玄奘西へ行く23

「これを見ろ!」
悟空は娘の持っていた籠を指差した。
中には毒蛇と毒ガエルがウジャウジャ入っている。
「こんなもの食ってみろ!たちまち悶え死ぬ。」
ウッ!八戒はたじろいだ、さっきたらふく食ってしまったではないか!
気分がわりい…吐きそうだ…八戒の顔はたちまち青ざめ、そして毒蛇と毒ガエルを山のように吐き出した。中には噛みちぎられてても尚生き、毒を撒き散らすものもあった。
ウゲエウゲエ!八戒が悶え苦しむ。
「いや!この毒蛇と毒ガエルだけではあの娘が妖怪の証拠にはならないでしょう!」
好みの娘の頭を割られてよほど頭にきたのか?玄奘は怒っていた。
アホか?こんなもの差し出すの妖怪に決まっておろうが!ほら食い物じゃ!と取ってきた果物を悟浄に渡すとさっさと歩き出してしまった。
「ふーむ解せぬ…」確かにあの娘は我らを仏僧と知っていながらナマグサを差し出した、怪しい行動である。だがあの死体はまさしく人間の物だ。悟浄は悟空に訳を尋ねようとしたが辞めた。猿がそんな事に一々答えるとは思えなかったのである。
次の日の朝、悟浄は
「3日前に立ち寄った村で聞いた噂が気になるので調べてくる。先に進んでいてくれ。くれぐれも喧嘩をせぬよう。」と言うと雲に乗って元来た道を飛んで行った。
玄奘の機嫌も治らぬまま三人は旅を始めたが、するとなんとまた別の娘が籠いっぱいの食料を持って一行の前に現れたのである。
「やあやあ!娘さん!我ら貧僧にお恵みですかな?」
ただの一日で奇跡的に回復した八戒が嬉しそうに言ったが、そこを掻き分けまたもや目が真っ赤な悟空が前に飛び出した。
「懲りずにまた来たか妖怪!今すぐ去らねば叩き殺す!」耳から如意棒を引き抜き言った。
おいおい!もうやめてくれ!やはりイカれた石猿だ!おっかねえ!
だがしかし猿は棒を振り上げた。
その時、
玄奘が右手の掌を差し出し、

唵嘛呢叭咪吽 !

たちまち悟空はペシャンコに潰れ、言葉もなくひれ伏した。

なるほど、ポーサより伝わる魔物の封印の一つ。よほどこの五指が怖いと思われる。紙よりも薄くぺちゃんこになった孫悟空はもはや言葉も発せられなんだ。
ぺちゃんこになった孫悟空に何もなす術はない。紙っぺらの孫悟空を猪八戒は拾い上げ、
「お師匠!なんてことだ!兄貴がこのようにひしゃげてしまった…」
しかしすぐ紙切れの悟空を投げ捨て八戒は娘に寄り添った。
ここで玄奘と八戒の女の取り合いになる訳だが割愛。
娘をまんまと手に入れたのは猪八戒である。その理由は不明。
玄奘は悔しがったが娘の意向もあるため強くは言えない。


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