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生成AIと雲を突き抜ける視界:未来の創造力へ
AIを諦めかけた7年前のこと
今から7年前の話しです。Googleに勤める若手AIエンジニアから勉強会へのお誘いをいただきました。「誰でもできますよ!」という言葉に励まされ、期待を胸に渋谷へ向かいました。
その頃、ちょうどTensorFlowが公開され、「AIを使って画像解析を試してみよう」というテーマなどが注目を集めていました。
ところが、実際に参加してみると、そのレベルは私にとってまるで異次元の世界。「数学できますよね?」と軽く聞かれ、「え⁈できません」と答えると、冷たく「それじゃ巨人の肩には乗れませんね」と言い放たれていまいました。その帰り道、地面だけを見つめながら道玄坂を下ったあの日のことを、今でも覚えています。
あの時、AIを操るには途方もない知識やスキルが必要だと痛感しました。そして、それは自分には届かない世界だと諦めかけていました。
生成AIがもたらした視界の変化
それからたった数年後の2022年、画像生成AIの登場が私の価値観を大きく変えました。
まさか、クリエイティブ領域にいきなりAIが侵入してくるとは、夢にも思っていなかったので、それはそれは驚き、同時に慄きました。
しかし、生成AIに触れてみると、それまでのAI技術とは全く異なる性質を持っていることがわかりました。それは、「認識」するだけではなく、名前通りの「生成」する能力を備えるようになっていたのです(図1)。さらに重要なポイントは、この生成AIを操作するために、数学やプログラミングのスキルなどは不用。言葉(プロンプト)で制御できることでした(図2)。スマホでチャットができる程度の能力があれば、AIを使いこなせる時代になったのです。
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これにより、私の行動は一変しました。そして今まで手が届かないと思っていたアイデアや表現が可能になりました。
生成AIによる「新しい視点」
生成AIを使い始めて気づいたのは、これが単に「巨人の肩」に乗ることではないということです。生成AIは、自分自身の可能性を拡張するツールでした。たとえば、私は長年工業デザイナーとしてスケッチを描いてきましたが、それを3Dモデルにしたり、動きを加えたりすることは専門外でした。これまでは同僚や仲間に頼るしかなかった部分を、生成AIと創り出せるようになったのです。さらには、まだ起きていない未来をストーリー化したり、感情に触れる音楽として表現も可能になりました。専門外のデザインやビジュアル素材も思いのまま。魔法が使えるようになった気分です。
生成AIは画像生成から始まり、自然言語、音声・音楽、動画、コードなど、出力できることは日進月歩で増えており、そのスピードと質の向上も著しいです。(図3、図4)
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そもそも、ごく一部の人しか持っていなかったスキルを網羅
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2024年末現在、生成AIがアウトプットできるもの
3D化はリストに入れませんでした 今後に期待…
これは、自分にはできないことが出来るテクノロジーを得たことで、「創造する力が拡がる」という感覚に近いものでした。現在、自分にとっての生成AIは単なるツールでも、感情的に寄り添うだけのパートナーでもありません。それは、私たちが新しい可能性を切り開くための「Enhanced Companion: 拡張し合う同行者」のような存在です。
AIの出力は、私たち自身の視点を広げ、時にはそれを覆すような新しい視点です。それは「人の代わりに何かをする」存在ではなく、「私たちが届かなかった場所にアクセスする力を与える存在」だと考えています。
生成AIとともに創造するということは、新しい能力を身に付けるような感覚です。それは「補完」のみならず「拡張」そのものです。
人間とAIの関係:新しい創造の地平へ
生成AIを活用することで得られるのは、高い視点だけではありません。それは「異なる視点」でもあります。たとえば、AIが生成するアウトプットは時に予想を超えるもので、それが新たなインスピレーションを生むことがあります。また、AIが得意とするデータ分析や高速な生成能力は、人間一人ひとりの身体感覚に結びつく多様な感覚と感情を補完する形で働くと思います。
ここで重要なのは、AIはテクノロジーの一つであり、それを使うのは人間ということです。決して生成AIは、人間と対立する存在ではありません。むしろ、AIが持つスピードや分析力や創出力は、人間の能力をも拡張し、我々人間が新たな価値を生みやすくなるはずです。
生成AIとともに未来をデザインする
生成AIの登場により、私たちは自分自身の限界を超えるための新しい手段を手にしました。それは単に巨人の肩に乗ることではなく、空を飛び雲を突き抜けながら見渡せるような動的な新しい視点を得ることです。そして、この技術を使いながらも、時には自分の手や身体を使って活動をすることなど、人間らしさを見つめ直す機会も生み出すでしょう。
生成AIを通じて広がる未来の地平。その先に何を見つけるかは、私たち次第です。