後記「第3回 特許の鉄人(第1試合審査員)」(株式会社知財塾)
サマリ
【他の登壇者】
出場者:谷 和紘 氏(プロフィック特許事務所 代表弁理士)
出場者:田村 良介 氏(ライトハウス国際特許事務所 代表弁理士)
審査員:甲斐 哲平 氏(弁理士法人 武政国際特許商標事務所)
解説:鮫島 正洋 氏(弁護士法人 内田・鮫島法律事務所)
解説:奥村 光平 氏(弁理士法人 IPX)
プレゼンター:勝間 康裕(株式会社アールシーコア)
【テーマ】
世界の発明対決「薪割り機」
概要
リアルタイムでクレームを作成する。
その様子を同業者に一部始終覗かれる。
終いには、投票により勝敗を決められる。
普段、「審査基準」等の画一的な基準と、「クライアントとの関係性」という自己努力でコントロール可能な指標によって評価される弁理士の成果の代表格がクレームであろう。
それを、第三者がそれぞれの価値基準(要するに好み)で勝敗を決する。
特許の鉄人とはそんな気が狂ったイベントである。
僕は、前回大会(2020年)で敗者になったとこにより、審査員という役割が回ってきた。
僕の負けっぷりは、ちざたまごさんがブログ「特許の鉄人第2回 現地レポート 〜特許クレーム作成は、いかにしてエンタメ化されたか〜」に残してくれているのでこちらを参照されたい。
選手としての経験を思い出しながら、谷さん&田村さんのクレーム作成の様子を見ていて、勝敗が決した後には、「ようこそこちら側の世界へ」という気持ちになった。
雑感
25分でクレームを作成するということ
前回から3年以上経過したが、会場もレイアウトも同じ。
審査員席から当時を思い出していた。
「25分の短さ」にフォーカスされがちだが、このイベントの厳しさは、時間の短さではなく、制限時間と対戦相手の存在にある。
打ち合わせで即興クレームを書くこと自体はよくやる手法だろう。
だが、その即興クレームはあくまで「たたき台」である。
クライアントの要求を外していれば直せば良いし、隣に座っている弁理士に仕事を持っていかれることはない。
今回は、一度書き上げたら直せない一発勝負。
その相手は隣にいて、時間制限がかかっている。
この状況が手を震わせるのだ。
スピードスター谷
このイベントは、スピード競争ではない。
早く書き終えた方にプレゼンテーションの順番の選択権が与えられることを除けば、制限時間をいっぱいに使って、直す余地のないクレームを作るべきだ。
速さは一切加点するつもりはなかったが、それにしても谷さんは速過ぎた。
おそらく半分以上を残して終えていただろう。
しかし、僕が惹かれたのは速さ以上にクレームの美しさだ。
いわゆる「構造系」の発明をElement-by-Elementで書き上げる。
発明特定事項を過不足なく書き出せば、クレームから図面が起こせる。
ソフトウェアであっても、構造系であっても、僕の理想とするスタイルだ。
その理想形を谷さんのクレームに見ることができた。
僕は、後述するように田村さんに票を投じたが、プレゼンテーション前までは谷さんに入れるつもりだった。
想像だが、実物を見ながら構成要件の名称が吹き出しで浮かんでいたのではなかろうか。
それを上から順にただ箇条書きにしただけ。
谷さんは、速く、美しく、それを簡単にやってのけた。
唯一の事業会社系審査員として重視したかったポイント
採点基準は、以下の3つだった。
(観点1)発明のポイントを抽出できているか?
(観点2)従来技術との差異を出せているか?
(観点3)ビジネスへの有用性はあるか?
発明が構造物であったこと、お二方の実務力の仕上がりが高いことから、観点1と観点2には差はなかった。
普段の実務であれば、メインクレームにおける用語の選定や不要な限定事項の有無が気になるところであるが、審査員席から見ると、実はそこはあまり気にならなかった。
僕は、審査員の中でも唯一の事業会社側の人間(というか、普通、事業会社の人間はこのイベントに出場しないんだろうけどw)だったので、開始前から、ビジネスへの有用性を重視すると決めていた。
しかし、はっきり言って「ビジネスへの有用性」は判断不能だ。
出題の中にビジネス文脈の話が含まれていなかったからだ。
したがって、僕は、「有用性」ではなく、「感度」だけで判断することにした。
逆転ホームラン
審査員からの質問を振られたときに、僕から投げた質問は「ビジネスの有用性の観点でコメントはありますか?」というものだった。
これまでずっと田村さんが最初にしゃべっていたので、最後くらい谷さんに先にしゃべってもらって、条件を合わせようと思った。
谷さんからは、「どのようなことを考えてメインクレームを建てたか」という話がなされた。
良い意味で予想通りの回答だった。
クレームを見るだけで狙いが分かるクレームだったからだ。
田村さんもクレームの建て方の話から入ったが、その中で一回だけ、「マーケティング」という言葉が混じった。
僕は、最後の最後、この一語で田村さんに投票することにした。
少なくとも僕にとって、「ビジネス感度」を感じるワードだったからだ。
田村さんに先に振っていたら、このワードが出たかどうかもわからない。
試合終了後に田村さんと話していたが、「僕からの質問があって挽回できた気がする」とおっしゃっていたし、これも巡り合わせなんだろう。
投票結果はたしか3票差。
僕の一票は10票分だったから、「マーケティング」という一言が勝敗を分けたことになる。
むすび
通常の案件で分割出願でもしようものなら、谷さんは田村さんのクレームを書いていて、田村さんは谷さんのクレームを書いていたりするのかもしれない。
クライアントと定期的にミーティングを重ねる中で、当然にビジネスの話が出るだろうし、自分の建てたクレームがいかにクライアントのビジネスを助けるものかを説明されるだろう。
それでもあの一瞬で勝敗をつけなければならない、というのはとても酷だ。
勝った田村さんはあちこちから祝辞を送られるだろうから、僕は負けた谷さんに送る言葉で締めたい。
敗者は実は美味しいのだ。
結構、みんないじってくれるし、決まって「私は◯◯さんに入れたけどね」といわれる。
よく考えると、「実は、特許の鉄人で勝ちましてね」ってちょっと言いにくいんだけど、「いやー、前回負けちゃってさー」は言い易い。
谷さん、ようこそ、こちら側の世界へ!
第4回大会でまた「審査員の葛藤」を味わって下さい!!
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