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究極の形づくりの仕組みを我々は理解できるだろうか?

2024年10月13日(日)

 私の研究分野は、簡単に言えば生き物などの自動的形づくりの謎を謎では無くしたいということになろうか。修士課程の時から、いわゆる反応拡散系という、一種の拡散方程式系において、非一様な模様が解として現れることに強い興味を持ってきた。拡散という効果・現象は、形がるものは壊れるという自然の摂理であって、それが模様を作り出す元となるというのだから面白い。人に伝える時には、究極のパターン形成として多細胞生物の発生過程があって、それに至る初歩的な研究をしていると言ったりする。例えば我々人間一人一人も元は卵細胞という単一の細胞から、それぞれの役割を果たす細胞に分化し、それらがそれらがあるべき場所にあって、協力しあって機能するという、どう考えても奇跡的なことがかなり安定的に起こるのであるが、その根本的な仕組みはまだよくわからないというか、全くわからないというのが現状であると認識している。

 この、究極のパターン形成に関する興味は、かなり以前からあった。そもそも、そんなことが可能なのか?という疑問すら持っていた。分裂し、増えていく細胞は、おそらく周辺の細胞との関係しかわからず、これまで分裂してきた時間的な記憶のようなものもあるだろうが、局所的な情報と、時間的な蓄積情報だけで、人間のような複雑な物を作り上げることがそもそもできるのか?もちろんこれはおかしな質問であって、実際に我々はこうして存在しているので、可能なことは確かである。が、原理がよくわからない。

 そこに、約10年前に、Kilobits というロボット群の論文が発表された。以下はその紹介動画である。

 この Kilobots と呼ばれる小さなロボットの集まりが、指定した形状を埋めるように自動的に集まる。面白いのは、個々のロボットは、周辺のロボットとの位置関係や距離しか分からない中でこれを実現していること。最初に座標系の基準となる4台のロボットを必要とするが、他のロボットは自身の位置を近傍のロボットとの通信からのみで決定する。最終的な形状を、各ロボットが知っているということと、完全にアルゴリズム的というか、全てがアルゴリズムとして記述できているという点から、生物的とは言えないようにも思う。論文タイトルも self-assembly である。

 個人的には、生物の発生は self-organization と self-assembly の混合であろうと思っていて、なんとなくもの足らないように思った記憶がある。その後、趣味的な研究として、1個の細胞から分裂を繰り返し、目標とする形状に領域を埋めるCA(Callular Automaton)が作れないかと考え始めた。図形を再現したいので、2次元の問題であり、2次元のCAとして有名なものとしてライフゲーム(Conway’s Game of Life) がある。CAとは簡単に説明すると、空間がセル状(格子状)に分割されており、それら一つ一つにセル(細胞)が有る、無いの状態があり、ある位置にあるセルが次の時刻どうなるかは、そのセルと隣接のセルの状態から決まるというものだ。ここでのクエスチョンは、そのようなCAにおいて、例えば1個のセルからスタートして、星の形をした領域を埋める細胞集団に成長するようなルールを作成できるのか?というものであり、実際にそれを実現できないかと考えていた。

 私は進化的アルゴリズムを当時の学生さんが他の研究に関連してやっていたので、ルールを遺伝子として進化させ、最終的に星形に分裂するようなルールを作成しようと試みたが、なかなかうまくいかない。悪戦苦闘しながら、完全では無いにしても、なんとなくの形状には近づくものができてきたというころに、次のGoogleの研究所からの論文発表があった。2020年のことである。実は、この件で科研費に応募していたのだが連続して落ちていた。

https://distill.pub/2020/growing-ca/

 こちらの詳細は今学生さんと調べているところだけれども、私が遺伝的アルゴリズムで実現しようとしたところを、ニューラルネットワークに置き換えたものといっておおよそ間違っていない。これは、一つの細胞からニューラルネットが学習して得たルールによって分裂し、カラフルなトカゲの絵を再現する。また、その絵を部分的に破壊しても、修復できるという物である。しかも、ウェブ上で実験できるし、そのニューラルセルラーオートマタ(NCA)の全コードが示されている。Google Scholar での引用数も、すでに191である。さすがGoogleの研究者である。

 正直、やられたと思ったが、先に書いた、そもそもそんなことが可能なのか?については、確かに可能なんだという答えは得られた。ただ、ニューラルネットがルールを学習しているとは言え、そのルール表はどれくらいの大きさかも分からないもので、基本的にはブラックボックスである点は不満ではある。ということで、元々のクエスチョンには答えが出たという気になったので、その後この研究は止まることになる。また、自身の研究の興味、方向性もまんざらではなかったという変な満足感もあった。

 数年経って今年度、新たに修士の学生さんがきてくれたので、この問題を今一緒にやろうとしている。それぞれの論文をしっかり理解し、私の中心的な研究内容であった反応拡散系の知識をこれらと結びつけてみたいと考えている。そろそろ研究者としての寿命はつきそうなので、最後にちょっと頑張ってみようかなと思っているところである。

 ところで、ChatGPT-4o にこの文章を与えて、画像を作成させたら、このページのバナー画像を作ってきた。よくわかっていらっしゃるという感じである(笑)

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