玄奘西へ行く27

さて、半刻もすると鎮元大仙は弟子を引き連れ我が家に帰ってきた。
するとどうだろう?留守を任せた二人の童子はシクシク泣くばかり、後ろには凧糸でぐるぐるチャーシューの如く巻かれた大黒豚一匹。
ふむふむ、果たして三蔵法師は我施しを受けず庭を荒らした、この世界にだったの一本しか残らぬ人参果の木を潰して去って行った。残されたのはこの黒豚一匹…ふむふむこの恨みはらさでおくべきか?
「お前は確かに西へ向かう唐僧の一味であるか?」
そうだ!
「何故我屋敷でこのような無礼を働いたのか?」
無礼はどっちだ?仏僧にナマグサとは我らの掟を知ってのことか?赤子のなる木など諸悪の根源故ワシらが薙ぎ倒してやったのだ!あーだこーだ!こーだあーだ!
鎮元大仙は黙って聞いていたが、
「その豚を逆さに吊るせ。」
知道了!(チーダーラー)童子は豚を縛った紐の先を天井の柱へ投げ通し力一杯引っ張った。

よし。鎮元大仙は杭を片手で持ち上げると八戒のこめかみを小刀で切りつけた。血が吹き出した。

ブヒッブヒッ…豚が鼻を鳴らす。

「この血で豬紅(豚の血を固めた料理)を作れ!」鎮元大仙は自分の部屋に戻るとしばらく椅子に座り考え込んだ。

皆の者!我に続け!無礼者どもを成敗してくれる!我が地より西へ通してはならぬ!鎮元大仙は念を唱えると巨大な雲が空から降ってきた。弟子達数十人が次々と雲に飛び乗る。


その頃玄奘一行。
「八戒を置いてきてしまってよかったのでしょうか?」玄奘は気にかけていた。
「本当に共をする気なら酒が抜ければ慌てて追いつくであろう。心配はない。」
「豚より熊を共にすればよかったのだ。」
それもそうだ!
三人は呑気に旅を続ける。
時に…
悟浄は何故九回も前世の玄奘の亡骸を拾ったのだろう?そしてなぜ今回だけ天竺までの護衛を買って出たのだろう?本人もまだわかってない。ワシもわかってない。
 玄奘は 金蟬子という釈迦牟尼の弟子の転生した姿だと言う。彼は人間として自力で天竺に経典を取りに行く事で徳を積み仏界に戻れるのかもしれない。
何度も同じ事を繰り返すことによってなんらかの特異点が生まれ、観世音菩薩の介入が始まったのかもしれない。
と、あれこれ考えていると、急にあたりを雲が覆った。
悟空が身構えた。
雲の中から声が聞こえる。
「我が屋敷の宝物の大木を倒したのはそなたたちかな?」
雲の中から鎮元大仙が降りてきた。
やば

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