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【報告】秋のキノコハイク(11月9~10日)

キノコ観察会を秋深まる大山で開催いたしました。今回はこばガイドと菌蕈研究所の牛島先生とのコラボ企画。参加者10名。報告は牛島先生からいただきました。お忙しい中ありがとうございます!

菌類・きのこについて、各々の生態や役割を理解し、きのこを楽しむという目的で、今回は2日間をかけて2箇所の異なる環境できのこを観察しました。

1日目のテーマ
秋のブナ・ミズナラ林に発生するきのことその生態

ブナやカエデ類は色づき始めていました。しかしミズナラはまだ青々としているものが多かったです。
林道を歩き始めて早速、道端の切り株などから生えるニガクリタケが見つかりました。とても苦いきのこです。過去に死亡事故が起きている猛毒のきのこです。平地の森のある公園にも普通に生えている種類です。伐採された木材が積んである場所では腐朽木からナラタケ、ナメコ、クヌギタケの仲間、アラゲコベニチャワンタケ、シロキクラゲなどが生えていました。朽ちた樹皮をめくってみるとナラタケの黒くて太い根状菌糸束が網の目のようにたくさん広がっていました。これはナラタケが住処を拡大するために伸ばしている耐久性のある黒い外皮をまとった菌糸です。種類にもよりますがこの菌糸束が暗闇で光ります。地面がなんとなく光っているように見えます。森の地面には無数に広がっています。
たった一つの腐朽木には目で見えるだけでもたくさんの菌類・きのこがいます。見えないものまで含めると想像もつきません。地面からはさまざまな小さいきのこが生えていましたが、とりわけ秋〜晩秋はクヌギタケの仲間であるアシナガタケ(あるいはその近縁なもの)やチシオタケ、アカチシオタケがよく見られます。腐朽木のまわりによく生える腐生菌です。これらは食用的価値はありませんが森にとって分解者として大切な存在であり、またとても綺麗なきのこです。ぜひ下からひだを覗いてみてください。

ナラ枯れの木に生えているきのこは?みんな注目

さて、ブナ・ミズナラ林の登山道を進むと、立ち枯れたミズナラにはムキタケやナメコが群生していました。

やや乾燥気味のナメコもありました

これらは11月のブナ・ミズナラ林を代表する食用きのこです。きのこの種菌を作る会社ではこういった野生のきのこを素材にして、長い年月をかけて栽培きのこ品種を作っていくのです。

クリタケ

湿気の多い沢ではロクショウグサレキン(あるいはその近縁種)の影響で青緑色に染まった朽木が落ちていました。染め物や家具装飾に使われることがあります。しかし腐朽しているから材はかなり柔らかい場合が多いので一工夫必要でしょうか。変形菌のマメホコリもたくさん見つかりました。

紅葉に合わせて変形菌のマメホコリも成熟が進む

マメホコリは、最初は橙〜ピンク色、のちに褐色となって胞子を作ります。変形菌類は材中のバクテリア(細菌)などを食べて生きています。森の中で昼休憩をとり、もう少し進んで観察をし、下山することにしました。

地衣類と関係するシラウオタケ ムーミンに出てきそうな妖精です

11月9日のきのこ一覧
ロクショウグサレキン(あるいはその近縁種)によって染まった材、ビョウタケ、アシナガタケとその仲間、ドクササコ?、アカチシオタケ、チシオタケ、ニガクリタケ、クリタケ、シロナメツムタケ、チャナメツムタケ、シラウオタケ、ベニタケの仲間などなど。

2日目のテーマ
海沿いにキノコが生えるのか?海抜ほぼ0mの海岸クロマツ林のきのこ種と生態を知る

大山を横目に、きのこを探しに海岸へ歩く

ということで海岸の黒松林を歩きました。

観察結果

クロマツと共生するきのこ

コツブタケを切ってみる

たくさん目についたコツブタケ。動物の糞とも間違えそうでした。黒松と菌根を作っています。割ってみると小さい小粒がぎっしり。紫とも茶色とも言い難い独特のグラデーションで盛り上がりました。

コツブタケの不思議

砂漠地の植林ではコツブタケを感染させた苗木が使われることもあります。鳥取県ではショウロの研究が盛んで、クロマツの苗木にショウロ懸濁液をかけて人工的に感染苗木を作り、砂地に植えられています。その苗木の周りにはショウロが生えてきます。そのショウロを見つけるべく綺麗な砂地の若い黒松の周りを探しましたが、残念ながら見つかりませんでした。条件が合っていなかったのかもしれません。

松毬から生える腐生性きのこ3種

マツカサタケ

1つ目はマツカサタケ。傘の裏が針状でお玉型の形もかわいいですね。
2つ目はマツカサキノコモドキ。柄の下方が半透明の茶色でどことなくスギエダタケに似ています。
3つ目はニセマツカサシメジ。傘も柄も薄茶色でヒダは細かくやや密、マツカサキノコモドキとは少し雰囲気が違います。
これらは腐生菌ですから、条件さえ良ければ人工栽培できるでしょう。

海岸のクロマツ林のきのこ4種
左から コツブタケ、上)ニセマツカサシメジ、中央)マツカサキノコモドキ、右)マツカサタケ

その他の腐生菌はクロマツの切り株からナラタケ(広義)、苔と関係するヒナノヒガサ、ベニタケ類やフウセンタケの仲間などの菌根菌が生えていました。

海岸の松並木を歩きながらきのこを見る

大山の裾野から頂にかけて広がる森や大地には様々な菌類・きのこが生息しています。きのこの生態、役割、可愛さや面白さを身近な道端歩きから見つけてみてください。

あとがき
きのこを知ると森を知ることができます。この森に行けばこんなきのこがあるだろうとか、逆にこのきのこがあれば大体こういう森だ、こんな環境だろうとか、季節とか条件などが想像できます。
自然界はきのこだけでなく色々な生物が絡み合って成り立っています。また絶えず変化を続けているとも言えます。楢枯れ、カエンタケの発生、サナギタケの大発生もそうです。カエンタケもむやみに駆除したりせず、遠目で見守ってほしいと思います。楢は生きている時は光合成をし、共生菌とともに成長し、枯れても今度は木材腐朽菌の栄養となり小・動物の棲家や餌となります。ビニールを巻かずとも自然に任せばあっという間に死んだ後の役割を果たし土に還ります。そしてぽっかり空いた空間にはまた植物が芽吹き、森となっていきます。人間目線で言えば食用きのこや山菜は善、毒のあるものや雑多な草は悪というふうになりがちです。しかし自然界では不要なものはないのです。人間も同じく。
自然に任せるべきところは任せ、人間が手を加えるべきところは加え、上手く関わっていける社会であってほしいと思います。

牛島先生より

キノコ観察というと、食べれるキノコを思い浮かべ、ただきのこを採取することを目的とする人が多いのですが、森を知るという目線でキノコを観察し、周りの環境をじっくりと見ることがいかに大事か牛島先生を歩くと理解いただけたと思います。キノコはいくら採取してもなくならない‥決してそうではなく、この環境を守ることで豊かな山の恵みを私たちはいただくことができるんですよね。そんな風に考えて登山道わきに見られるキノコをじっくり観察してください。また来年企画しますので、ぜひご参加くださいね。
牛島先生、報告ありがとうございました。

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