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Karte.159 「私は寂しい」所感と考察

まえがき

山田が動き始める回。
山田のソロ活動がメイン描写されるのは久しぶりで、前回は半沢さんデート回だったと思います(単行本11巻Karte.141)。次回まで引っ張るのは初めてなので、今までより大きく山田にフィーチャーしていく雰囲気が出てきました。サブタイトルもまた山田視点に替わってます。

登場人物は前半が市川と山田。後半が山田、おねえ、ニコちゃん、陣くん。前半は市川と山田のお泊り回に一旦区切りが付き、ここまでの流れを踏まえて学校生活に戻った様子が描かれます。そして後半は『これからこの面子で恋愛話します!』で終わっているというお預け構成です(笑)。

本稿ではまずKarte.159を前後半に分けて、前回までの流れを受けた市川と山田の変化、そして次回への状況整理を書いていきます。また考察部分では山田に見られる変化と、僕ヤバにおける人称についてをピックアップします。



全体の流れ

ざっくりと流れを書いていきます。

  1. 山田と市川が図書室で会話中

  2. PrimaryCOLOR(おねえのバンド)解散の話題

  3. 君オクドラマの話題

  4. 市川の心理状態の変化

  5. おねえのバイト先へ場面転換

  6. 変装した山田が1人でおねえに会いに行く

  7. バンド解散の話

  8. ニコちゃん登場

  9. 山田、おねえ、ニコちゃんで恋愛話開始(予定)

1~4が前半、5~9が後半です。

前半パート

概略

市川と山田のお泊り回に一旦区切りが付きます。日付が変わり、また学校生活に戻りました。そんな中Karte.156で市川の言った『これからは気を遣わず会いたいとかしたいこととか言うようにしよう』から始まる前回までの流れを踏まえて、市川と山田の様子に若干の変化が現れます。ここではそんな2人の様子と変化したポイントついて触れていきます。

市川の様子

変化したポイントは2つです。

  1. 勉強時の集中力が増した

  2. 山田に自分の欲求を言えるようになった

1ですが、市川は山田のことばかり考えてしまう状態のほうが集中力が上がるようです。正確にはそれに気付いた、変化というより元に戻った感じですね。夏休み後の模試の結果が良かったことを考えると、山田と会えないストレスよりマシって話ではなく明確にパワーアップするようです。これは正直自分には分かりません。今だって僕ヤバのことばかり考えてると仕事捗らないです(笑)。だからなるほど、市川はそういう性質なんだなと。

ちなみにこれ、個人的に結構重要なポイントです。というのも自分は『もし市川が山田とエッチしてしまったら、受験に失敗する』と考えてます。その後はもう勉強が手につくわけないって意味ですけど、ここへ来て(市川ってそうじゃないのかも)(むしろ超パワーアップするかも)と思い始めたので、いやどうなるんだろうと……(笑)。

2は、好意を伴う欲求のことです。順番に行きましょう。まず君オクドラマ開始の情報。自分から『観たぞ』とは言えない市川。でも山田に話を振られて要求を察したらちゃんと乗る。加えてまた金髪にして欲しいって話もする。ここです。
Karte.140のラブホキス回(単行本10巻)以降、山田の要求を察して応えることはできても、自分の欲求を伝えることは中々できなかった。例えば山田の仕事に関わるようなビジネスライクな部分は言えるんだけど、自分の好意、もっと言えば恋愛・性欲に関わる部分は言えなかった。どんな水着が好みとかもそうでした。バックハグしたり胸持ち上げたりしてようやく言えるようになったんだなと……辿々しいというか、初々しい感じだけど!


変化したポイントは以上で、ここからはそれ以外の様子です。

おねえのバンドについては山田の言う通りドライな対応。市川なりに思うところはあるのかもしれませんが、表面上は見えません。ここはさらっと行きます。

そしてなんだか妙に落ち着いてます。山田の下着姿を見ておっぱいタッチ未遂まで行ったのに、普通に会話もしてる。邪推をすればこの直前にトイレ行って今は賢者タイム中じゃないかとも言えるんですが、とりあえずそれは置くとして。

山田と進展があった後の市川って割とこんな感じになりますよね。割と普通。割と平常心。変化に慣れるのが早いって感じることがあります。その辺について自分なりに考えてみましたが、まだまとまってないので今回はまだ触れません。とにかく落ち着いて会話できる状態です。


山田の様子

変化したポイントは1つです。

  1. 図書室に普通に入ってる

Karte.155では我慢してたのでそのままですね。誰かに見られそうになったら素早く逃げる態勢を取りつつ、市川と2人で会話することは我慢しない。個人的には結構大きい変化だと思ってます(後述)。

それ以外の様子だと一応平常運転というか、君オクドラマの感想を回りくどくおねだりして、市川自身の感想を聞きたいと追い込んで、金髪についてもはっきり言葉にさせようとする(笑)。

一応触れておくと山田はドラマ撮影当時、金髪にしたことを随分気にしてました(単行本9巻)。どうも山田は『市川には真面目な女の子が似合う』みたいに考えているフシがあるらしく、金髪は市川に嫌がられるかもと思ってたようです。Karte.118ではすぐに帽子を買って隠そうとするし、Karte.121ではいつもはしないリボンを制服に付けて『真面目なフリをする』と言っています。

ただ読者は知っての通り、これは山田の誤解です。市川は文字通り言葉を失うほど金髪の山田を可愛いと思ってます。その思いががここへきてようやく伝わったということで、山田もめちゃくちゃ嬉しいだろうし『もっと言って!』ってなるのも無理はない。

ひょっとしたら事務所に対して『もう金髪はちょっと……』とか言ってドラマPRで困らせてた可能性があるかもしれないし、逆にこれからその機会があってまた金髪にするかもしれません。して欲しいです。

最後に、おねえのバンドについては結構思う所がある模様。これは後半パートで出てきます。

市川にも山田にも変化はあったけど、山田はまだ寂しさを感じている。サブタイトルの通りです。


後半パート

概略

山田がおねえのバイト先に突撃。変装までしてかなりアクティブになってます。バンド解散を聞いて話に来たとのことですが、最後の展開を見るとこれほどアクティブになる理由が他にもある様子。

そしてニコちゃん再登場。前回は市川邸に居た理由が明かされないままでしたが、どうもおねえに付きまとって1か月くらい経ってるんじゃないかという感じです。

このパートは山田、おねえ、ニコちゃんの三者会談が始まるという次回への引きなので、登場人物の顔見せと簡単な状況説明がありました。キャラごとに書いていきます。


山田

おねえと直接話すために変装してバイト先へ突撃。山田がこれほどの積極性を見せたのは、市川へのアプローチ以外では初めてだと思います。単純に劇中描写が無いだけというより、まえがきにも書いた半沢さんデート回(単行本11巻Karte.141)や普段の態度を見ても、友人に対してはここまでやらないってことだと思います。

というわけで程度問題として、どうも市川との現状に『かなり』思い詰めているんじゃないかと感じました。暴走とは言いませんが、結構思い切った行動かも。

そしておねえのバンドPrimaryCOLORとその曲『つづく』への思い入れを語ります。まぁ山田の告白に対する市川のアンサーソング的な曲になってるし、ああいう思い出もあればなぁ。

そしてニコちゃんが登場、やっぱり山田は芸能界事情を絡めた恋愛の話をしたがってることが分かります。山田視点だと、今の悩みを相談できる相手って確かにこの2人になるんですよね。芸能界のことを知ってる先輩と、市川との事情を知ってるおねえ。読者視点だとおねえもニコちゃんもだいぶ怪しいんですが。

おねえ

まず思ったのが、大学行って就活やってインターン行ってバンドやってバイトもやってるんですよね今。凄すぎるんだけど(笑)。

山田の話を聞いて『自分らの愛の歌を』って反応してるあたり、市川からその辺の事情は全部聞き出したんでしょう。Karte.120の最後かな。市川も全部話すんだなってところがやっぱシスコンだよと思うんですが(笑)、そういう意味でも山田にとって信頼できる大人なんでしょう。

とはいえ、おねえもまだ学生です。以前Xにこんなことを書きました。

おねえは相当ハイスペックで一般常識もあります。それらを駆使して、恋愛関係は未経験ながら山田の相談に乗りつつニコちゃんをどう交わすのかが次回の見どころだろうと勝手に思ってます。

ニコちゃん

おねえとの出会いから1か月程度だと思うんですが、直近では週5で会いに来てたそうです。市川邸にも普通に寝泊りしてます。バイト先に来たのは今回が初めてっぽいので場所を聞き出してたんでしょう。なんか普通に大学にも行ってそうですよね。
こいつ、ただのストーカーじゃないかっていう疑惑。
夏合宿前に山田グループ&市川へ声かけたあれを思い出しました(単行本9巻)。もう1度おねえに会おうとしたとき、変装してあの調子で声かけたのかもしれない。それがあったから今回おねえは山田にめっちゃビビったのかもしれない。まぁ分かりませんが……。

ニコちゃんについてはKarte.158の所感に書いたのが全てです。引用します。

市川にとっては絶対に交際バレちゃいけない相手ということです。こいつが危険すぎることだけが疑いようのない事実。

困ったことに、個人的にはどんどん好みになっていきます……豚野郎……。


全体の所感

最初に書いた通り、前回までの整理と一区切りがあって、新たな展開の導入シーンという構成でした。

面白かったのが山田の変化です。色々あって、今はこんな風になったんだなぁという。他にはやはり演出というか表現手法の部分が興味深かったです。
というわけで別項を設けて、それらについて考察していきます。


考察① 山田の変化について

自分が僕ヤバを読むときに気を付けてるのが、原理原則とそれ以外を区別することです。変わらないのが原理原則。
例えば以前『山田の行動原理の1つは"京太郎を幸せにしたい”』という考察を書きました。これが原理原則です。きっと変わらないもの。
他方では変わるものもあります。これは市川を見れば一目瞭然ですね。そして市川の場合は主に成長という形を取りますが、別にそうとも限りません。単に変わることだってありますし、現実にはそっちの方が多いと思います。

では山田はどうなのか。成長と言わずとも変化があるのか。11巻からは特にそこが描写され始めたと感じています。ここでは特に2点ピックアップします。


市川との交際を隠したいのか?

今の山田って市川との交際をオープンにしたがってると思うんですよ。Karte.27では『秘密にしてた方が楽しいと思う』と言ってたんですけど、もう変わったんじゃないかなぁ。

理由は2つあって、1つ目は実際そうしてみたら楽しくないことが多かったですよね。市川と会えない位ならオープンにしたいって考えてそうです。理由の2つ目は市川が自慢の彼氏だから。11巻から続いてるし今回の話にも出てましたがあの自己顕示欲、むしろ皆に『市川京太郎は凄い男です! 私の彼氏です!』って言う方が山田の気質に合ってると思いませんか(笑)。

実際、Karte.144のフラモブ回ではそういう気持ちになってたことを話しました。その後も同じ気持ちが見え隠れします。事務所方針が厳しくなって以降も、バレても構わないと思ってそうな素振りを見せます。

それでも基本我慢してるのは市川の意向があるからだと思います。山田って市川のためなら親に嘘をつくじゃないですか。今まで1回も嘘付いたことないのにっていう、これも変化の一つですよね。市川のためだったらかなりの所までやる。事務所の言うことに逆らっても市川の言うことには従う。特にKarte.154で市川が泣いてギブアップしたのは大きいでしょう。市川の負担にはなりたくないはずですし、市川の願いは出来るだけ叶えたい。ここは原理原則です。変わらない。

Karte.156でのセリフはそれがあっての話だと思います。私は本音を言う。めちゃくちゃ我慢して学校でも会わないよう頑張ったけど、本当はもっと会いたいって、だから結構思い切って言ったんじゃないかなと。いつも市川の願いを叶えたくて、時には無理してでも聞いてきた山田にとっては初めてのことだったかもしれません。

というわけでそれらを経て、今は具体的な『じゃあどうするか』にシフトしつつあると思うんですよね。それが図書室へ入ったことや、後半のアクティブな行動に出てるんじゃないかなぁ。


彼氏の影響を受ける女

こっちは細かい話ですし、文字通りの話です。皆さん気付いてるとおり市川っぽい言葉遣いやムーブが増えてます。彼氏の方言が移ったりするあれと一緒でしょう。元々アクセサリー揃えようとしたり、服も黒が多めになったりと合わせたがる傾向があったので、これからも影響受けるんじゃないでしょうか。
現実だとこういうところから交際バレするんですけどね、匂わせとか言われたり(笑)。


以上、山田に見える変化について書きました。個人的にはこういう部分がマンガのキャラっぽくないと感じるところの1つなんですよね。分かりやすい枠に嵌まらないというか、常に揺れ動いてて、時には矛盾だって抱えてるキャラ。だからこうしてディティールアップすると更にリアリティが増してくるよなぁと思ってます。


考察② 山田視点が増えた理由と人称の話

これはサブタイトルの山田視点とは別の意味合いで、Karte.155の所感と考察で言及した話の続きです。まずはKarte.155の所感と考察から引用します。

(単行本11巻について)山田の内面がブラックボックスになっていることは先に書きましたが、ここまで長期間にわたって意図的に匂わせつつ隠されたのは初めてのことです。
(中略)
あるいはもっと単純に11巻の反動のごとく、この先の12巻収録分は山田のことが見えやすくなった山田のための話になるのかもしれません。

上記考察でも言及しましたが、僕ヤバの人称はメインが市川の一人称、サブが山田の三人称というバランスです。これが細かく切り替わります。この辺はマンガという媒体の特性だと思うんですが、今はライトノベルにも波及してますね。一般小説だと、パッと思いついたのは村上春樹の『海辺のカフカ』が章ごとに人称が切り替わります。

人称が変わると描写できる範囲が変わります。例えば市川の一人称では山田が1人でおねえのバイト先へ行くシーンを描写できませんよね。というわけでこれまでにも市川の一人称ではどうしても描き切れない部分が、山田の三人称で描かれてきました。修学旅行での入浴シーンとか。
※余談ですが、それこそ村上春樹も『一人称だけでは描き切れないものがある』ということで作品内に三人称を導入したそうです

肝心なのが、このテクニックは上手くやらないと本当に読み辛くなるってことです。頭が混乱するんですよ、凄く分かり難くなる。でも僕ヤバではそういうことが全然無いですから、のりお先生はめちゃくちゃ上手いんです。使いこなせる。まずそこは押さえておきます。


今の僕ヤバは市川の一人称だけでは描き切れない部分が広がってきたんじゃないかと自分は考えています。それが山田の三人称という形で現れているのかなと。というのも今回単純に量が増えたんですよ。つまり市川のいない場面が増えた。そしてこれからもっと増えそうな感じもあります。少なくとも次回へは続きますし。

そしてそれを丁寧に、違和感が出ないよう工夫しているように感じました。モノローグの使い方ですね。作中の四角い枠内のセリフ。市川の一人称だとそのままモノローグ、つまり市川の独白になります。これが三人称だとモノローグではなくナレーションになります。分かりやすいのはアニメのちびまるこちゃん、『後半へ続く』とかのことです。

今回の冒頭『普通に図書室に来ている山田である』は、いつものモノローグと違ってナレーションに寄せていると感じました。また5ページの『そんなことを彼女に言うと』も同様です。あそこはGirlfriendってニュアンスもありつつSheでもあったと思います。それらがあって後半は山田視点の三人称に切り替わった、つまりグラデーションをつくっていたんじゃないかなと感じたんですよ。そういう工夫があったんじゃないかっていう……考え過ぎかなぁ(苦笑)。でもいつもと違うと思ったんですよね。

なので自分としては、山田視点の三人称がもっと増えてくるのかなと考えてます。先ほど書いたようにこれは難しい技術で、でものりお先生には使いこなせる技術でもあり、つまり僕ヤバの表現がまた独自に新しくなっていくのかもしれません。ここは本当に面白い所なので、是非チェックしてみてください。全然的を外してたら謝ります(笑)。


まとめ

Karte.159の所感と考察は以上です。市川の変化、山田の変化、山田視点が増えた理由、その辺りを押さえて読んでみました。

もっと短くなる予定だったんですが、こんなことになってしまいました……。
長々と書きましたがここまで読んでくださった皆様、ありがとうございます。

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