体系的「場」つくり理論シリーズ その44高度なセンシングテックを活用した「場」つくり
センシングの技術進歩はめざましいものがあります。高度なセンシング技術最前線の情報を集めながら、其れ等の技術を「場」つくりにどのように応用してゆけるかを探ってみたいと思います。
1.バイタルセンシング
サイバニクス(ロボットスーツHALで有名な山海嘉之教授が確立、脳神経科学・運動生理学・ロボット工学・IT技術・再生医療・行動科学・倫理・安全・心理学・社会科学など、人・ロボット・情報系が融合複合した新学術分野) 技術を用いて開発されているバイタルセンサー(血圧、脈波、心電、体温、血中濃度・糖度等、脳波、体組成...etc) や行動(加速度)センサーそして環境センサーの技術を融合させて、働き方や組織活動を見える化する取組が進められています。
これからは、オフィスの「場」創りにおいても、こうした「センシング」技術を利用・応用して、「人本経営」(働く人々を企業の資本とする考え方)や健康経営、知識経営、イノベーション経営..といった経営スタイルを実践支援してゆく事が総務人事部門の重要なミッションの一つになると思います。
「バイタルセンサー」は健康経営の根幹をなす従業員のコンディションを客観的に知るツールになります。
企業は、従業員の健康維持・管理の為、定期的に「健康診断」や「人間ドック」を受診させる義務がありますが、半年や一年毎の検査では充分とは言えません。
「バイタルセンサー」の中には、まるで腕時計やブレスレットのようなコンパクトで装着ストレスのない物もあります。
例えば、従業員に「バイタルセンサー」を装着してもらい、日々の体調を本人にフィードバックする仕組みを構築するとともに、「産業医」が従業員の健康モニターをして、何らかの兆候がある従業員に事前のワーニングをするような仕組みも考えてみる価値はあると思います。
また、「バイタルセンサー」は従業員個々の知的生産性向上をサポートするツールとしても活用できます。私は、それほど遠くない未来に「バイタルセンサー」を活用し、ナレッジワーカー個々の知的活動をサポートする時代が来ると思っています。
皆さんは、仕事や趣味に「没頭」した経験をされた事があると思います
好きなものや、興味のあるものに 「のめり込む」体験や、何をやっても上手くゆく体験(スポーツや音楽演奏等)は、「フロー体験」とか「ゾーンに入る」という風に呼ばれています。
このような「没我」状態に入ると、人間の内面に潜在している身体的能力や思考力・想像力という脳力が覚醒し、いつもの何倍ものパフォーマンスを発揮出来る事があります。
仕事に於いても同様です。
仕事の内容は、それぞれの職種や職務、そして仕事環境や生活環境等により様々ですが、どのような仕事でも、何か新しいもの(価値)を生み出す過程では「没頭して集中力を高める作業」が求められます。
仕事で意図的に「フロー」を創り出せれば、仕事(価値創造活動) もはかどり、生産性は高まります。
では、どのようすれば「フロー」状態に入れるのでしょうか?
一般的に、人間が「フロー」に入る時の身体的、心理的状態についての研究がなされていますから、この知見を応用して、「バイタルセンサー」からの情報(脳波や心電、血圧等の生体情報)により、自分自身の仕事コンディションを知ることが可能になります。
今までは、感覚的に「今は気分が乗らない!」とか「何かが降りてきた!」とかの感じでしかありませんでしたが、自分自身の精神状態や生理的状態を客観視できるツールがあれば、適時にフロー状態に近づける事が出来るかもしれません。
しかしながら、バイタルセンサー技術の一段の進歩を期待するとともに、倫理的な視点での議論も行なっておく必要があります。
人間のバイタル情報は究極の個人情報でもあり、その使い方(使われ方)には慎重な取扱いが求められます。
2.行動センシング
まずは行動とは? といった素朴な疑問です。(以下Wikipedia より抜粋)
-Quote-
行動(こうどう、英: behavior)は、人間を含む動物の活動や行い全般を指す言葉である。ただし、日本語の「行動」がもっぱら生物(とくに動物)に適用されるのに対し、英語の「behavio(u)r」は物体・機械など無生物の挙動・振舞いの意味で用いられることがある。
類語に「行為」(act)がある。こちらは一般に意図や目的を有する人間の活動を指すのに対し、「行動」は無意識の活動(条件反射など)も含む、より広い意味で用いられる。もっとも、両者の使い分けに関して統一的見解があるわけではなく、分野や研究者によっては互換に言い換え可能な場合もある。生物学や心理学の分野では、自由意志の問題を避けて、「行動」の語が多用されるが、社会学では「行動」と「行為」を区別して用いることが多い。
-Unquote-
また、大辞林の解説によると、
①
実際に体を動かして,あることを行うこと。実行。おこない。
②
〘心〙 〔behavior〕 外部から客観的に観察できる,人間や動物の動きや反応。 → 行為
とあります。
ここでの「行動センシング」の対象は、もちろん「人間の行動」を捕捉することを目的とするものですが、上記のように、「行動」には、「活動や行い」の側面と「行為」の側面があるようです。
社会における人間行動は、意図や目的を持つ活動ですから、「行動センシング」とは、人間の様々な「行為」を観察して、その意味合いを分析することにより、何らかの価値創造に繋がるヒントを得ることを目的とするもの、と言えます。
さて、定義は定義として整理した上で、実際的な話しをしてゆきましょう。
人間はなぜ行動し、何を目的として活動するのでしょうか。 また、様々な「行為」の意図やねらいは何なんでしょうか。
当たり前のことですが、それは、「生きる」為であり、より充実した人生を「生きてゆく」ことで、心の豊かさや充実感、達成感や幸福感に浸りたいと願う気持ちがあるからです。
組織社会における「人間行動」の原点は心の奥にある「ポジティブ心理」にあります。
私は、「行動センシング」とは、人間の身体活動を観察するだけではなく、人間の心の動きや情動の変化を観察し、組織社会(人と人との関係性が生じる環境)の中で、いかに適応ないし対処してゆこうとする人間の「行為」の意味合いを知る事だと思います。
この本質を認識しながら、実践的な方法論、つまり、センサー技術を駆使した観察データの集積と、それらデータを意味をなすアルゴリズムを設定した解析により、社員の行動が組織活動における「価値創造」に寄与できているかを知る試みが「行動センシング」の意味です。
行動センシングの事例の一つに「ビジネス顕微鏡」をご紹介します。「ビジネス顕微鏡」とは!以下J-NET21 デジ・ステーションの解説から引用
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1.ビジネス顕微鏡とは
現在、ホワイトカラー社員の生産性を向上させることが多くの企業において大きな課題となっている。しかしながら、ホワイトカラー社員の業務は、流れや実態が非定型で見えにくく、その効率を計ること自体が難しいという問題がある。
従来、ホワイトカラー業務の実態把握を行うためには、ホワイトカラー社員へのアンケートやヒアリング等の方法が一般的に採用されてきたが、被調査者の主観による部分が大きいため、結果の信頼性に課題もあった。
このような背景の中、日立製作所が開発したのが、今回取り上げるビジネス顕微鏡である。これは、赤外線センサ、加速度センサ、マイクセンサの各センサと、無線通信デバイスを内蔵した名札型の端末(センサネット端末)を社員が装着し、これを身に付けた社員同士の対面時間や動作を測定、そのデータをネットワークを通じてサーバ上に収集し、社員同士の相互影響の度合いを地形図のかたちで表示するしくみである。
ビジネス顕微鏡を使うことで、これまで定量的に把握することができなかったホワイトカラー社員の業務中の活動状況やコミュニケーションの実態が明らかになる。そうして可視化された組織活動を分析することで、仕事の進め方の効率化や組織の活性化を促進するのが、ビジネス顕微鏡の目標なのだ。
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詳細は
http://www.jfma.or.jp/award/05/pdf/paneldata07.pdf
http://seisan.server-shared.com/672/672-46.pdf
をご覧ください。
さて、この「ビジネス顕微鏡」のコンセプトは、社員間の交流頻度と相互の発話・対話の質量を一定のアルゴリズムを置いて測定し、人集団のコミュニケーションを定量分析(..知的活動の活発度を類推?)する試みです。(と、私は理解しています!)
面白い試みと思いますが、「行動センシング」の本質は、人間の身体活動を観察するだけではなく、人間の心の動きや情動の変化を観察し、組織社会(人と人との関係性が生じる環境)の中で、いかに適応ないし対処してゆこうとする人間の「行為」の意味合いを知る事!と考えると、「ビジネス顕微鏡」のコンセプトに「バイタルセンシング」を複合したハイブリッド型「ビジネス&ワークマインド顕微鏡」的なものがあると良いかもしれませんね。
3.環境センシング
「環境センシング」とはオフィス空間の「温湿度」や「気圧」彩光の「照度」や「二酸化炭素濃度」、「電気使用量」「粉塵度」の測定といった領域や、農作物生育状況モニタリング、河川や貯水池の水位監視、雨量、風速、気圧、火山活動、地盤...etcといった気象の領域があります。
ここでは、オフィス「場」における「環境センシング」の必要性について考えてみたいと思います。
「環境センシング」の目的は、自社のオフィスで働く人々が快適に仕事に取り組める環境空間と、心地良い居場所を維持管理する事にあります。
総務FMプロには「釈迦に説法」ではありますが、まだ経験の浅い担当者は「建築物における衛生的環境の確保に関する法律」通称「ビル管理法」を理解しておくことが求められます。
「ビル管理法」は、不特定多数が利用する建物 ( 百貨店をはじめとする大型商業施設や、映画館や劇場などの娯楽施設、さらにホテルや学校、オフィスビルが対象になります。しかし、病院や工場、さらに大規模マンションなどは対象外)を対象とした法律ですが、その目的はビルを安全に衛生的に管理することです。
ビルの安全・衛生と(テナントとして入居している場合は)オフィスの安全・衛生はほぼ同じ事です。
テナントビルの場合、ビル管理法はビルオーナーの責任範囲と思っている方がいるかもしれませんが、実は、テナントにとっても極めて大切な法律ですので、総務FM人は、その趣旨と内容をしっかり理解しておく事が求められます。
さて、一般的にビルオーナー側は、ビル管理法等に定められた基準に基づく環境空間や設備の維持・運用を行いますが、テナント側から見れば、その基準だけでは 必ずしも十分とは言えない事態が発生する事があります。
そこで、総務FM部門は、自社オフィス(居室) 内環境を適正かつ効率的に管理運用すべく、「環境センシング」技術を収集し合理的で実践的な対応を行う必要があります。
一例ではありますが、私が関心のある「環境センシング」の一つは、3D空間空気調和センシング、つまり、温湿度の分布や酸素濃度、Co2濃度等を3Dレベルでセンシングできる機能があります。(この他にも、様々な環境センシングの観点があります。)
4.セキュリティーセンシング
「セキュリティーセンシング」とは、「居室内の防犯監視 」 「居室内や設備機器、配管やダクト内等 防火監視」「健康被害物質(アスベスト、ホルムアルデヒド、窒素酸化物、有毒ガス等)監視」等があります。
監視を行うセンサーには、赤外線センサー、煙感知センサー、熱センサー、マグネットセンサー、ガス(有害物資検知)センサー、インフラレッドセンサー(空間センサー)、といったものがあります。
総務FM 部門は、「セキュリティーコントロール」の観点から、これらのそれぞれの特徴を認識して(必要に応じプロサービスを入れて)適切に安全・安心環境の「場」を維持管理する事が求められます。
特に、防犯・防火管理は神経を使う領域です。 オフィスや研究施設、工場等のファシリティ空間に、ITVや赤外線監視カメラ、光ファイバー、レーザーといったツールを使い、投資額を考慮しながら監視機能を高める努力は欠かせません。
一度、事件や事故が発生すると、組織内で働く人々の「人心」が揺らぎ、仕事に専心する事が出来なくなるリスクもあります。
防火・防犯対策は、防災対策と並行してしっかりと取り組むべき課題です。
事が起きてからでは手遅れです。
職場の「安心・安全・快適」な環境「場」をつくることが、そこで働く人々のクリエイティビティを支えることにもなります。
「センシング」ドリブンの「場」つくりを掘り下げてみるのも私の挑戦の一つです。
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