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The Gray-Scott モデル

私が研究でお世話になった、グレイ・スコットモデルについて少し書いてみよう。The をつけるかどうかだが、まぁ、敬意を払ってタイトルにはつけてみる。敬意と関係あるのかよくわからないが。

このモデルは次の形の偏微分方程式である。(KaTeX 記法というので、試してみる。ちゃんとでるかな?ちなみに、TeX記法も忘れかけていて、仕方ないのでChatGPTにGray-ScottモデルをKaTeX記法で書いてとお願いして書いてもらった。)

$$
\begin{cases} \displaystyle \frac{\partial U}{\partial t} = D_U \nabla^2 U - U\,V^2 + F \,\bigl(1 - U\bigr), \\[6pt] \displaystyle \frac{\partial V}{\partial t} = D_V \nabla^2 V + U\,V^2 - \bigl(F + k\bigr)\,V. \end{cases}
$$

U, V はそれぞれ化学物質の濃度で、それらが拡散し、反応する。この式を複雑な式と思うかどうかは立場によるが、業界では比較的簡単な反応拡散方程式と呼ばれるものの一種である。空間次元は自由に考えられるだろうが、通常1次元、または2次元の問題が扱われる。3次元の研究も少しはある。

実は、GrayとScott は先の反応拡散方程式の拡散部分を取り除いた、常微分方程式系のモデルを提案したのだが、私の分野の人は、反応拡散モデルを Gray-Scott モデルと呼ぶことが多い。これまた古い、短い紀要であるが、「Gray-Scottモデルの概要」にその辺りは少し書いた。参考にしてほしい。

空間1次元問題

空間1次元の問題については、以下に Python でのシミュレーションやコードを載せた。次のような Animated GIF を作成できる。比較的簡単なコードである。Python の実行環境を用意せねばならないが、情報はたくさんあるのでさほど難しくはないだろう。

自己複製パターン(パルス)

空間1次元の Gray-Scott モデルでは、もちろんパラメータによるのだが、このような自己複製パターン(パルス)と呼ばれるものがみられる。最初に一つの山だったものが、分裂して空間を満たすのだ。私の博士論文は、この空間1次元のGray-Scottモデルに関するものである。調べると概要はネット上にあった(PDF)。本文は国会図書館にはあるはずである。また、先に紹介した「Gray-Scottモデルの概要」には、パラメータと出現するパターンの対応関係を示した「相図(図2)」があるのでご覧いただきたい。

また、私の業績の中で最も引用数が多いのも、この問題に対する次の論文である。

Nishiura, Y., & Ueyama, D. (1999). A skeleton structure of self-replicating dynamics. Physica D: Nonlinear Phenomena, 130(1-2), 73-104.

また、空間1次元問題については、ここでは紹介しないが解析的な結果もさまざまある。

空間2次元問題

Gray-Scottモデルで代表的な?解は空間2次元問題における、次の自己複製スポット解である。

動画を見ていただきたいが、細胞分裂のような分裂パターンが見られる。動きが大変滑らかで、柔らかさを感じる。僕がこのパターンを最初に見たのは、いまから30年近く前であるが、その驚きは大変なものであった。そもそもこの問題に出会ったのは、次のScience 論文であり、空間2次元問題であった。

Pearson, J. E. (1993). Complex patterns in a simple system. Science, 261(5118), 189-192.

ここではあまり詳しくは書かないが、一般に反応拡散系でのパターン形成においては、二つの化学物質の拡散係数の差が大きい場合が多い。一方で、この Gray-Scott モデルについては、その比が 2:1 であって、あまり差がない。これは、数値計算をする時の困難さが少ないということでもある。ということもあって、当時、まだ学部生であった僕にも、簡単にシミュレーションをすることができた。

自己複製スポット以外にも色々なパターンが生じる。どういうパターンが現れるのか?これについては、次のページが秀逸である。ぜひご覧いただきたい。

また、空間2次元問題を Python で解いて、アニメ化する手順も以下に書いた。お試しください。

次のような動画を作成できる。

また、その後で、C言語で書き直すということも紹介した。そちらも、参考になるだろう。Pythonも基本的な文法で書いてあるので、C言語への変換は簡単である。

このページ(おまけ回)については、反応拡散系のシミュレーションをやってみたい人にとっては、結構豊富な情報量であると思う。あまりみられていないようだが、ぜひ活用してほしい。それなりに作るのには苦労した😌

空間3次元問題

空間3次元問題については、あまり研究がないように思う。部分的ではあるが、次の論文で少し考察した。これは、静止したパターンに注目している。

Shoji, H., Yamada, K., Ueyama, D., & Ohta, T. (2007). Turing patterns in three dimensions. Physical Review E—Statistical, Nonlinear, and Soft Matter Physics, 75(4), 046212.

一方で、さまざまなパラメータで空間3次元計算すると、空間2次元問題よりも、よりリッチなパターン形成が見られるようである。ただ、空間3次元のシミュレーションは、今の計算機でもそれなりに大変であるのと、可視化(数値データをグラフィックスとして目に見える形にすること)が結構厄介だ。

例えば、次の動画では、蛇のように伸びるものと、ディスク上に拡大する二つの形態の解が共存しているようだ。空間2次元においても、そのような解の共存があるのかよくわからないが、なんとも複雑である。

また、この蛇のような解をより広い空間領域で「育てる」と、次のような動画になる。

なんとも気味が悪い。もしも、最初に伸び出した蛇のような形状が、そのまま伸び続けるだけなら、この解は、空間を一つのロープのようなもので満たす。そうなると応用もあるように思ったが、残念ながら途中の経緯で新たな頭が生じることがあるようだ。

ただ、狭い領域では可能である。次の動画は、擬似的な球状領域内で、先の蛇状の解を成長させたものである。この蛇のボディーは、おおよそ等間隔で離れつつ、空間を満たしている。

こちらを3Dプリンターで印刷してみた。

3Dプリンターで印刷した、空間3次元Gray-Scottモデルの解

この印刷には苦労した。何度も失敗して、やっと完成したものである。

これについては、パラメータを公開しておこう。

F = 0.057, k = 0.067, Du = 2.0e-5, Dv = 1.0e-5

領域サイズは、おおよそ 0.8x0.8x0.8 であり、それを120x120x120 のメッシュで解いている。

最初、結構粗い計算をしていると書いていたのだが、 $${120^3}$$ ならばこのパターンの大きさにしては結構細かな計算だ。先ほどの、スネークとディスクが共存するのも、確かこの辺りのパラメータである。初期値の違いで、どちらが生じるかが決まっているように思う。

興味がある人は、ぜひ研究を進めてほしい。こういうのが好きな学生さんが来たら一緒にやりたいところだが、最近あまりそういう学生さんに出会いえないのである。

空間3次元問題については、初期値の置き方が空間1次元や2次元に比べて、よりシビアであるようだ。うまくおかないと、うまくパターンが生じない。その辺りは、このモデルのシミュレーションをする時の一つのハードルではある。

Gray-Scottモデルの魅力

少しだけ、このモデルの魅力を書いておきたい。

何せ簡単である。式の形も簡単であるし、途中触れたように、シミュレーションも簡単である。空間3次元については少々苦労すると思うが(例えば計算できても可視化は面倒であろう)、計算自体は単純なスキームで問題なくできる。

また、出てくるパターンが気持ち悪いw 生物的というか、なんとも気持ち悪い動きをする。言い方を変えれば、生き生きとした動きというか。とても興味深いと今でも思う。特に空間3次元の解はなんともいえない気持ち悪さがあって、とても面白い。

空間3次元の問題について、解析的な仕事ができるか?と言われるとあまりできそうにないが、例えばディスク解は、軸対象と思えるので、軸対象解として扱えば何か言えるのかもしれない。一方で、蛇のような解は、そのボディー部分が不安定化するので、その辺りが面白そうだ。空間2次元の蛇解で良いだろう。

供給のない Gray-Scott 系(おまけ)

これについては、あまり詳しくは書かない。実際、結構面白い方向性だと思ってはいるが、「反応拡散系にあらわれる樹枝状パターン」に書いただけで研究はその後進んでいない。紀要にあるように、外部からの供給項を取り除いた系において、化学物質濃度の時間積分を見ると(紀要内の関数 w)次のような樹枝状パターンが見られる。

紀要内の関数 u, v については、以下のようになる。

化学物質の供給がないために、広がって消えるパターンであるが、その積分は樹枝状パターンになる。

最後に

以前、Gray-Scottモデルの応用として、メッシュジェネレータを提案したことがある。あまり評価されなかったが、個人的には結構好きな研究だった。

Notsu, H., Ueyama, D., & Yamaguchi, M. (2013). A self-organized mesh generator using pattern formation in a reaction–diffusion system. Applied Mathematics Letters, 26(2), 201-206.

スポットがほぼ等間隔に並ぶということで、その性質をメッシュ生成に応用したものだ。

次のは完全に遊びであるが・・。

こちらは、画像処理のサンプルとして有名な Lenna の画像を持ってきて、その輝度情報でモデル中の拡散係数を変化させたシミュレーションである。先の、メッシュジェネレータでも同様の仕組みを使っているが。気味が悪くて不評である。

Mr.スポックをスポットで埋めて、Mr.スポットにしたのが以下のものであるが、これも全く受けなかった・・。

結局のところ、気持ち悪いのである😆

動画について、スポットが追従するので面白いと思ったが。もう少し長いものだと面白いかもしれないのだが・・。

さまざまな応用がありそうなw Gray-Scott モデル。今後も趣味で色々遊んでみたい。

興味深く面白い方程式である。

追記

この文章を GPT-4oに渡して、画像を作らせたのがバナー画像である。いやぁ、気持ち悪い。すごいな、AI。

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