive / 月光のドライヴ》が聴こえてくる。
ドアーズの傑作アルバム『Strange Days / まぼろしの世界』に収録されている《Moonlight Drive / 月光のドライヴ》はドアーズ結成のきっかけとなった名曲。
Let's swim to the moon
Let's climb through the tide
Penetrate the evening that the
city sleeps to hide …
月まで泳ごう
潮の流れを昇ろう
街が隠れるために眠る夜を
突き抜けよう…
今夜はちょいと寄り道してジム・モリソンが眠るペール・ラシェーズ墓地に立ち寄るか …
それはいつ頃からだろうか? 深夜にタクシーで帰宅する時、この曲が頭の中で自動的に再生されるようになったのは …
ドライバー、今は話しかけないでくれ。静かにジムの歌声を聴かせてくれ。
自分だけに聴こえるドアーズの《Moonlight Drive / 月光のドライヴ》。
音楽が終わったら、ライトを消そう。